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第42話『僅かな空と、木偶の由来』

 壁面に覆われた鉄格子の間から

 みえる"僅かな空"…

 

 彼女はいつもその狭い外の景色を

 黙ってみていた


 何かの儚い望みを叶えるでなく、

 明日の天気を占うだけの空虚な

 日々が…。時間が過ぎていく…


 自分に罪があったのだろうか?…等

 と考える暇も無く、"生まれてきた"

 罪は、確定し、牢の中で…


 眼の光は消え


 優しかった家族は自害し、慣れ親しん

 だ従者は、すべて逃げられずに殺され

 …。受け入れることの出来ない待ち人

 のいない絶望と現実は、やがて…


 どこか、実感が伴わない無常の

 境地へと自分を誘っていく


 気づくと…


 飢えてふらつき…気を失い…

 死にかける寸前


 牢獄は、新勢力の内部闘争の真っ只中…


 その凄惨な内ゲバと、物資調達の為の

 過度な略奪、従わない者への放火や

 みせしめの投獄。街や村、田畑の荒廃…

 治安の悪化…。追い打ちをかける重税

 

 結果…。怒り狂い武装した民衆や貧しい

 下級兵士等に襲撃され…。囚人は開放…


 逃亡出来なかった彼女は、貴族の生まれ

 のお姫様…。綺麗な金色(こんじき)の髪を持つ希少

 な奴隷として相場より、かなりの高値で

 売られていた…


 生きる意味や希望など無い。家格の高い

 家に生まれ落ち、何の罪かも知らされず

 に捕まり…売られ、流れて…


 自分を裏切らない天をみつめて

 生きてきた



 所有者が替わる中、彼女は不器用で

 簡単な雑用すら満足にこなせず…

 口下手で、愛想も悪く…

 趣向品としても不出来であると認定

 され、その価値は下がり続け…


 人の形をした余り物、

 "木偶"と呼ばれていた


 このような存在に成り果てた身でも、

 好きな人は好きらしいが…

 その想いは長くは続かない…


 何故なら彼女は他の人間に対して

 好意をみせることは皆無で、

 それを素直に出してしまう…。だから、

 相手は経過と共に萎えるだけで…


 飽きる、もしくはその不感症ぶりに

 失望して、手放すことを選ぶ……



 だが…。今回は、だいぶ事情が違う…


 彼女の容姿がムラの主の娘に似ている

 から…。という理由で、買われた


 そして何故か彼女を奴隷から平民として、

 雇い入れ、給金を与える…という、よく

 わからない"待遇"もついてきた…


 でも…。望むものは、もう何もない…


 何もいらない…

 世を捨てた…


 天をみて、何も望まないことを誓い…

 不思議と…。ほんの少しの力を得た


 それは…


「明日は曇りから始まり、お昼過ぎには

 晴れになる…。外れたら、ごめん」



 ★



 ブルーノが帰ってきた。いつもより

 重い足取りだ


「あ~。疲れたぁ~…。身代わりさんは

 楽でいいよねぇ~。なぁ~んてね…。

 嘘よ。ウソ…。冗談だから…」


 彼女は「ああ、よいしょぉ~…」と

 掛け声を出して寝台の二段目に上がり


「お~い。今日はどうだった?…

 何か変わったことはあった?


 嘘つかないで、

 ……"真面目に"お願い。どうぞ」


 窓際に立つウーノス、本当の名は

 元奴隷で、元貴族の姫様である

 アミス・ロッドは、ゆったりと

 振り返ると…


「お疲れ様…。今日は何もない…


 明日はずっと晴れてます。朝から

 夜までずっと…外れたら、ごめん」



「そう…。じゃっ、さっさとぉ~

 …ね?窓を閉めてくださいな…。

 こっちは外から帰ってきたから、

 もう暗い空と夜風に用はないの…」



「………わかった」



「…ねぇ。ところで、明日に

 ミール様が来るらしいんだけど…

 何かあったのかなぁ~…?


 怒られるようなことは何も

 していないはずだけどぉ~…

 ちょっと不安…。ミール様…

 すっ…ごく、怖いから…


 今日は寝れないかも……」



「……そうですか?ミール様は

 お優しい方ですよ…」



「ほぉ…。このことで意見が

 合わないとは…。意外だぁ~


 …なんで、そう思うの?」



「……さぁ?

 理由は…。考えていないので」



「……………はぁ~???」



「………ねぇ。平民さん?」



「なに…?…お金なら絶対に貸さないよ

 …。利子を付けるなら別だけど…」



「そんなことじゃない…。私ね…

 ここに来てよかった…」



「ん?………あっ、そう。こっちは

 別にそうでもないけど…。どこで

 だって、やることは同じだし…」


 ウーノス…"アミス"は、

 ブルーノに構わずに、


「…………よかった。私は…

 いいことがあったの……」


 と純粋無垢な様子で、

 感想を述べた


「はぁ…。そーですかぁ~…

 あんまり興味ないけど…

 よかったんじゃなぁ~い…

 ミール様に、報告しておこうか?」



「………だめ。内緒で」



「は~い。それではぁ、私は報告を

 まとめて休みまぁ~す…。


 そんで、もし夜になって眠れなかった

 ら"下で"勝手に寝ているかもしれない…


 実は、こっち。ミール様の次に夜が

 怖くって…。超絶寂しがり屋だから…。

 別にいいよねぇ?…ねっ?…ダメ?」



「………いいですよ。お役に立てれば」



「…最近は、歩き疲れてよく眠れている

 からいいんだけど…。明日ミール様が

 来るって言うんで、心配で、心配で

 眠れないかもね…。はぁ~…憂鬱だぁ」



「………色々と、大変ですね」



「…あのねぇ。他人事のようだけどぉ~

 身代わりさんも当事者だからねぇ~

 そこんとこ、よろしくぅ~…」



「………はい。泥土さん」



「………そっちだけで呼ばないで

 ちゃんと"平民"をつけてよぉ…

 こっちが何か、薄汚い泥人形

 みたいじゃない」



「………私のことは"木偶さん"

 だけでもいいから」



「こっちの話、聞いてますぅ~?…

 こっちは"泥土さん"だけは、

 すっごい嫌なのぉ~。


 せめて"平民さん"にして!


 今まで"平民さん"だったのに…

 急に呼び方かえないでよぉ…」



「……ごめん。つい……。ふふ、

 呼んでみたくなった」


 ブルーノは「む、ふぅ~」と息を

 吐いて調子を整えてから、


「…てかさぁ。何かここに来て

 から、"木偶さん"一番人間らしく

 感じる…。元からそうなのぉ?」



「……いいえ。さっきも言ったとおり

 ここに来て…。きっと信じてくれない

 ことだけど、いいことがあったから」



「…………今度、その"いいこと"の…

 同じことはあるの?ここで隠れて覗いて

 みようかな…?」



「…………わからない。無いかも知れない

 し。あるかもしれない…。残念だけど、

 ずっと無いかも知れない…。でも、

 いいの…。それでいいの…。それだけで」



「…………まぁ。いいことがあるのは、

 いいことって"ことで"…。おしまぁ~い


 いいですか?…"身代わり"さん」



「………うん。それでいい…

 "平民"さん」

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