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第40話『天気の人』


 馴染みある部屋の扉を小突く

 控えめなノック音


 ・・・


『長旅、ご苦労だった…

 無事で何よりだ。


 もうお前は私の立派な従者だな…』 


 セタはねぎらいの言葉を男に掛け、 

 セタの半従者的立場の長身細身、

 坊主頭の男は、


「大したことでは無いですよ…。

 五日と半日ほど…

 それほどかかりませんでした。


 久しぶりの一人旅…。こういっては

 何ですが…楽しかったですよ」



『ふぅん…まあ。それはよいことだ…。

 で、どうだった?アリーナ親子は?』



「はいっ…。二人は都会の暮らしに飽きて

 いたようで、自然が溢れる中、意外と

 その景色や空気に満足しているらしく…


 元気にやっています。

 いまのところ問題ありません。


 小川の流れる割と小綺麗な村で、

 神官もいます。フレア(商店)の

 人間もそこで商売をし、常駐して

 いるので大丈夫だと思います…。


 それと当然ですが、村の規模に合わず、

 フレア家の雇い入れた護衛は多い

 ですよ…。村の人間は経済上、

 歓迎しているようですけどね…


 まあ本来は、護衛でなく、血筋の

 "監視役"ですがね…。そこから

 逃げなければ命は取りませんよ…」



『そうか…。ひとまず安心したよ。

 あの親子には、命が惜しいのなら

 絶対に逃げるな…。そしてもう少し

 今現在の立場をわきまえて言動を

 しろ…と伝えてくれたか?』



「はい…。それは伝えるよう

 お願いしました」



『うん?…直接会ったのではないのか?』



「そうですけど…。間に別の人間がいて

 少し離れた距離から表情(かお)は見れたのですが…

 こちらの話すことを先にその人間に伝えて、

 問題なければ、その人間を介して伝える…

 という面会的な形式(かたち)で…」



『それで現状について聞いたわけか?』



「はい…。まあ、あの親子は嘘を付くのは

 苦手というより、"無理"ですから…

 嘘を言ってれば顔でわかります…


 状況は理解していると思いますが…

 まだ現実的な理解という感覚では

 無いと思いますね…。良い意味で今は

 それが作用していると言えますけど…」

 


『ふん…そうか。で、私の…

 セタ・ブルウノスの"手紙"は

 渡してくれたな?

 …なんて言ってた?』


 男は気まずそうに革袋から、ブルウノス

 村原産の真っ白な絹に包まれた麻の手紙

 を取り出すと…


「あの…それが、…ですね。

 ちょっと問題がありまして…。


 渡さないで欲しいと…。ミールさん

 から、お達しがあって、その……駄目

 だと言われて…。内容を見せられずに、

 このように…手元にあります」


 男は手紙をセタに渡し…

 セタは持っている手紙をじぃっ…

 とみてから、男に視線を戻す


『……何故だ?』



「いえ…。手紙の内容はともかく…

 その、ただの状態や安否の

 確認なら面会を通して、可能ですが、


 手紙のやりとりだと余計な情報や、

 いらぬ"情"が入って…

 その後面倒になるから…というの

 が理由だそうです」



『私の"命令"で渡すなら、構わない

 だろう?ブルウノス家はフレア家

 の配下なのか?…違うだろう?』



「そうですけど…。あそこで下手に

 ごねて揉めるよりは、こうして

 戻って報告をして…と思いまして


 すみません…。強引に何とか

 して渡すべきでした…


 もう一度行って来ます…

 内密に渡せるよう頭を使います」


 男が出ていこうとするのを

 セタは止めた…。そして目を瞑り、

 深呼吸…。苛立ちを抑える吐息を

『ふぅ~』とゆっくり吐いてからの

 沈思黙考の後、


『…………わかった。今回はよい!

 ひとまず安否と生活の状態を

 確認できたからよしとしよう。


 この件は、ミールと話す…

 休んでくれ…。また使いを

 お願いすると思う…』



「はい…。喜んで引き受けます。

 護衛も馬も、何もいりませんよ…

 この身ひとつでどこへでも行きます


 逃げる、隠れる、気配を消す

 ついでに錠を開け、物を少しだけ頂く…

 そういうのは、得意ですから…まぁ、

 

 何でもしますよ…。手紙の件、もし

 許可が下りなかった場合は、どんな

 手を使ってでも必ず渡します……」



『……そうか。まあ、頼りしているよ

 ふふふ…。その調子と台詞(セリフ)、ちょっと

 昔のお前に戻ったようで、

 嬉しいやら、悲しいやら、何とも

 言えない気持ちになるな…』



「戻ってなんかいませんよ。お役に

 立てて嬉しくて、つい、余計な

 ことを口走ってしまっただけです。


 では、セタ様、

 失礼します…。ちょっと休んだら

 と言いたいところですが、久しぶり

 に、ネムコの砂…交換しに行きます」



『いや…。たまには私がやろう…

 お前がいない間は、ディルベットに

 お願いしていたが、ネムコの世話は

 本来私の仕事だ…』



「へへっ…。なーに。いいんですよ…。

 俺は、自分で思っている以上に、

 ネムコが好きなんでしょうね…。


 コレをやらないと、何だか落ち着か

 ないんです。やってからじゃないと、

 安心して休めない…


 そんなわけで…。そこの溜まっている

 のを下に持っていきます。そのまま

 庭で交換しちゃいますよ」



『そうか……。うん。わかった。

 では、お言葉に甘えて、お願いしよう』



「はい。任せて下さい」


 男は、予備の砂箱のフタを開けて、

 使用済みの砂箱を持って部屋を出た


 セタは頼もしい男の背中を見送って

『ネムコは、私は、幸せものだな…』

 

 と呟いた


   

 ★



(セタ…。お話ししてもいいですか?)


 窓辺に立って外をみていたセタが

 振り返ると…シャーマンの女性の

 幽霊がいた


『おっ…。どーした?

 ノーラやイーシャの戻し方が

 わかったのか?』


 すやすやと眠っているネムコを

 視界に入れながらの…セタの本気

 とも冗談ともとれない発言に幽霊は

 さらり淀みなく、


(いいえ。まだわかりません)



『……そうか。で、何だ?』



(先ほど、"天気の人"に、

 話しかけられました…)



『…それは、どこの誰だ…?』



(階段前の部屋にいる"変な人"です。

 いつも窓際に立って外をみている

 …セタの真似をしている人)



『ほぉ…。そうか。つまり、

 私に似た変な人が…面白いことを

 している…。うん、興味深い…』



(それで、怒られたんです…)



『怒られた…?それはそれとして、

 お前のことがみえている、という

 ことはミアのように過去…

 死にかけたのか?』



(それは教えてくれませんでした…。

 わかったことは、天気を占う精霊を

 ほんの少しだけ扱えるようです)



『ほぅ…。精霊を扱えるとな。

 シャーマンの末裔か、何かか?』



(いいえ…違うようです。空を見ている

 内に自然とそうなっていたと、本人は

 言っていました…)



『そうか…。そんなことがあるのか

 …。まあ今度じっくりと聞いてみる

 のも面白そうだな…。ファルには

 怒られそうだが…』



(………)



『うん…?ああ、そうか怒られた

 んだよな…』



(…はい。それでその理由がこの前の

 火事の時、雨乞いをしたでしょう?)



『ああ、私が皆に言ったわけだが、

 お前の提案だったな…。感謝している』



(…その影響で、ムラの天気予報が

 外れてしまったらしいのです)



『うん…。意味がわからない。雨乞いの

 結果の雨は…。偶然では無いのか?』



(いいえ。それは精霊のおかげです。

 雨を降らせたのは精霊達です…)



『………ふぅ~ん。まあ、今さら、

 そのことに対して驚かないけど…

 黙っている必要は無かったのでは

 ないか?』



(雨が降ってくれたら嬉しいな…

 とお願いをしただけで、そのお願いを

 気まぐれに聞いてくれました。


 ですから明確な"行い"ではなく、

 これも偶然に近いものでしょうから、

 黙っていました)



『その理屈はよくわからないが…。

 雨の精霊か?雲の精霊か?に、

 感謝をする必要がある…という

 ことでいいか』



(まあ、そういうことでいいと

 思います。


 雨を降らせた精霊たちは、

 天気の人に…それを誇張して、火を

 やっつけた…。神聖なる森を助けた

 等と、自慢気に伝えたそうですよ)



『ふぅ~ん…。では、天気の人…。

 アイツは、ええと…。ブルーノじゃ

 なくて…。ウーノスは…

 火事があったときには、既に、

 このムラに居たのか?』



(はい…。そのようです)



『まあフレアの店や宿舎はあるのだから

 そこに居たのだろう…。あれほどの

 "美人"がいれば噂になるが…。今の

 ように外に出なければ誰も知らない…

 そんなところだろう』



(…………はい)



『なんだぁ…?今の"間"は…?

 私が美人だと遠回しに言っている…

 そう思ったのか?』



(………いいえ。セタは美人ですから

 それは別に嘘ではないですよ)



『………そこは素直に笑ってくれ、

 美人に生んでくれたのは、そうで

 あった母と、出会った親父殿の

 おかげだ…。私の才能や力ではない…』



(………美人は色々と辛いですよね?)



『それは本音か?それとも嫌味か?

 …まあ、お前も十分美人だから、

 色々とあっただろう?』



(はい…。魅力の無い人間の、節操の

 ない求婚を断るのが大変でした)



『ふぅ~ん。そうか…。私のとは、

 だいぶ違うな…。私は子供のときに、

 よくいじめられたものだ…。サラ

 以外の女子からは嫌われていた…


 まあ、田舎者で…。変なやつだった

 からな…私は。あえて平気な顔を

 して、堂々としていたが…内心は

 臆病の塊、ビクビクとしていた』 



(………セタ。その事象について

 ですが、はっきり言いますけど

 それは美人だから、というよりも

 "変な人"だから…ではないですか?)



『……………あ~。なるほど…。

 確かに、そうかもな…


 では撤回する。美人は関係ない。

 …で、何の話だ?』



(………忘れました。今日はセタと

 素敵なお話が出来て嬉しいです)



『そうか…。"素敵"と聞いて、

 揃った前髪の可愛い変な奴を思い出す。

 素敵さんは、元気かな?』


 "素敵さん"とは素敵という言葉を

 よく使う、絵描きのミアのことだ



(…どうでしょう?わかりません)



『まぁ、そうだな…。わからないよな

 …。戻ってきたらわかる…。うん…

 そのとおりだ…』



(ええ…。共に素敵な花びらが風に

 のって届くのを待ちましょう)


 セタはミアのことを花びらと

 形容した幽霊のセンスに、


『ふふっ…。ああ…そうだ。ふふふ…

 そうしよう』と笑いを抑えながら

 ひとつ『うん…』と調子を整え、


『で、そんな素敵な台詞を言って

 くれるお前さんの名前は…


 "花言葉"のように…。いつか、

 私に教えてくれる日が来るのか?』



(………そうですね。いつか…。

 そう…いつか、きっと……


 教えるときが来たら、教えます。

 今はまだ、その時ではありません。


 つまり…。


 "セタ"は…。誰よりも長生きをする

 "責務"があります)


 セタは"責務"という言葉に


(それは、わかっているからこそ…

 あまり好きな言葉では無いがな…)


 と憂いを込めて思いながら、


『そうか…。残念だが、未来に希望が

 持てる返答、我は感謝する…


 なんてな…。早く名前で呼びたい

 ものだ…。なぁ、ネムコ好きの…

 孤独な幽霊さん』


 と返し、幽霊は、


(…………そうですね。ネムコ好きの

 孤独な…誰よりも素敵な…主さん)


 と返した

 

 二人は微笑み…


 その後、出会いのきっかけとなった

 ネムコ達を愛おしく眺めていると、

 "優しい時間"は通り過ぎ…


 一日の終りを告げる夕暮れになっていた

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