表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/101

第3話『お邪魔な黒塗りに取り憑かれて』


『こちらは、私の家族…。

 ネムコのノーラ』


 セタは絵本作家のたまごであり、

 絵描きの女性にネムコのノーラを

 紹介した


「ネムコっ…て。あの?」


『そう。あのネムコ』


 と、口を開けて驚いている女性の

 ことなどお構いなしに…ノーラは

「あーん」と甘い鳴き声を発してから


 いつものように…女性の足もとにすり

 寄り、顔を擦りつけ…自分の所有物と

 しての匂い付けを開始した


「あはは…。くすぐったい。

 そして、温くってカワイイです。

 とっても素敵な獣ですね…」


 セタはこの絵描きの女性が

(今日会ってから何回"素敵"と

 唱えたのだろうか…?)


 と思いながら


『その行動は、ノーラの、いつもの

 気軽な挨拶だ…。

 許してやってくれ…

 

 悪い人間にはそこまでのことは

 しない。そこらへんは、人間以上に

 よくわかっている』


「はいっ…。触ってもいいですか?」



『いいけど。すでに触られているぞ…』


 とセタは笑みを浮かべながら述べ


「そう言えば、そうですね…」と

 女性は微笑んだ



 ・・・


『どれどれ…出来栄えは…?』

 とセタは屈んでから、女性が先ほど

 まで描いていた人工楽園の絵を確認

 しようとすると…


「まだ、ダメですよ…。完成には

 程遠いですから…」と絵描きの

 女性は寝転がるノーラの毛並みを

 優しく撫でながらいった


『まだ、ダメなの?…』


「少しだけならいいですけど…

 じっくりみられるのは恥ずかしい

 …です。それに、今は見ても…

 あまり…というか"殆ど意味がない"

 かもしれないです」


 麻紙は裏返しになっていて、

 見ることは出来ない


 セタは女性の殆ど意味が無い…という

 発言には特に気にせず、

『ふぅん…』と少し残念そう

 にしながら、『では、少しだけ…

 内緒で見せてくれ』といった


「はい…どうぞ…。でも、それは」

 と女性が言ったタイミングで

 ノーラは起きあがり…


 セタの方に歩いてから、革のトランク

 に敷いてある麻紙の上に登って

 セタをじぃっと、みつめた…


『絵よりも、自分をみなさい…!

 ということか?ノーラ?』とセタは

 ノーラを抱えた…


『わかったよ…。ノーラ…。少し

 残念だけど、完成品になって

 からにしよう。


 そして、私の人工楽園が

 絵本に登場したら、私とノーラも

 ついでにだしてもらおう!』


 セタの半分冗談の発言に

 女性は、


「わかりました。というか…

 題材として、"ネムコ"と…

 "セタさん"はとても映えますし、

 素敵の塊なので…

 もしよろしければ使わせて下さい」 



『え…?私が絵本に…?


 では他にも出して欲しい人間と、

 その他、素敵で愉快な仲間たちが

 いるのだが…


 早速、ムラに戻って紹介したい』



「はい。喜んで!

 "素敵"なら大歓迎です!」



『そうだ!宿ならある。私の隣の部屋

 は…今は埋まっているが、さらに隣の

 隣は空いている…。うるさい人間は

 いないから、作業するにもちょうど

 よい。…宿代なら心配しないでいい』



「えっ…ほんとですか?…

 野宿を覚悟していたので

 ちょうどよかったです」



『あ、そうだ。もし金が無いなら、ムラ

 で絵を描いて売ったらどうだ?…

 私も一枚欲しい。出来たらその

 人工楽園に私とノーラが追加している

 のを描いてくれたら、いくらでも出す』



「あっ。でも…。…それはちょっと、

 今は難しいかも…。でも可能なら、

 そうしたいんですよね」



『うん…?"可能なら"?とは』



「最近わかったことですが…

 私以外の人間が、私の描いた絵を

 みてしまうと…何でか、いつも

 邪魔されちゃうんですよね…」



『はぁ?…どういうことだ?』


 とここで、


(彼女の"影"に、何かいますね…)


 と幽霊の声がセタにささやく


『うん…。影?』


 とセタは女性の影をみる…

 特に変わった様子はない…


「あの…。論より証拠。ちょっと

 だけ絵を見てみますか?」


 と絵描きの女性がいったので、

 セタは『ああ…。ちょっと、

 待ってくれ……』とノーラを

 抱えている為、手がふさがって

 いることをアピールする


「では、私が…」と女性が裏側に

 なっていた麻紙を捲ってみせると…



『あっ…。絵が……。

 闇夜と等しく、"真っ黒"だ…』


 とセタはそのまんまの感想を

 述べた


「でしょう?…何故か不思議なモノに

 取り憑かれているのです。


 でも私が一人でいるときは、

 "普通の絵"として、フツウに

 見えているんです。


 もう…とっても、お邪魔で

 困っちゃうんです」


 と言いながらも、絵描きの女性は、

 密かな楽しみを見つけた子供の

 ように…その表情は何だか穏やか

 で…。とっても嬉しそうにみえた



 ◆



 ここから宿のシーンに戻る…


 夜にセタの自室に来訪した絵かきの

 女性の名は、"ミアトーレ"


 "ミア"と呼んで下さい、と女性は

 セタやサラ、宿に暮らす人間に伝えて

 いた。サラやクロは不思議と素敵を

 求めて各地を旅している絵描きの女性

 に興味津々で、あとで旅の話しを聞か

 せて欲しいとお願いし、ファルは少し

 だけ嫉妬していた


 ミアの部屋はクロの部屋の隣になり、

 クロは恋とは違った胸の高まりとトキメキ

 を感じながら、あまりよく眠れずにいた…


 そして、廊下に出て…

 

 廊下の窓際にある小さな椅子に

 腰掛け…。ミアの部屋のドアを

 ぼんやりと眺めていた…


 そこへミアが部屋から出てきたが、

 何やら考え事をしているらしく…


 ドアを開けっ放しの状態のまま、

 クロにはまったく気づかずに、

 目の前を通り過ぎ…突き当たりの

 セタの部屋の方に歩いていくのを

 みながら…


(ああ…。"創作者"というのは、

 これほど大変なのだろうか?)


 とミアの様子から、感想を持った


 クロは燭台の明かりが残る、ミアの

 部屋をみて、ドアを閉めて上げよう

 と思い…椅子から立って歩いた


 すると部屋の中には麻紙に描かれた

 絵が皮のトランクと床に敷いてあり、

 クロはその絵を普通に"みること"が

 出来た…


 ああ、これは"セタ"と…小さな獣

 以前の僕と同じ…


 ネムコの"ノーラ"だな…


 というのが絵の巧さから

 簡単にわかった


 クロは絵でも可愛い獣のノーラに

 少しだけ嫉妬をしながらも、見る限り

 描いてある絵の題材が、"セタとノーラ"

 だけであることに少しの違和感を持った…


(よっぽど、セタとノーラのことを気に

 入ったのかな?…それとも、セタに

 描いて欲しいとお願いされていたの

 かな?)とクロは考えながらも、


(これ以上は"勝手には"いけない…か)

 と思い、ミアの部屋のドアを閉めた


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ