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第37話『少し窮屈な状況』


 人生という理不尽不平等な遊びに、

 親切丁寧な個別教育(チュートリアル)等無かった


 どんと奴隷に近い従者の身分として

 解き放たれ、自分の持てる術を

 最大限に駆使して、何とかここまで

 生きてきた…


 死ぬまでの間、浪費の限りを尽くせる程の

 金銀財宝。…名のある絵画、希少なる書物

 資源、その他金銭的に価値のあるもの…


 その全てが、今現在のまだ若い容姿を

 存分に保っている、ミール・フレアの

 手元にはあった


 ミール・フレアはとうに涙が枯れて

 しまった表情を特に意識するでなく、

 無駄のない動きで、淡々と…


 彼女の弟が大好きだった柘榴(ざくろ)に甘味を

 加えたジュースを作り、一気に飲み干すと…

 

(私の中に"飼っている"、可愛い弟…

 どうか安らかに血肉となって下さい)


 そう告げて、自分と"同化"している

 と感じられる唯一の本当の肉親である

 今は亡き弟に捧げた


「ああ…。もう日が落ちて、こんな時間…

 時間は失った命と同じように、


 どれだけ願っても取り戻せない

 無限と錯覚させる、落ちていく砂一粒

 の連続。有限のモノ…。


 姉さんは、可愛いお前の為に…

 豊かさの為に…安心安全な生活を送る為に

 もっと頑張って、"お仕事"をしないと

 いけないわ…」


 フレア家の新しい当主である

 ミール・フレアは、二人目の養父である

 前当主を追放し、殺した

 

 彼は都合よく病気がちになり、本来予定

 していた死ぬまでの定住先である観光地

 ではなく、湖の畔にある避暑地に移送後

 "不死の治療"と称して、

 水銀を飲ませ続け…

 そのまま衰弱して苦しみながら死んだ


 今までの彼の散財を戒めるかの如く、

 質素な葬儀を済ませると、

 ミール・フレアは商会の人間に


「私は、新しいフレア家の当主として、

 そして商会を束ね導く統括者として、

 堕落を排し、愚かな振る舞いは

 絶対にしない…。

 

 私が死んだ時は、葬儀も墓石も

 いらない…。ただ屍を越えて、

 安堵を捨て、苦心惨憺(くしんさんたん)、邁進あるのみ」


 と冷徹なる覚悟と熱を込めて伝え、

 彼らはミールのことを合理主義者の

 体現であり…。商人の鑑である、と絶讃を 

 して、商会の繁栄は彼女と共に未来に渡る


 その確信をした



 ★



 宿のセタの部屋は四階にある

 そして四階の階段前の部屋に、

 フレア商会というよりミールに

 雇われた護衛役の女性が二人いた


 一人は茶色の短髪。地味な格好の

 ムラに溶け込む平民の出で立ちで

 名を【ブルーノ】


 もう一人はセタと同じ金色の長髪で

 ノーラの毛並みを模した灰色の

 ローブを着ており、

 名を【ウーノス】


 本来二人には名前は無く

 それだと不便であるとセタが

 ひとまず命名をした


 ムラでの情報収集がメインの

 ブルーノ。セタの影武者である

 ウーノスという役割だ



 そんな状況の中…


 事後報告に近かったファルの声が

 セタの部屋に響く 


「私は反対…。常に喉元に匕首(あいくち)

 突き付けられているみたいなものよ」



『…そうか?単にミールの気遣いで

 あり、私への警護の為だ…。

 経費は掛からず、アチラ持ち…。

 "害"は無いだろう』



「…知ってるでしょ?護っているようで

 セタのことを"監視"しているの…


 今までのように隠れて情報を得る

 必要がなくなっただけ…。いつからか

 はわからないけど、ずっと…

 私のことも、ムラのことも、あの女は、

 監視して情報を得ていた…。あの女は、

 会ったことも無い私のことをよく

 知っていた…」



『"あの女"ではなく、ミールだ…。

 私のムラやライト・ストーン家を支え

 ているフレア商店…。商会の大切な

 人間だ…。信用をしていない、そんな

 姿勢を示すのはお互いの関係上…

 よくない』



「…私が隣にいても…不安なのね。

 セタは…」



『そういう問題では無い…。ただ、

 私はミール・フレアの言っている

 ことも"わかる"ということだ…


 当然、ファルの言いたいことも

 わかっている…。だから問題の

 ない今は、静かにしておいてくれ』



「はぁ…。わかった。でも…

 私は"しばらく"セタと口を聞かない

 から…。傍にはいるけど…」


 悔しさを何とか自分の中で腐心して

 仕舞い込もうとしている様子の

 ファルに、セタは、


『…ああ。ありがとう。ファル…』


 といって、引き寄せて抱きしめ、

 ファルは「馬鹿もの…。さっさと

 死んでしまえ…」と胸に顔を埋め

 て、呟いた


 セタはその呟きに何も返さず、

 無言のままファルの頭と黒髪を

 優しく撫でると、


「…嘘よ。大好きだから、長生き

 して…。私の寿命を上げるから…」


 とファルが掠れた声で伝えた

 

 セタはしばらく間を置いて、

 

『ミールが…私が宿から出れば、

 護衛は不要になるかもしれない…

 とほのめかすように言っていたが


 …私はまだこの宿に居たい。家に

 いたら、ファルとこうすることも

 出来なくなるだろうから…


 迷わずに。そう、決めた。

 

 この少し窮屈な状況を…

 許してくれ』


 といった


 セタの切実な声にファルは

 コクリと頷くと、


「もっと撫でて…。もっと、

 優しくしてよ…。

 愛しのネムコみたいに」


 と囁いた


 ノーラとイーシャは寝台のいつもの

 スペースで、のの字に丸まって…


 その人間二人の重なり触れ合う様子…

 やり取りを、どこか退屈そうな表情と

 まなこでみていた

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