第36話『切っ先』
「人類最後の日。あなたはどこで
何をしていますか?
…そのような質問。お二人は、
受けたことがありますか?」
ミール・フレアがセタとファルに
唐突に言った
セタは『決まっている。ノーラと
イーシャを目一杯可愛がって、
…あとは、ムラのみんなで、
お別れの宴をして終わりにする』
ファルは苛立ちを込めて
「そんなくだらない質問は不要…
人類が最後だっていったって、
人間は必ずある"終わり"を、
後悔を残して迎え入れる、
儚い存在…
意味がないことをそれとなく
言って、物事の"本質"を歪め
ないでほしい」
と返して、
しばらく何とも言えない
沈黙の"間"が続いた
そしてその間、ノーラとイーシャは
机の上に上がり、尾を立てて、揺り
椅子に座るセタに目線を合わせ…
セタは手を伸ばして、額から背に
かけて優しく撫でて、異世界の
猫であるネムコ達の純粋無垢な
"求め"に応じた
そうしていく内に、時は経ち、
"二人"のネムコは机上でゴロンと
横になって丸くなり…
気持ちよさげに目を閉じた
「セタ…」とファルの声が、
ネムコを愛おしい目でみつめて
いたセタを呼んだ
『うん…?どうした?』
「ちょっと出てってもらえるかな?」
『うん…?ああ…。別にいいぞ』
「そう…。じゃあ、ちょっと
このお方と大切なお話があるから…
外で待ってて…。別に聞きたいの
なら聞いててもいいけど…」
『…いや。それなら、止めておく…
少し外に出たかったし…今、
ノーラも、イーシャも、
寝てしまった…。…出るよ』
・・・
そうして、セタが静かにゆっくり
と小屋を出ていくと…
ファルは先程までミールが
座っていた簡易な椅子から立ち
上がり…。一度、杖の先を床に
軽く音を出してついてから…
「ねぇ…。商会の人。ちょっと
動いたようだけど…。まだ
"ここ"にいるんでしょう?」
ミールはファルが小屋に
入ってからは本棚に背を預けて
立っていたが、セタが出ていくと…
先程までセタが座っていた揺り椅子に
腰掛けて、薄っすらと笑みを
浮かべていた
「はい…。います。いますよ…
寂しがり屋の旅の人…」
「その声。何を…喜んでいるの?」
「…わかりましたか?…実は、
揺り椅子に座るのが初めてな
もので…。この"安定しない"
…安定感。何というか、
幼い頃の記憶。童心に帰る…
懐かしい遊び心というものが
今、芽生えてしまっていて…
ふふ…。ごめんなさい…」
「そう…。"無邪気"なのね
アナタは…」
「ええ。そうですよ…。
無邪気は、悪いことですか?
…別に悪くないですよね?」
「…………」
ファルは再度、怒りを
表すように杖で床を突いた
「何をそんなに怒っているんです?…
そんなことしたら、可愛いネムコさん
達が"大迷惑"…。
目を覚ましてしまいますよ?」
「これでも、"控えめ"に…
音を出して、突いているの…」
「はぁ…そうですか。それは
どうも…で?何か話があるよう
ですが…何ですか?
私も忙しい身分なので…
セタ様ならともかく、アナタに
構ってあげる時間は、少ないの
ですよ。おわかりですか?」
「…じゃあ"さっさと"言うね」
「はい…何でしょう?」
「アナタはセタを利用するだけの
"悪い人"です…。
だから、セタの前から
永久に失せなさい。…以上、
よろしくお願いします」
「…………うぅん?……はい?
ちょっと何を言っているのか?
よくわからなかったので、
もう一度、お願いします」
「アナタ、悪い人…。嫌い。
セタの前から、消えて下さい」
「………………ふふっ♪
ふふふ…。はぁ?
なぁ~に…それ?
もしかして、アナタ。…すっ…ごく、
頭が悪いのかな?」
ミールは笑いをこらえながら、
机上のネムコに目をやり、
一度滑らかな毛を撫でてから、
「ああ…。ネムコは、ほんと…
癒やされる。可愛い……
さて…。では、
こんな"馬鹿"は放っておいて…
セタ様と一緒に、帰ると
しましょうか?」
と揺り椅子から音を立てない
ようにゆっくりと立ち上がると
ファルを見下すように一瞥して、
「ほら…。ほんとは置いて行きたい
けど…色々と可愛そうだから、
手を貸してあげる…
ムラに帰りましょう…」
「………ふざけないで!」
「…あらあら。…何を?
ふざけているのはそっち…
ほんとに置いていくよ」
「……火事があったそうね」
「………」
「ムラの人間総出で、頑張って消火を
して。結局火は消えなくて、雨乞い
をして運良く鎮火したと聞いた…」
「…それで?…私に何の関係が?」
「知ってるくせに…。火を付けた
のは"アナタ達"でしょ?」
「………はぁ?知らないわ…
何を根拠に…」
「恐らくは落雷が原因だろうと
言いながら…。空気が乾燥して
いたと言っていた…」
「………」
「ムラの人間があるはずの無い
"落雷"があったと…
わざわざ嘘を付いたのかしら?」
「………」
「そんな嘘を付く理由はないものね…
じゃあ、誰がそのように…実際に
見たような、あったような噂を流し、
出火の原因…。"誘導"をしたのか?
…誰かわかる?」
「………いいえ。その前に…
そうとは言い切れない。
突然の…予期せぬ天候の変化が
あって、落雷が本当に発生した
その可能性だって…あるでしょう?」
「……その"可能性"もあるけど…
その場合は、はっきりと、
落雷があったと言えるはず…
"あったようだ"…という
曖昧な感じにはならない」
「………ふぅ~。わかった。
で…?仮にそれが外部の人間の
犯行。やったことだとして…
何の為に?理由は?」
「………その理由は"こちら"が
アナタに聞きたいわ…
目の前にいる…"無邪気"な、
フレア商会のお偉いさんに…」
「じゃあ放火でも、火を使った後の
不始末でも何でもいいのでは…?
まあ…そういうこともあるの
だから、日頃から用心しないと、
駄目。ということね…」
「…"用心"?
………ああ…なるほどね、
わかった…。
アナタの言葉の通り…
"用心"しないといけない…
ということね…」
「そうでしょ?…用心はすごく
大事…。平和ぼけの続くムラ
には"必要なこと"でしょ?
有事の備えには、共同体として
ムラが結束して動くことと、
予め欠陥を見つけておくことが、
大切なの…。おわかり?」
ファルは間を一拍置いてから、
首を左右僅かに振り、
「だからといって…。
そんなことを平気でする人間は、
悪い人。絶対に信用できない…」
「…だったら、セタ様にどうぞ…。
アナタの口からあること
ないこと、何でも言って下さい」
「……そう。では用心すべき点について
は"伝言通り"伝えておくけど、
…アナタのことは何も言わない…
"個人的"に、アナタの話題を、
今後一切、出したくないから…」
「…はぁ。そうですか。自分の
信用のなさを棚に上げて、都合の良い
言い訳をして逃れましたね…」
「…どうとでも言って。セタは
私が守るから、アナタの汚らわしい
遠回しな用心は不要…。
そういうこと…。では、
私は"セタとネムコ"と一緒に
帰りましょう…」
「……やっぱり。そう…。私の敵で
あるアナタに…。どうしても、
触りたくないから、手を貸さない。
扉を開けるだけ…。
それでいい?」
「ええ…結構。自分で音の方向へ歩く…
…もし間違っても、伝って行けば、
辿り着くもの。…平気よ」
「…………殺したいほど、憎たらしい。
そんな人間、久しぶりに見たわ…。
お礼を言う、ありがとう…」
「…あら、そう思ったの?
では、さっさと殺しなさい…。
私は宿のセタの部屋の隣りにいる
…。逃げも隠れもしないわ」
「…それは、知ってます。
セタ様には用心の為、宿から出る
ように…とお伝えしないと、ダメ
ですね…」
「……どうぞ。ご勝手に…
でも、それはセタが
決めること。アナタじゃない」
「………はぁ~。わかった。
帰りましょう。ただ…申し訳ない
けど、"扉も"自分で開けて下さい…
アナタが出たら、私もネムコを
連れて出ましょう」
「ええ…。では、出やすいように
扉を開けておいてあげる…。
私はアナタと比べると、とても
優しいから…感謝しなさい」
・・・
ファルが杖の先を使って、扉の
位置を確認し、小屋を出ると…
すぐ後ろで、
「………いずれ、必ず殺して
あげる。その時まで、
楽しみに待っててね…」
とミールが冷淡に…
囁くようにいった
ファルはその声に「ふふん」
と鼻で笑うと、
「…あら、残念。私、待つのは
苦手なの…。二度と会わない
…さよなら」
と素っ気なく返した




