第34話『人間らしいミール・フレア』
「セタ様…お久ぶりです。
フレア"商会"のミールです」
『ああ久しぶりだな…。元気か?
もし元気がなければ、私のように
ネムコから元気を分けてもらえば
いい…』
セタの足元、いつものノーラの
毛並みに似せた灰色のローブと
地面の間を仲良くするりとくぐって…
ノーラとイーシャが出てきた
ミールは屈んで、小さな二人の
挨拶と触れ合いに応じる
「ふふ…。ちょうど元気が無かった
ので嬉しい…。うん…。可愛い…。
そして、あたたかい…ふわふわ」
・・・
"人工楽園"にて落ち合い、話す、
セタと、フレア商会の幹部ミール・
フレア
ネムコの"二人"は一通り、小屋内の
探索を終えると、棚に収納し切れずに
積まれていた分厚い本の上に各々登り、
香箱座りをして寛いでいる
セタは揺り椅子に座り、ミールは
屈んで香箱のネムコに触れながら、
「ネムコも同じだとは思いますが、
人間は"安全"を好むものです。
一部の無鉄砲な輩、向こう見ずの
連中は平気で、わかりやすい境目を
飛び越えて危険に向かうのですが、
基本…人は同じ場所を行き来する
そこが安全安心の領域であると
知っているからです」
と独り言のように言ってから、
木造りの簡易な背もたれのない
椅子に座り…手を膝に置いて、
姿勢良くセタに相対する
『……そんなことは多くの人間が
口に出さないだけで…
心のどこか底流で、わかっている。
オマエは、何が言いたいんだ?』
「私は、ミール・フレアという人間は
現在が安心である、安全である、
という感覚や発想が逆に危険である…
そのように感じ、生きています」
『………』
「"つまり"心配なんですよ…。未来が、
現在が…。常に…どこか、私の
流れている心理の"底流"で…」
『…その心配の"対象"は何だ?
ミール個人か?
フレア"商会"か?
それとも…このムラのことか?』
「………今の所、その全てです。
そこにセタ様も加えください」
『………ふん』
「はっきり言います。警護を強めて
ください…。今のままでは不安です」
『………わかった』
「私達も、良い集団であるとは
思われてはいないようですから、
常日頃から、"諜報"をして、
用心しているところです」
『………まあ、このムラと
フレア商会は一蓮托生な
ところがあるからな…』
「いいえ。一蓮托生そのものです
ブルウノス様、セタ様が…
フレア家の拠り所、"頼り"です」
『南メイガン…。(統治者である)
ライト・ストーン家に何か
あったのか?』
「…いいえ。特にはありません。
私達商人のことをよく思っていない
昔気質な方々もいらっしゃいますが…
ただ、フレア家には今後大きな
"変化"があります…」
『…それは、何だ?』
「現当主の引退と、私の会長の就任…
私ミールが、フレア家の新しい当主と
なります。
私にその気は微塵も無かったのですが、
周囲の人間は、止むに止まれず
そう動いています。動かないとダメ
であると感じたようです」
『……もう決まったのか?』
「いいえ。まだ決まっていません…
ほんの少し揉めています」
『……そうか。大丈夫なのか?』
「…大丈夫です。フレア家の為、
というよりも、私と商会の為に
働いてくれている有能な人間は
ほぼすべて、支持してくれて
いるようですし…
何の問題もありません…
現当主は既にお飾り…。日々の
多大なる浪費と女遊びでお疲れの
ようですから、とある観光地まで
慰安旅行をして頂いて、そのまま
現地で死ぬまで定住してもらいます。
そしてそのまま無事…、自分の
愚かさと無能さを悟り、引退して
くれるでしょう」
セタはしばし黙考し、重い溜息を
ついてから、
『なるほど…。まあ、わかった…。
"親子の間"でも、色々とあるよう
だからな…。問題が"少ない"よう
に…努力してくれ。
私からは、それだけだ…
それと、親父殿も同じ意見だろうが
…ブルウノス家はそれについては、
中立の立場だ。結果はともかく、
成り行きに任せる…。今まで通り
追って認める立場に変わりはない…
今後のこともあるからな…』
「はい、それで問題ありません。
ありがとうございます」
『…ふぅ。
ところで、アリーナと…
生意気なネムコ好きの息子は
元気か?あれから、便りが無い…
どうしているんだ?』
「…………実は、フレア家の中での
出来事なので、内密にしていたの
ですが…。あの親子は、ごく最近、
失踪しました」
『…失踪?。あの親子…?オマエの
お姉さんだろう?』
「いいえ。血は繋がってないのです。
現当主の弟の子で、厳密に言えば、
そこで従者から…ただ一人の肉親で
ある弟と一緒に、養子となった身分
なのです。
私は…
養父が亡くなる前に、理由あって
私から、その立場を強く求め…
縋り付くように、
現当主の養子となりました」
『………そうか』
「現在、あの親子は捜索中です。
浪費癖はあれど、悪い人では無い
ので、早く戻ってくるといいん
ですけどね…
私の大好きなお姉さん…
妹の私に、とても優しく
してくれました…
私も姉さんが結婚をしてその男と
別れた後、男の子が生まれなければ…
もう少し、多少の不自由はあれど、
私の鳥かごの中…幸せな状態のまま、
ずっと優しく出来たのに…。残念です」
『…………』
「セタ様の言いたいことはわかります。
それでも私は私の為、そしてフレア家
の繁栄の為に必死なのです…。
肉親であれど、競争に負ければ、
没落する、それが世の習わし…。
私が、養父から学んだことです」
『…………』
「現当主の兄と争い、没落した養父は、
辺境の地で、火事に遭い…殺されました
私が誰よりも可愛がっていた弟も…
同様です…
私は義父のありもしない悪態、無能
変質ぶりを広め、訴えて…裏切り
結果、養子となることに成功し…。
命が助かりました」
『……………そうか』
「セタ様…。
こんな"憐れで不器用な"
私を、助けてください…。
恩は一生忘れません」
『なぁ…ミール・フレア。…せめて、
アリーナ親子は助けてやれないのか?』
「………無理です。もう助けられません。
私を支持する商会の内部の人間も、あの
親子の今までの無茶な要求と、自覚の
ない浪費癖には、現当主のそれと同じ
ように辟易しているようで…
私も忙しい身分なので、あの親子に
時間を割いてあげることが出来ず、
教育が行き届いていないところが
多々あったようで、今は反省して
います…
何にせよ、彼らが許さない限りは、
失踪している状態が続くと思います」
『…まさか、もう、殺したのか?』
「いいえ。その"行い"は…
許可しません。
私にだって、可愛がって
もらった恩と情はあります。
とある辺境の地で、普通の暮らしを
与えられて生きてますよ…」
『どこにいるんだ?』
「言えません。というか…失踪は、
私の指示、判断では無いのです…
これを機に、当主諸共排除して
しまおう、と私の支持者がフレア
商会の為に、また、私の立場や
"未来"の為に、行ったことです。
私が聞けば教えてくれるかも
知れませんが、今のところは
会いに行く特別な理由も、時間も
ありません…
ただもしセタ様がその場所に会いに
行って、あの親子に憐憫の情を感じ…
こっそり"ブルウノス様"の村に
でも、連れ戻されたら大変ですから。
絶対に言えません…。ということに
なります」
『……言わないのなら、親父殿は知らないが
私は…セタ・ブルウノスは、"中立"の
立場から不支持、反対に回る…。
それでいいか?』
「…………………」
『あいつはネムコ好きだった…。
かなり生意気なお子様だったが…根は
悪いやつでは無い…
オマエの"大好き"なアリーナも…
無神経で、失礼極まりないやつ
だったが、同じく悪いやつではない…
"別にいいだろう…"
ミール・フレアは、優秀だ…
仮に"あの親子"が近くに居ても…
オマエがいれば、フレア商会は盤石だ…
何も心配する必要はない…
もし、アリーナ親子が誰かに唆され
オマエに歯向かい、当主の座を奪おう
とするのなら私が止める…。
オマエの才能と、人望に適うわけが
ないのだから、絶対に…止める。
神に誓ってもいい』
「………そうですか。それほど
までの熱意と、覚悟を…」
『…………』
「私は…。もう私は…自分の引鉄を
ひいてしまいました…。
前を向いて、現実と結果を肯定して
歩く以外に方法は無く、戻れません…
ですが、次代のムラの当主である
セタ様の私への支持と、支援が
永遠であるのなら…教えましょう
いや…"教えます"」
『ああ、"中立"でなく、ミール・フレアを
一生支持しよう。約束する…。だが、
アリーナ親子の生活と…命の保障をしない
場合は、永遠に許さないからな……
定期的にその場に使いを出して確認を
するから…。嘘はつけないぞ…』
「……わかりました。また後日。私の
就任式が無事…終わったら、教えます。
式典にはセタ様も来賓としておこし
ください」
『…ああ、わかった。
憐れで不器用…。そんな"人間らしい"
ミール・フレアを、お祝いしよう』
「はい…。ありがとうございます」




