第33話『扉の前』
セタのネムコの研究場である
"人工楽園"
その小屋の窓を覗く男に
ファルは聞いた
『どう?…中にセタはいるの?
それとも、誰か他にいるの?』
「……えっ、とぉ…。窓が汚くて
よく見えませんね…」
『じゃあ、私が扉を小突いて
上げる、…どこ?』
「はい、では真っ直ぐ。そして
壁から右側に伝って……
…そこです」
『……では、失礼して』と
ファルは杖を振りかぶり
ドン、ドンと扉を叩いた
「あっ…。何かが近寄って来ます
多分…ああ、ネムコと……
その後ろ、セタ?様…?」
『セタなの?』
「いいや。違いますね…」
『じゃあ…誰?』
「あっ、扉…
開くんじゃないですか?」
『………』身構え、小さく呼吸を
整えるファル
扉が僅かに開き、
「…誰ですか?」と声が聞こえた
ファルは聞き慣れない声に
(セタじゃない…)
『…アナタは誰ですか?』
「そちらこそ、どちら様ですか?
お先にどうぞ」
『……ファルです。セタの
大切な知り合いです』
「……はい。知っています。
私はセタ様の知り合いの
ミール・フレアといいます。
ご用件はなんですか?」
『…ミール。フレア…?
フレア…"商会"の人間?』
「…そうです。ご用件は?」
『セタはいるの?』
「います。で…。セタ様"想い"の、
気まぐれな旅人…。
ファルさんのご用件は?」
ミールの棘のある発言、
それをファルは無視して、
『私は、……ただセタが心配だから
"仕方なく"来て上げたの。
それ以外に何があるの?
…フレア商会の人』
「なるほど。そうですか…。
うん。非常によく、
わかりました…。
"商店"と言わないあたりが
素晴らしい…
どうぞ、入ってください」
『では、遠慮なく…。目が見えない
から、セタの近くまで誘導して』
「ええ…。いいですよ。ですが、
今ちょっとネムコを抱えている
ので、中に入って、扉を閉めて
から…で、いいですか?」
『どうぞ…。じゃあ、行ってくるから
ここで待ってて』
と男に伝え残してファルは
小屋の中に入っていった
・・・
しばらくしてから、セタが先に
小屋から出てきて、扉の前で頭を落と
して座り込んでいた男に声を掛けた
『おっ…どうした?…元気か?』
「あっ…。セタ様、終わりましたか?」
と述べてから、男はゆっくりと
立ち上がる
『うん?…ああ、まあな…
終わったというか…
う~ん…。まあ、終わったのか?』
「俺に聞かれても困ります…
とりあえず、セタ様に問題は無い
ようで安心しました…あとの二人?
…ファルさんは?
それと…ネムコは?」
『ああ、ノーラとイーシャはちょうど
気持ちよく眠っているところだ…
あとの"人間"二人は…。まあ、
ちょっと、私を除いての話し合い
があるようでな…
私だけ、出て来たわけだ』
「……大丈夫なんですか?」
『何がだ?』
「その…人間の方、二人ですよ」
『うん、まあ…。大丈夫だろう』
「二人に何かあったのですね?
ちょっと複雑そうですが…」
『そうかな?』
「セタ様は"関係ない"…という
感じでは無いようですけど…」
『まあ、いいだろう…』
「はぁ…。まあ、セタ様がそれで
いいのであれば、俺は
別になんでもいいんですけど…」
『ふぁ~…では、私はあの木の陰に
いるから、終わったら教えてくれ
二人が出てくれば、わかるだろうが…
気づかずに考え事をしているかも
知れない』
「……わかりました。その場合、
手を振って声を出しますよ」
『おっ。よろしくな…』
とセタは言ってから、歩き出し
すぐに止めて男の方へ振り返り
『……ところでひとつ
意見をくれないか?』と言った
「なんですか?」
『今のムラの警護状況をどうみる?』
「……ムラの?警護…?ですか…」
『そうだ…。甘いのか?厳しいのか?』
「いや…。その…」
『率直に言ってくれて構わない…
どうだ?』
「それは…。今のまるく上品になった
俺に言う資格は無いでしょうけど…
全然ダメですよね…。
問題が無さ過ぎて"だいぶ"ぬるく
なってます」
『そうか……。ぬるい…
やっぱりそうなんだな…』
「………もしかして、そのことですか?」
『何がだ?』
「フレア商店…いや商会の方…と
聞こえましたが」
『ああ。…ミール・フレア。お前も会った
ことがあるよな?』
「はい。客間に案内したのは
俺ですから、顔は憶えています…
見るからにやり手で、優秀そうな方
でしたね」
『そうだ…。だから、気になったの
だろう…。私のことを考えて、
ということもあるが、ブルウノス村
のことを考えての提案があった』
「そんな大事なこと、俺に言っても
いいんですか?」
『お前は、誰かに話すのか?』
「いいえ。絶対に話しません。死んでも
話しません」
『ふふん。そうだろう…。だから
話してもいいんだ』
「………信用してくれて、
ありがとうございます」
『……まあ、そういうわけで、
帰ったら親父殿に私から話す』
「…わかりました」
『…私が暗殺されたり、攫われたり、
怪我を負わされたり、そんなこと
大袈裟なこと、今まで無かった……
これからもそうであると嬉しいが
…。今後は、どうだろうな?』
「…………」
『さて。では、
私は木陰で休む…』
「……はい」
『ははっ…まあ、深く考え込むな…
それと、わかっていると思うが
ディルベットには内緒にして
おいてくれ…。こんなことを
言ってしまったら、過剰な心配で
心身疲労の故、倒れてしまうかもな』
「………はい。わかってます」
『大丈夫。深刻ではない…
今のところは…。まあ、私には
お前も、サラも、クロも、
従者のディルベットも、そして
ノーラ、イーシャもついている
心配ない…』
「はい…。セタ様…」




