第32話『そうよ…。文句ある?』
【可能ならばネムコを連れて、
村外れのセタ様の小屋に来て
ください
確かめたいこと、それと
大切なお話があります。】
・・・
『ただいま。…作業中かな?』
「あっ…ファルさん。いつの間に…」
庭でネムコの砂の交換をしていた
セタの半従者の男が立ち上がると、
塀を隔ててファルが立っていた
『ふふ…珍しく鼻歌が聞こえなかった…
何か考え事をしていたのでしょう?』
男はファルがこの村に戻るのが
今回はだいぶ早かったことを
口にするのは留めて、
「ああ…いや別にその……
特には……あっ、
それはそうと…セタ様も喜びますよ
ファルさんのこと、戻ってくるか
どうかを心配して、"今回は特に"
…寂しそうにしていましたから」
といった
ファルは『へぇ~そうなの…』と
"あえて"の照れ隠しなのか?
素っ気なく反応し、
『どう?…相変わらず、セタの
お嬢様は、暇を持て余して、
部屋でネムコと一緒にゴロゴロ
しているのかな?』
と続けた
「あっ…いや。今日、セタ様は…
村外れの小屋にネムコを連れて
向かいました…」
『………そう。だったら待てば
いいだけ。ただ、ネムコは外に
出しても大丈夫なのかな?』
「はぁ…。まあ、以前にもノーラ
の方を連れて、一緒に小屋まで
歩いて行きましたから、大丈夫
だと思いますよ…」
『ふぅ~ん。そう…。ならば何故、
そわそわと…心配そうな声を
発しているの?
…心配ならば、こっそり、
ついていけばよいのでは?』
男はファルの声が少し苛立って
いるのに気づいた
「……いや。"こっそり"というのは
あまりセタ様は好まれないので…
戻らない場合は迎えにいく程度に
しているんですよ」
『……わかった。じゃあ、私が
行きましょう!案内してちょうだい』
「"今すぐ"ですか?ちょっと、
休んでいきませんか?」
『いや…いい。今すぐ行く。
……妹さんは?』
「妹?…ああ、ええと…。多分、
セタ様が不在なので部屋の掃除を
念入りにしているはず…」
『そう…。(小屋に向かうことを)
言っておいた方がいいかな?』
「いいえ。…大丈夫です。すぐ
行きましょう…」
・・・
村を出てしばらく歩くと、
早足で歩きながらファルは
早口で言った
『その心配の理由…。何か不審な…
特別な事由があるのかしら?』
男もファルの調子に合わせて
早口で返す
「……それが。まあ、以前に
小屋に向かうなり、その後なかなか
戻って来ないことがありまして」
『それだけ?』
「いや…。今回は、届いていた手紙を
渡したら、その場で読んで、
すぐ宿を出てしまって…
しかも誰から…というのは不明で…」
『…なるほど。その手紙を書いた主が
呼び出したかも知れない、という
わけね?』
「恐らくそうでしょう…」
『でも、どうして…ネムコも一緒に?』
「さあ…。わかりません」
『手紙に"そうしろ"と書いてあった?』
「………そこまでは。多分そうだと
思うんですけど……。何とも…」
男は手紙の内容は見ていない
セタからは名前が書いていない
ことと、ネムコを連れて小屋に
向かうことのみを口頭で伝えら
れただけだ
『………"従者"だったら、もっと…
セタのことを見ておくべきね…
今回の件であれば、セタのあとを
怒られても追うべきよ』
ファルは苛立ちを隠さずに言った
男はいつものファルとは別の
顔をみて、内心驚きながら
「まだ完全な従者ではないのですが
…そうですね」と小さく返した
『………もう"立派な"従者。言い訳
しないの』
「はい…。すみません」
・・・
歩いている途中…ファルが急に
ピタリと立ち止まって
『待って…』の後に、しばし考え、
『何か最近変わったことはあった?』
といった
少し前を歩いていた男も同じよう
に立ち止まり、ファルの方へ振り
返ると、
「セタ様についてですか?」と聞いた
『それ以外でも何でも…』
「そうですね…。一週間前に
近くの森で火事がありました…
落雷に因るものでしょうけど…
まだ空気が乾燥しているので、
ちょっとした"火遊び"から
広がった可能性もあります」
『そう…。大変だったね…』
ファルは男の火事の理由の説明が
気になった。落雷…つまり雨が降って
いたのなら、そのタイミングで、
空気が乾燥しているはずはない…
『"近く"なら、燃え広がって家屋に
火が移ったりしなかったの?』
「まあ"近く"と言っても、少し大袈裟な
もので…。大部分を森に囲まれている
とは言え、ムラからはそれなりに離れ
ている場所だったので、木が燃える
以外には惨事には至らず…
ただ、消火作業は大変でしたよ…
ムラ中の人間で対応しましたから…
でもその様子は、久しぶりのムラ
全体の問題ごとの対応だったので、
一体感あり、皆必死ながらもどこか
楽しげで、お祭りのようでした」
『そう。だいぶ"呑気"な住人達ね…』
ファルは別の意味で"呑気"である
と皮肉を言ったが、同じように
平和ボケしていた男には…
ファルの"真意"は伝わらなかった
「はい。そうですね…。奴隷も普通の
住人も、警護の兵士も、そして
その時ばかりは、神官のサラ様も、
セタ様も、先頭に立って作業を
指示し、手伝っていました…
砂を撒いて火消しをしましたが、
あまり効果が無くて…
最後にはセタ様の提案で、
サラ様を中心に皆で雨乞いをして、
大雨が降って終わりました」
『そんな都合のよい"偶然"が実際に
あるものなのね…。でも、なんで…。
サラはともかく、セタまでも…』
ファルはサラが猪突猛進型なのは
知っていたが…。セタが先頭に立つ…
最前線にいる光景を思い描けなかった
そういった場合、セタは指示は出すが、
動き出すのは最後の方で…という
想像、想定を勝手にしていた
「まあ、あの二人が引き篭もっている
ことは絶対に無いでしょうね…
動き出すと決めたら、
誰が言っても聞かないでしょうから」
ファルは『はぁ~』と溜息をつき
歩き始め、苛立ちの声を続ける
『……"私達"の中心にはセタが
いるの…。ものすごく面倒で
腹立たしい…』
男は追ってファルの隣に並んで
「そうですね…」と小さく答えて
から、
「でも(その気持ちは)セタ様が
好きだから…ですよね?」
と伝え、ファルは、
『そうよ…。文句ある?
"お互い"に無いでしょう?』
と返して歩く速度を更に
早めた




