第29話『隠さない本音、隠れている愛情』
馬車の中、セタは外の様子を窓から
眺める…
乾いた冬の地の景色が変わらずに
広がり…虚しさを漂わせながら
延々と続いている
特に話すことの無い風景から
目を離して、隣のサラの横顔をみる
正面をみていたサラの顔は神官の顔
…。だが、自分への隠さない本音の部分
としての、素直過ぎる対応は、
幼い日から、何ら変わることがない
セタは、そんなサラに独り言のように、
『サラは、やっぱり
サラだな…』
と感想を漏らす
サラは気づいて、
「何だ?…どうした?…
顔に何かついているか?…」
と返した
『いや…。何でも無い…
出発の時の慌ただしさが、
どこか懐かしく思えてしまってな…』
サラは少し考えてから
「そうか…」とだけ答えた
ツレナイ感じ…
もっと何かあるはずだろう…と
セタは思ったが、今は"まだ"話す
べきときでは無いのだろう…
とサラの心中を読み、確認をする
『…とっておくのか?』
とセタ
「………ぅん。そうだ」
とサラは少し震えた声で返してから、
「寒くは無いか?…」と言って
後ろから毛布を取り出し
「用意していた…」とセタに伝えて
その毛布を自分とセタの胸までを
覆うようにして掛けた
『…ありがとう。
優しいな……』
「…………」
セタは、何も言わないサラの顔をちらと
見る……と。毛布に覆われている中、
無言のままに、手が横に置かれた
セタはその意味に気づいて、サラと
同様にして黙ったまま、前を向き、
素知らぬ顔で、その手の上に
自分の手を、騎乗の護衛にバレない
ようにそっと…置いた
そして互いに手を絡めると…
おさまりのよいカタチをみつけ…
優しく力を込めて握った…
馬車の揺れる籠の中…二人は正面を
みながら、互いの胸の内に隠れている
愛情の深さと温もりを、誰にも気づかれ
ないように、確かめ合った
・・・
前方…。騎乗の護衛のいる方向に、
懐かしい南メイガンの街がみえてきた
サラとセタの乗っているストーン家の紋章
付きの黒い装甲の馬車と護衛の姿をみて…
路面の往来人や引き連れている荷物持ち
の奴隷は脇にそれて祈りを捧げている
ブルウノス村の住人とは違い、
本山であるメイガン街の住人は信心深い
村の住人では無い行商人や旅人も、
商売の為か?自らの保身の為か、
それとも、本当に信心があって、それ
をしているのか?は、わからないが、
同じようにその熱心な行為をしている
流れるように通り過ぎる人の風景と、
時間の経過…。限られている、閉ざさ
れた二人だけの"刹那"の連続…
早く着いて欲しい気持ちと
そうでない複雑な気持ちが入り混じった
不思議な空間が…互いの淡く切ない
感情の中に、広がっていた
★
その頃、宿には威圧感のある…
長身で筋骨隆々、白髪の短髪…
大柄の客があらわれた
セタの父であり、村の長である、
土豪ブルウノス家の当主
"アル・ブルウノス"だ
セタの半従者となっていた男は
内心驚きながら…セタの所在を
端的に聞いてきたアルに
「今は不在です。神官のサラ様と共に
南メイガンに向かっているところです
…恐らく、もう着いている頃だと
思います」と返した
セタとサラが早朝に出立して、
正午前になった…。あの進行速度なら
そろそろ着いている頃だろうと男は
思い、アルに答えた
アルは低い声でわざとらしく頷いて
から、白髪の髭を触り…
男の背後…。そして入ってすぐの
階段をみた
何かを探しているようだった
(…何かお探しでしょうか?)
と男は伝えようとしたが、何とも
声を掛けにくい状況に思えて
口が動かなかった…
すると…。少女が階段からネムコの
水飲み用の木の器を持って、下りて来た
『あっ…。アルのおじ様!
おはようございます』
と元気よく声を掛けて、男とアルの
方に近寄ってきた
若干緩んだ表情にみえるアルが、
僅かに手を上げて挨拶を返すと
少女は『…セタ様の従者、
ディルベットです。今日はどういった
ご用件でしょうか?』
と臆すことなく流麗に伝えた
アルはコホンッとわざとらしく
咳払いをして、最近のセタの様子を
ディルベットに聞いた
少女は『よく食べて、よく眠って
います。少し運動不足ですが、
ときおり、階段の上り下りや、
"この前のように"私と散歩を
していますので、問題ありません』
と答えた
アルはうんうん…と頷いてから
う~ん…と唸りながら、また背後や
階段を見回した
その様子をみてディルベットは、
感づいて小声で
『"アレ"ですね?…
セタ様の部屋に居るので
案内します』と伝えた
アルはうんともすんとも言わずに
少女に案内されるまま階段を
上っていった
少女から『よろしくね』と器を手渡さ
れた男は呆然としながら、その流れる
ような少女とアルのやり取り及び異様
な光景を眺め、しばらくの間、
立ち尽くしていた




