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第2話『絵描きの素敵さん』

 少し前の話し…


 幼少期から創り上げてきた自らの物語と

 "楽園の完結"を自分とノーラに告げ、

 二人だけの約束と愛情を確認し合った後…


 ・・・


 しんみりとしながらも…どこか晴れた表情

 のセタがノーラと一緒にネムコの研究場で

 ある石造りの小屋

 "人工楽園"を出ると…


 路面に座り込み…。ぽっちゃりとした体型

 …茶髪の前髪が揃ったおかっぱ頭の女性が

 黙々と絵を描いていて…


 少し間を置いて、セタが出てきたことに

「あっ…」と気づき、麻紙を裏返しにする


 その間、ノーラはするりとセタよりも

 先に開ききらないドアから出て、路面

 の向こう側…


 絵描きの女性には気づかれない状態の

 まま…緩やかな傾斜のついた芝生にある

 大木の方へ歩いていった


「どうも…。あの、こちら…年季が

 入ってて、時間がこの場だけ止まって

 しまっている……。何というか…


 "時代に取り残された遺物"のような

 とても素敵な小屋ですね…

 ここに住んでいるんですか?」


 セタは取り残された遺物という言葉に

 苦笑しながらも、そうだよな…と

 思いつつ、


『いいや。…住んでないよ。ここは

 秘密の小屋…私だけの、人工の楽園』


 と返した


「ほへぇ~。"秘密の小屋"に、"楽園"

 とは…これまた素敵ですね。ちょ

 っと描いてますけど、いいですか?」



『はい、どうぞ…。私には、思い出と…

 "この本"以外、もう必要はないから』


 と、セタが脇に抱えていた一冊の本の

 表紙をちらとみせる



「ううん…?それは、"少年玩具"の…

 青い本だから、たぶん一番有名な…

 "海ミャーゴ"でしょ?」



『うん。そうだ…。私の大好きな一冊。

 これは子供の頃に出会った本、つまり

 は私の青春の"始まり"なんだ…』


 セタは、この絵本を読み、ネムコの化身と

 して登場した海ミャーゴから…未知の

 生物であるネムコに興味を持ち、その存在

 への探求が始まった


 すると女性は、青い本と、その本を微笑ま

 しい表情で持っているセタをみつめながら

 うるうると泣き出しそうになり…セタが

『どうしたんだ?』と訊くと、


「いいえ…その。何というか…。

 

 "私たち"が、受け継いできたものが…

 こういった形で、目の前の人の人生に

 影響を与えていることをしってしまう

 と。…嬉しくって、もう…感無量。

 

 何もいうことは無いっていうか…。すごく

 素敵過ぎて…。生きててよかったぁ~…

 と思ってしまい、何か、ぐっときてしまい

 まして…」


 と…。ぐすぐすと半泣きの状態の女性に、

 セタは、その過剰にみえる反応に困惑しな

 がら『あっ…!』と気づいて質問


『"私たち"って…えっ…もしかして、その

 絵本を作った人たちの…関係者ですか?』


 急に敬語になるセタ…

 女性は「はいっ…」と頷き、立ち上がると


「そうです!…私たちは、絵本作家の集団

 なんです。大師匠がいて、そこに弟子が

 いて…その弟子が中師匠になって、また

 その弟子が小師匠になる…


 まあ私は小師匠の弟子なので直接的には、

 まだミャーゴの制作に携わっていません


 今は師匠の教えに従い放浪して各地の

 伝承や風習、不思議なこと…。感性の

 赴くままに"素敵なこと"やモノ、対象を

 …こうして、絵を描きながら、集めて

 回っています」


 と、女性は、木炭を控えめにみせつけな

 がら、すでに涙は消えていて、はにかん

 だ表情を浮かべる


 女性は、革のトランクの上に麻紙を敷いて

 その上に文鎮がわりの手頃な石を置き、

 先程まで路面にあぐらをかいて座り込んで

 人工楽園の絵を黙々と描いていた


『はぁ~。すごい…』と裏返してある

 その麻紙を視界に入れながら感嘆の

 ため息と共にセタ…


 絵そのものは女性の"影で"、

 よく見えていなかった


「では…日が暮れない内に、

 作業を続けますね」と女性が言ったので


 セタは邪魔にならない距離まで移動し、

 女性が人工楽園を描き終えるのを、

 猫のノーラ、幽霊と共に待った…

 

 ・・・ 


 セタは木陰にてあぐらをかいて、

 ノーラはセタの両下肢の上で、鳥かごの

 中に収まるように丸まって休んでいる



 セタはふと…長くなった自分の髪を

 みて(別に何かの"区切り"でもない

 けど…)と思いながら、


『そろそろ…髪を短くしようかな?

 どうしよう?』とノーラに聞いた


 ノーラは欠伸をしてから、セタを一度

 みて、再度目を閉じた


『……まあ、どっちでもいいか』


 とセタがつぶやくと


「アナタは、切った方がいいですよ…

 きっと、似合います」


 とシャーマンの幽霊が述べた


『えっ…?』とセタが反応すると


「ばっさりとやってしまった方が

 いいと思います…。気分が違い

 ますから…。いいですよ…」


 セタは幽霊のショートカット…

 透明に近い白髪の髪をみながら


『だったら、同じくらいの長さに

 しようかな…』といった


「…はい。是非、そうして下さい」



『幽霊が、髪を切れとは…な。何か、

 こだわりとか、理由でもあるのか?』


 とセタは理由を聞いた



「……特にないです。お揃いで

 いいじゃないですか…」


 と幽霊は述べた


 セタはその返答に納得していなかっ

 たが…。妙に納得したくなる要素が

 あることに気づいた


(こいつ。少しだけ、楽しんでいる…

 喜んでいるな…)


 そうセタは思ってから…。少しだけ

 ネムコ好きの幽霊と自分との距離が

 縮まったような気がして…『ふっ…』

 と安堵の吐息をつき、


『ああ、そうしよう…』とセタが微笑み

 を交えながら答えると、


「そうして下さい…」と幽霊は述べて

 から、「絵描きの"素敵さん"…

 ちょうど終わったみたいですよ…」

 といった


 絵を描き終わったと思われる女性が

 立ち上がって…セタのいる方を向き

 控えめに手を振っている


 セタと幽霊は手を振って返した…


 セタは横に居て、自分の真似をする

 ように、一緒に手を降る

 シャーマンの幽霊の様子をチラと

 みて、何だか可笑しくなって


『ふふっ…』と笑ってから


『まるでお互いに見えているようだな

 …』と隣に漏らした


 幽霊はセタの言葉に微笑みながら、

「ふふ…。見えていても、いなくても

 気持ちが大切なんですよ」


 と返した

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