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第28話『主のいない寝台の上にて』


「明日のことを…何も考えない

 "こと"にする。


 だって意味が無いから…


 私には明日なんて無いから…

 今日がずっとあればそれでいい…


 私には"セタ"がいればそれでいい…


 だから、セタ…

 こんな街から逃げて、二人で

 暮らそう。結婚しようよ…」



(そんな無責任なことを…深刻に、

 真面目に考えて、格好つけて

 言い放ってしまった、"痛い"

 時期があったな…


 アイツは、うん…と頷いて

 微笑んでから


 "わかった。そうしよう…"


 と、その時は言ってくれたっけ……


 あの返答は、冗談だったのか?

 本音だったのか?


 今となってはよくわからないし…

 もうそんなことを言える立場では

 無いし…確認する意味もない…


 私の覚悟は決まっている…

 もう、迷わない)



 ・・・


 年末になり、サラは一日の休みを

 幼馴染であり、唯一の友人であり、

 親友である、セタと過ごす


 限られた時間だ…

 まるで牢から放たれた囚人の

 一日外出の権利のようでもある


 …が、神官である自分が、そんなこと

 を思ってはいけない。でも…。ふと、

 思ってしまった……


 それぐらい久しぶりの開放された

 一日だ…。有意義に、大切に過ごそう…



「さあ、セタ!…行くぞ!!!

 朝食はあとだ…。行きながら

 適当に食べろ!

 時間が無いんだ!早くしろ!」


 サラの祈祷後…。そのサラに朝早く

 に起こされたセタは、あくびをおさえ

 ながら、荷造りをしてくれた従者の

 ディルベットと共に玄関まで歩いた


 サラはセタを起こすと、先にさっさと

 階段を下りて、自分の荷物を取りに

 向かった


 朝に弱いセタを先に起こさないと

 効率が悪い…というサラの計算通り

 セタは眠気の残る状態のまま、サラ

 よりもあとによたよたと歩いてきた


 ・・・


 サラはすでに宿の前についていた馬車

 に乗り込んでいたが…


 セタはノーラとの少し長めの別れの

 儀式を終えて…ようやく馬車に乗り

 込んで来た…


「遅い!!!よし、出してくれ!」


 ストーン家の紋章の入った黒い装甲

 の馬車が走り出す…


 セタが馬車の窓から見える範囲で手を

 振って、従者のディルベットと

 その腕に抱かれているノーラをみる…


 サラの方も、玄関から出て来ていた

 こちらはイーシャを抱えたクロをみて

 可能な限り手を振った…


 こうして二人は忙しなく、ストーン家の

 護衛と共に、ブルウノス村を出て、

 南メイガン街へ向かった


 

 ・・・


「嵐のようだったね…。寒いから

 入ろうよ…」


 とクロが少女に、ディルベットに

 伝えると、少女は目を閉じて、


「……セタ様が、無事でありますように」


 セタの従者としての祈念を示した


 クロは(神官のサラがいるから大丈夫

 だよ…)と声を掛けようとして、

 …止めた


 そして自分の立場が果たして

 従者なのだろうか?という疑問を持った


 何というか、自分はセタの従者である

 少女と違って、売られた時の立場…

 黒髪の趣向品であり"ケモノ"なのだろう

 …と思った


(これでは、本当にイーシャやノーラ…

 ネムコとおんなじだ…


 でも…。今の僕には、

 それしか出来ないよ…)


 クロはサラの従者ではあるが、元奴隷の

 立場である為、サラのいる神官宿舎には

 入れない


 よって、身の世話をすることは

 出来ないし、その機会はない…


 結果として、同じ従者であるはずの

 少女との明確な違いが生まれている


(僕はきっと、サラのことを本当の

 意味では、守れない…


 でも、ディルベットなら、このセタの

 忠実な従者である少女なら、


 きっと、セタのことを誰よりも守って

 あげられる存在になる…。


 もっと成長したら…僕はこの少女に

 "何も"敵わないだろう…)


 クロは自虐をまじえてそう思った



 ・・・



 セタの部屋に戻ると…

 ディルベットはノーラを放し、

 クロはイーシャを放した


 少女は、ノーラとイーシャの面倒を

 みるため、セタの部屋に泊まること

 になっている


『じゃあ、僕がここで面倒をみている

 から、仕事があればやってきて

 いいよ…』


 少女は少し考えた後、

「ありがとう…。でも、眠って

 休んで下さい…」と言った



『うん?…ああ、朝早いからか…

 でもいいよ。"ここで"休みながら

 みているから…』


 とクロ


「でも…。先に"ちゃんと"

 自分の部屋で休んで下さい!

 その間、"ここで"みています!」


 とはっきりとした口調で

 ディルベットが提案した


『…………わかった。そこまで

 言うのなら、…負けた。

 そうするよ…。じゃあ、なにか

 あったらすぐに来てね…

 まあ、大丈夫だろうけど…』


 とクロは言って、セタの部屋を

 出て、自分の部屋に戻った



 ・・・



 朝食の時間…

 クロとディルベットが

 下りてこない…


 男は(何だぁ?寝坊か?


 …確かにセタ様の見送りで

 大変だったろうけどよ…。

 俺も起きてたんだぜ…)


 と心中愚痴をつき、はぁ~と

 溜息をついて階段を上がって

 いく…


 ・・・


 先にクロの部屋のドアを小突いて

 クロを起こす


 次にセタの部屋にいるであろう

 ディルベットを起こしに向かう


「お~い!…」とドアを小突くも、

 中から声は聞こえない


「おい…。勝手に入るぞ…」と

 鍵の開いている状態のドアを

 開けて中を覗くと…


 中には、"妹のような"ディル

 ベットと、二つの小さなケモノが…

 セタの寝台にて、仲良く一緒に

 気持ちよさそうに眠っていた…


 男は(どうしようか?…)と

 考えていると、


『ふぅあ~あ…。どぉーしたの?』と

 あくびをしながらの声が聞こえた


 起きてきたばかりのクロだ…


 男は(中を…)と小声でクロに

 伝えると…。クロは笑みを浮かべて


『何だ…。そういうことか…』と

 少女が、自分に自室での休養を強く

 勧めたことに納得してから…


(この場所…。大好きな主の匂いが

 残る、許可を得た上での至福の空間…)


『ねぇ…。あとでいいよ…


 今は、寝かせて上げようよ…

 今日は"主様"がいないんだし…


 今日くらいは"務めとして

 の従者を"…忘れてもいいんじゃ

 ないかな?」


 と男に伝えた


 男は(それもそうか…)

 と納得しドアを静かに閉めた…



 ・・・



 ディルベットはすぅーすぅーと

 夢見る少女の寝息を立てて、

 そのままの願望に近い夢をみていた


 その夢は、主であるセタと自分が婚約を

 して、毎日、セタの優しさと、代え難い

 不思議なあたたかさに包まれながら…


 "従者の立場"となった…ノーラや

 イーシャの温もりと一緒に、不自由なく

 不安なく眠っている…


 甘くて幸せな夢であった

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