第21話『残された花飾り。早くしないと…』
セタは器用にノーラとイーシャを
両腕と胸の中に優しく抱えながら、
廊下に出て…
"二人を"床に下ろすと、
隣の部屋に移動してドアを開ける
セタがドアを開けると二人は
セタよりも先にドアの隙間から
スルリとじゃらしの如く侵入をした
ここは"ファルの部屋"
ファルが戻った際に暮らす専用
の寝床と化している
セタは部屋に入るなり、机の上にある、
彼女が置いていった橙色の紅花の花飾
りを手に取って、椅子に座り
匂いを嗅いでみた
(ファルは元気にしているだろうか?…
またここにこの場所に、戻ってくる
だろうか?
…それは"いつに"なるのだろうか?)
それはすべてファル次第なので、考えて
みても仕方のないことだが、セタはファル
のことを想った
表面上は気にしない素振りをする…
そんなファルとの決まり事を
セタは律儀に守っていた
しばらくすると、部屋に入室後…
興味津々でありながら少し落ち着き
のない様子でウロウロと室内を歩いて
いたノーラとイーシャは、机の上に
飛び乗って、セタと同様にファルの
花飾りに群がり、
クンクンと匂いを嗅いで、
(なんですか?これは?…)という
つぶらな視線をセタに投げた
セタは『イーシャは会ったことがない
からわからないだろうけど、ノーラは
覚えているだろう?…ファルだよ
自分に正直で、可愛いやつだよ…。
ほんとに…。名残惜しいよな…』
「あ~ん」とイーシャが鳴いて、
顔をセタの胸元に擦りつけつつ
そのままぐるりと一回りして、
もう一度セタの目をみて、
「あ~ん…」とわかりやすい
態度と一緒に甘えた声で鳴いた
その後、セタの腕に顔を擦りつけて
「あっ…」と控えめな感じの声に
ならない鳴き声を発するノーラ…
二人の個性が滲み出てきたのかな?
とセタはしみじみと親の境地に達しな
がら、二人の額と背中、顎の下と撫で
て、触ってを繰り返し
その欲求に対して…
可能な限り自らの二人への愛情を示した
・・・
今日は、
「年が明ける前に、もう少し"ちゃんと"
掃除がしたいです」という従者の少女の
"切なるお願い"から、セタ達は隣の部屋
に一時避難していた
(う~ん…。やっぱり…な。
ここは、がらんどうで、
ネムコ色に染まっていない…
いつもいる、自分の部屋とは
匂いがまるで違うな…)
セタは"何となく"ファルが身に付けて
いた紅花の花飾りを自分に付けてみると…
自分の姿が映る鏡を見てみたくなり、
机の引き出しを開けてみた
大きめの手鏡が一つ入っていた…
そしてそれを手に取って自分をみて
(ああ…。"やはり"まったく似合って
いないなぁ…
これはファルの黒髪の色に映える
モノだ…。私の髪色には合わない…)
そう思って花飾りをとって、鏡と一緒に
引き出しの中にしまった
ノーラとイーシャは寝台に移動して
互いに毛づくろいをしている
(放っておくと、ここもネムコ色に
染まってしまいそうだな…)
セタはそう思いながら、自分も寝台に
腰掛けてから、ゆっくりと横になると
『なあ、ノーラ、イーシャ、この場所も
私の人の匂いを追加して、一緒に染めて
しまおうか?』
と二人に呟いてから
(…早く、だが決して焦らずに、ここに
無事、帰ってこいよ……ファル)
とファルの帰還を"期待しない程度"に
ファルに怒られない程度に…
淡く願った
★
その頃、男は宿の庭にて砂の交換を
していた
男は、ノーラとイーシャの糞の形が
だいたい同じなので判別がつかない
から箱をもう一つ追加、イーシャ専用
の物を作るべきか?と考えながら
作業をしていると…
『あら、"香ばしい"砂の匂い…
ほんとっ、毎日大変ね…』と声が聞こえた
男は立ち上がって確認すると、レンガ塀
の向こう側にはラナがいた…
「あっ、ラナ様…。どぉも…」
男は没頭していた自分から抜けきれず
どもったような声を出していた
『小さな家族がもう一人増えて、
その作業も大変でしょうね?
…それはそうと、セタ"様"
はいる?』
「セタ…様?……はい」
『うん?…いるのね?』
「はい。セタ"様"はいます」
『じゃあ、ちょっと大事なお話が
あるから、今晩…。う~ん……
やっぱり、"準備"があるから
今から適当に伺うわ』
「はぁ…」
『まっ…。そういうことで、
よろしく~♪』
ラナは会話を切り上げると
さっさと神官宿舎の方に歩いて
いった
「……なんだろうな?」
男はラナの言っている意味がいまいち
よくわかっていなかったが、
ひとまずセタに報告しようと、さっさと
作業を終えて、階段を急ぎ足で上った
その途中、男は、
(ラナ様は…ちょっと苦手だな…
サラ様もいずれあんな風になったら、
何というか、色々と面倒で、困るな…)
とセタの半従者ではなく、正式な従者と
しての立場を想像するに、ちょっとした
心配事を抱いていた




