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第20話『信用の証』


 幼い頃の話…


 ファルは地に倒れながら、悔しさ

 と苦しみを抱え、痛みに耐えながら、

 口に入っていた砂を吐き出していた


 遠い記憶にあったとしても

 忘れることの出来ない不快極まる

 ジャリジャリとした食感感触

 

 目の見えない自分が、何者かに

 よっていきなり蹴り倒され…

 腹を蹴られ、意味の無い嫌がらせ

 なのか?…砂を口に入れられた


 大人になったファルは海岸沿いを歩き、

 ここではない遥か遠くに位置する故郷

 の懐かしい潮騒の音を思い出し、聞き

 ながら、誰もいない砂浜を歩いている


 あの日は、その後…


 祖母のいるところまで這いずって、

 祖母の胸の中で、ずっと泣いていた


 祖母が死んでから、ずっと独りで

 歩いてきた


 祖母以外、誰も信用しないという

 暗く重い経験上の信念があの幼い頃に

 深く刻み込まれていた


 相手を騙すこと…嘘をつくこと

 相手を油断させ、その気にさせ、

 誘導をして…


 自分の意のままに操り、

 生きるための対価を得ること


 旅に出るのは孤独やそれに連なる

 旅愁を味わいたいから…

 

 というのもあるが、本来の自分を取り

 戻す、再認識させる必要がある…


 という自らの生存本能の確認、あるべき

 信条への原点回帰が目的なのではないか?


 そんな風に今は、感じることもある…

 だが、それはちょっとした進歩の証だ…


 なぜなら今は"帰る場所"があるから

 そう思える今の心境があるわけであって…


 それが、昔の自分からの反発で言えば

 "安っぽい理由"なのだろうけど…


 ファルは立ち止まると、しばらく

 考え込んでから、自然体の自分を

 意識する為に、ふぅ~と息を吐いて

 気持ちを落ち着けると…


(少し早いが…

 そろそろ帰ろうか…?)


 そう自分に告げると、踵を返し

 ゆっくりと歩く…


 ・・・


 ファルはその途中で

 砂浜の貝殻を杖の先で探して


(セタの分、ノーラの分、クロの分

 "ゴツい"のはサラの分…あとはあの

 名無しの従者の"兄妹"の分…


 元気過ぎるラナのおばあさんも、

 "まだ"いるかもしれないから、

 もう一枚を予備にとっておこう…)


 と拾い歩いて、ブルウノス村に

 帰ることを決めた


(集めた貝殻の数が、今の自分が

 信用出来る人間なのかな?)


 ファルはふと、そう思うと、


(まだまだ"アナタ"は甘いわね…)


 という昔の自分が陰でこっそりと

 反発し、囁いて来るような気がした


 でもそれでいいんだ…


 もう自分の止まっていた時間は

 淡く期待させる形で、動いて

 しまったのだから…


 仕方ないじゃない



「お姉さん…貝を集めているの?

 それって"お金"になるの?」


 

 とファルが貝をボロの巾着にしまって

 いるところに少女の声がして……

 近づいてくる


 ファルは声の主のいる方に顔を

 向けて『ううん。ならない…。

 普通はまったく価値のないモノ

 ただ拾っているだけ』と伝えて

 立ち上がり、僅かに身構えた


 すると「あっ…」と驚く少女の

 声が聞こえた


 今まで何度も何度も、

 よく聞いた反応だ…


 ファルは『そうなの…見えないの

 …。旅をしていてここに流れ着い

 てしまったの…


 出来れば、ちょっと安全なところ

 まで案内してくれる?』


 とはっきりと…だが透き通るような

 綺麗な声で、声の主に伝えた


「あっ…。うん。わかった…。だったら

 うちにおいでよ…。わたしのお母さん

 すっごく優しくてお料理が美味しいの

 …

 

 毎日、お魚ばっかりだけど、わたし

 お母さんのことも、料理も、ぜんぶ

 大好きなの」


 ファルは『ありがとう…助かる』

 と伝え、警戒を解いて


『………そう。それはとても幸せなこと

 とても、いいことよ…』と精一杯の

 嘘偽りのない笑みを浮かべた



「早く行こうよ…。お姉さんの旅の話

 を聞かせてよ…」


 少女の手がファルの手に触れた

 ファルは少女の手のひらが柔らかくて

 あたたかいことに気づいて、



『あたたかい手…。あなたの"素敵な"

 お母さんも、同じなのかな?』と

 たずねた


 少女は自慢の母親を褒められて

 恥ずかしそうに頬を染めて

「うん!…そうだよ」と答えた



 ・・・


 少女と砂浜を一緒に歩くファル



『ねえ…アナタは目が見えているの

 でしょう?』



「…うん?…みえているよ」




『この海や砂浜は綺麗でしょ?』




「………う~ん。

 別に綺麗じゃないよ」




『…そうなの?…どうして?』




「わたしはソラの方が好きだから…

 

 ソラがキレイだから、

 そのおかげで海や砂がキラキラと

 輝いて、キレイにみえるだけ…


 だから海は本当はキレイじゃないの

 …空がわたしにとってはすべてなの」




『……なるほどね。よくわかった

 じゃあ天気が良ければ、みえている

 もの全てが、キレイになるのね?』

 



「そうかもね…。でもわたしは天気が

 悪くても、お母さんがそばにいれば

 それでいいの」




『………そう。わかった』




「お姉さんは何が一番キレイだと思う?」




『そうね……。とても難しい質問だけど

 多分、今一番綺麗に輝いているのは…』



「…もしかして、わたし?」




『うん。そう。正解』




「ほんと?冗談?」




『ほんとのほんと』




「ふ~ん♪」




(ふふ…。かわいい子)

 

 ファルはブルウノス村に戻るのが

 一日二日分延びるかも…と予感していた



 そしてその予感は的中した

 少女の引き留めに対して、

 ファルはまた必ずこの場所を訪れる

 ことを約束して別れることになった

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