第19話『愛し合う二人は、可愛そうな友人?』
冬に入り、ブルウノス村の若い神官
であるサラはそわそわとしていた
理由は年に一度の休日に、実家のある
南メイガンに帰る日が近づいているからだ
少しは家族に成長をした自分を見せたい
…という気は"ほんのり"とはあるが、
それ以上に…
セタと二人きりで、学生時代から
途絶えていた懐かしい故郷での
時間を…、一日を過ごす…
そのことを考えると…
寒さを感じる以上に肌は熱を帯びて
夜明け前の冷たい空気を吸っても
体内は新鮮さと同時に熱気に溢れ
てくる
今日も石造りの無骨で簡素な祭壇
にて、ストーン家及びストーン教の
紋章の前に両膝を付き、世の中の全て、
そしてこの村の住人の安寧の為、祈りを
捧げる…
神官の究極は
"自分を捨てる"必要がある…
が、セタが病に伏せた時の間は、
私情を優先し、セタの部屋で祈りを
捧げていた
"祈る場所"は重要ではない…
と、その時は思いつつ、アレはきっと
家族には怒られるだろうな…という
ことはわかっていた
まあ、別に怒られるようなことは
今まで何度もやってきたわけで…
いつものことだ…という感じで
諦めている人間の方が身内には多い
だが、元神官のラナは笑って許して
くれた上に褒めてくれた
「それでいいの…。サラはサラの思う
ようにやりなさい…。サラは私じゃ
ないし、私はサラじゃない…
この村の"神官"という立場だけ
同じで、あとは違う…
それでいいの…。自分を律し戒める
ことも大事だけど、時にはすっ…ぱり
と許して、"楽"にして上げなさい」
ラナの言葉にサラは感動を隠そうと、
懸命に表情を変えないようにしながら
そして、弱点とも言える弱い虫と戦い、
涙を堪えながら
『はい…』とだけ答えた
そして思ったのは、ラナ様は私の
母親なんだな…ということだった
サラはセタと同じく母親を幼い頃に
病で亡くしている
だからサラは、記憶には殆どいない
母の面影をラナに感じていた
一度サラはラナに神官を辞めては
どうか?と真っ直ぐに伝えられた
サラは辞めるという選択肢は持って
いなかったから、その意見、提案は
最初はショックが大きく、いつも自分
に寄り添ってくれていたラナが自分を
見切って突き放した…
そんな反射的な感覚を持った
だが、それも含めてもっと真剣に
考えるべきだった
自分が何をしたいのか?
自分がどうありたいのか?
それを突き詰めてみると、
やはり自分は自分に負けたくなかった
運命から、逃げたくなかった
自問の結論としてそのことに気づけた
どこか押し売りに負けていた状態から
自ら運命の中に入って、進んで行こう
と決めた
セタとのやり取りもあって、
吹っ切れた自分がいた…
いつかまた、困難が訪れ、葛藤の中に
入ったとしても、今の自分の信念が軸
となって支えてくれる、そんな心地だ
今日もすべてに祈りを捧げよう…
自分の出来ることを悔いのないに
していこう…
(頑張る必要は無い…)
ただ自分の信じることを、
自分の最善の行いをしよう
サラの顔は神官として成長をし、
力強く輝いていた
★
セタの部屋のドアを叩く音がして
セタがイーシャとセタを足元に
従えてドアを開けると、サラがいた
尾を立てた状態のイーシャとノーラは
いつもの匂い付けをする為にサラの
足首に顔を擦り付け、サラは笑みを
浮かべながらその歓迎の応対に対し、
"二人の"額や背中を撫でるように触る
『お疲れ、我が村の大切な神官さん』
セタは微笑ましい様子をみる表情で
言を発した
「ふふん。今日は機嫌が良さそうだな?」
『そうか?…あまり変わらないと自分
では思っているが、そう見えるか?』
「ああ、そう見える…。ネムコと
私を見る目がいつもより穏やかだ」
『ほう…。そうか。神官さまが言うの
なら間違いないようだな…。
まあ…。早くしろよ』
そう言って、セタは"キスを待つ"
恋人や乙女のように目を閉じた
サラは黙って今日のその唇を奪い、
慣れた動作でセタの自分よりは
大分華奢に思える体躯を引き寄せ
…優しく抱きしめる
ちょっと長めの時間を置いて
サラは口を離すと…
「ちょっと儀式の間が長いか?…
もう少し短くしようか?」
と彼氏役、男役のような低い声で
セタに聞いた
セタは『ふふっ…』と可愛らしく
笑うと…『駄目だ…。"お前が"
満足しないから…。駄目だ…』
と答えた
サラは笑みを返すと、
「そうだな……。納得。じゃあ、
そんな可愛いお前には…」
と再度の長めの口吻と抱擁をした
(これは二人だけの"儀式"で…
私達は旧友で、親友で…
恋人ではない…)
が…。そんな約束を忘れてしまう
こともたまにはある…
でもそれでいい…
セタもサラも、同じ気持ちだった
どこか割り切っているようで
割り切れない関係…
だが"恋"ではない…
もうそんな次元ではないのだ
・・・
サラはセタとの今日一日の
別れの間際、
「今年は帰れそうか?」
と聞いた
セタはサラの足元で動いている
小さな存在を気にしながら
『………う~ん。ちょっと子供が
心配だけど…。まあ一日なら良い
だろう…』
「…そうか。安心した。立派な
従者がいるから大丈夫だ…
クロにも言っておくよ…」
『…そうだな。うん…。クロも
いるし、大丈夫か…』
少し寂しげな表情をするセタに
サラは若干の嫉妬を覚えながら
「大丈夫だ…!一日くらいなんて
ことない…。私には"一日しか"
ないんだ…」
セタはサラの発言の意味を考えて
『うん…。そうだよな。私も
お前を理由にして、友人のいない
南メイガンに帰るとしよう…』
「……そうだ。お前は私以外に
友人は存在しない。そして、私も
同様に、お前以外に友人はいない」
『そんなことを…堂々と、
"はっきり"と言うな…
少しだけ悲しくなるだろ?』
「何だよ…、セタらしくないな…
その程度のこと、別に口に出したって
構わないだろ?
これは紛れもない事実だ」
『…まあ、うん。そうだな……
では、二人は可愛そうな友人だな?
それでいいか?』
セタの発言に、サラは微笑み
そして、二人は互いに見つめ合うと…
"ははは"と互いの境遇を笑い合い
互いに"またな…可愛そうな友人"
と気に入ったフレーズのように
使って言って、微笑ましく別れた
・・・
帰りの空はどんよりと曇って
いたが、
サラは「う~ん」と背伸びをして
「何だか曇っているけど、いい天気
だな…」と独り言のあとに目一杯に
息を吸い、軽い足取りにて宿の近く
にある神官宿舎に帰っていった




