第16話『夜空の下、戻らない主の為』
セタの部屋内
男と少女は、ノーラと一緒に
セタの帰りを待っていた
男はドアの前の床に座り込み、
少女は椅子に座り、ノーラを
膝の上に置いて慣れた手付きで
撫でながら、窓の外をみて、
『もう、真っ暗。セタ様、遅いね…。
一度、外の様子を見てみようかな?』
男はそんな独り言とも思える
発言の主である少女の考えを読んで、
「………そんなことを言って、
"村外れ"まで行くつもり
だろう?」
『ううん…。違うよ…
と言いたいところだけど…
でも、もし、あの小屋に
行ったとしても、"あたし達"なら、
問題ない』
男は少し考えてから、
「………だが、セタ様の言い伝えを
守るのならば、待っているべきだ」
と答えた
少女は男の返答に対して
『それはそれとして…』と膝の上の
ノーラをみて
『ねぇ…ノーラ?セタ様、お腹空いて
ないかな?
…何か、食べるものを届けに
行こうかな?』とノーラに伝えて
からドアの前で座る男の方をみて
『それは別に、平気でしょ?』と
言った
「………うん。まあ、それも
そうなんだがな」
男は少女の提案に軽く頷いた
男はセタのことが心配で、
本当は何かしらの理由をつけて、
セタの元に向かいたい、という気持ち
は時間の経過に伴い大きくなっていた
『あの小屋に…行こうよ』
「…"一緒"にか?だったら、ノーラは
どうするんだ?…セタ様の子供みたい
な存在だ…。何かあったら、セタ様は
生きていけないかもしれない
大袈裟かもしれないが…。それぐらい
大切な存在なんだぞ」
『でも…。"あたし"にとってはセタ様
の方が大事。ノーラはその次に大事』
「…なるほど、そうか…。従順なよい
従者だ…」と男は納得し、
「早く"名前"を付けてもらい
たいよな…。ほんとっ…」
とセタへの愚痴を漏らすように続けた
少女はむっ…とした表情で、
『…そんなこと、今は関係ないでしょ。
名前は、セタ様が思いつくまであたし
が待ってるしかないもん…』
といった
「………そうだな。何か、すまん
俺の方がそのことに関して、お前の
何倍もイライラしているな…
お前のことなのに…。らしくない」
男はこの話題をこの場で出してしまった
ことを心中自分に舌打ちして後悔した
そして、今度はそれを振り払うように
太腿を叩いて
「よしっ…。外に出よう」と言った
『わかった。ノーラはどうする?』
「そろそろクロさんにも、状況を
伝えよう…。"意味"はわかるな?」
『…クロさんにお守りを頼むのね?
でも、"サラ様"には
伝えないでいいのかな?』
「……まだ"大事"には至っていない。
余計なことはまだ伝えないでいい」
『まあ…そうだよね。多分、きっと
セタ様、ふつうに戻ってくるよね…』
「ああ、そうだ…。ちょっと調べ物が
あって戻るのが遅くなっているだけだ…」
男はセタが人工楽園に行った本当の
目的を少女には教えていなかった
理由は説明するのが色々とややこしい
…ということと、件の聴唖の少女、
セタに名付けられた"イーシャ"が話題に
絡んでくるということへの配慮だ
★
コンコン…
「はぁ~い、そろそろご飯かな?」
とノックの音に、返事と独り言を
言いながらクロがドアを開けると
憂い気な表情をした"兄妹"と
妹に抱えられた状態のノーラがいた
「あっ…。ノーラも、いらっしゃい…
わざわざ二人揃ってどうしたの?
あれ?…セタは?」
男がセタが人工楽園からまだ戻って
来ていない旨を伝えると、クロは察して
「わかった…。その様子では、
"僕も一緒に"…という感じではない
ようだね…。うん…。じゃあ、僕は
ノーラをみているよ…」
クロは少女からノーラを
受け取ると、顔を擦り付けて
「ノーラ…。あいかわらずあったかい
な…。お前は…」と言って
「早く行ってきなよ…。僕は
セタを待ってるよ」
少女は『下に夕飯が…あと
セタ様の部屋にノーラの
お水と餌の残りがあるから…
お願いします』と伝えた
男も続いて「クロさんすまないね
…。よろしく頼むよ』と伝えた
「うん…。わかった」
クロが端的に答えると、二人は、
急な様子を隠すこと無く、
廊下を駆け、階下に消えていった
クロは二人のうしろ姿をみて
(やっぱり"兄妹"だな…)と、
この宿での二人とのよくわからない
勝負の始まりの合図のやりとりを、
懐かしい過去を、ふと思い出し、
(あの時の追いかける対象は、
"ノーラ"で…
今夜は"セタ"…か)と思ってから、
「ノーラ…。お前の"王女様"…。
いや素敵な"王子様"はすぐに
戻るよ…。大丈夫…待ってよう
戻ってこない…なんてことは
お前の場合は無いんだ…
絶対に…。一人ぼっちで不安に
なることなんてないんだ…。
うん…」
と主を持つ存在であり、自分と同じ
ネムコであるノーラに優しく伝えた
★
男は先にランプを手に持ち、
宿の庭…次に、宿の外周をみてみた…
ぐるりと宿の塀まわりを
一周しながら、辺りを確認するも
特になにもない…
だが、そんなことは知っていた…
男はセタがのんきに近くを
歩いているとは思っていなかった
その間。少女は、一階の炊事場と
客間にて、手編みの籠に、夕飯の
豆のスープとパン、干し肉と果物、
水を入れて、男が待つ玄関に急いだ
男は少女の持つバスケットを
受け取り(こんなにか……)
と籠の重量を気にしながら
代わりにランプを渡す
そして玄関を出ようとする際一度、
立ち止まり、
「あっ…そういえば、あの小屋の
カギは?複製があるだろう?」
と少女に伝えた
『カギ?…あそこの"もう一つ"の
カギは、預かっていたけど…
セタ様が出ていくときに
持っていったよ…。部屋にある
のを持っていくのを忘れていた
らしく…
あたしの部屋にあるのを
代わりに持っていった』
「そうか…。じゃあセタ様が
小屋の中に居れば問題ない……
ただ…"あの時"みたいに内側から
閉めていなければいいがな…」
と男は言った
少女は"あの時"の意味がよく
わからなかったが
『うん…。とにかく早く行こう!』
と伝えると
男は「ああ」と頷いてから、
「俺はまだ従者ではないが、
気持ちの上ではセタ様の従者だ
そして俺達は、セタ様に、主に、
永遠に付き従う存在…
ネムコ…"ノーラ以上"に、な」
とノーラを置いていく後ろめたさを
感じている自分を納得させる為の
台詞を放った
少女はその発言を受け、
『そうだよ…。あたし達は悪くない。
こんな夜遅くまで、戻ってこない
セタ様が悪い…。クロさんは頼り
になるから、ノーラは絶対に……
大丈夫!』
と力強くはっきりと言った
男は「頼もしくなったな…。
だからさっさと名前を……。
いや、今は…。すまん。
それどころじゃないな…、
さあ、行こう…
道中、"あたり"を、気配を、
確認しながら行くから…
走るなよ…。
それと変に通りすがりの
住人に悟られたくないから、
"ただのお使い"、そんな感じで
出来る限り自然体でいろ…
セタ様を見逃すなよ」
と少女に伝え、早足で歩き出すと
少女は『よし』と自身に声を出し、
男に続いて同様に早足で、
夜空の下、歩き出した




