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第14話『初対面のイーシャ』


『入っていいぞ』


 "いつもの"ノック音が聞こえた

 男がドアを小突く音にセタは

 返事をした


「セタ様…。ちょっと理由が

 あって開けられないのですが…」


 とセタの半従者となっている男の

 少し焦ったような声が聞こえた



『んん?どうした…?』


 とセタは窓際からノーラを抱えながら

 ドアの方へ移動する


「ああ、セタ様、開けないで

 いいです!」



『うぅん?…何故だ?』 



「ちょっと。あの…。来客がありまして

 …。その…止められませんで…

 ここまで来てしまって…。すみません」



『客か…?なら別に構わないぞ』




「嫌、その…。"セタ様"への用

 ではないようで…」




『たくっ…!なんだ?…

 さっさと開けろ、いやもう、

 こちらから開けるぞ』


 少し苛立ちを込めてそう言うと

 セタはドアを開けた



 ・・・



 室内にて寝転がるノーラは見知らぬ粗末な

 格好の少女に"よしよし"という感じで、

 優しく撫でられている

 

 セタは目を細めながら、その様子を暫く

 眺めた後、部屋の窓際…


 日が照らされている場に、平たいどこにでも

 ある傷の付いた"石"をじっとみてから置いて


『ふぅん…。"コレ"は私への土産か?

 可愛い賄賂か?…


 それとも、ノーラを触る為の駄賃か?』


 と、笑みを浮かべながら言った



「はぁ…。すみません…。この傷ついた石

 …よくみるとネムコ"らしき"絵が描いて

 あります


 そして、"コレ"を"表向き"はセタ様に

 渡しに来たようで…適当に理由を言って

 一度は、追い払ったのですが…。


 "どうしても"ということで…

 そのえらく強引な奴でして…

 このように侵入されてしまいました」



 男の歯切れの悪い返答を受けて、セタは

 再度、ノーラと戯れる粗末な格好の少女

 をみる


(…なるほど。こやつは、私の従者と

 なった少女と、ほぼ同じ年齢にみえる

 つまりはそういうことか……)


 セタはもう一度、石を手にとって

 日にかざしてから、微笑むと…


『まぁ…。今日ぐらいはいいだろう』

 といった



「すみません。…こいつは口のきけない

 "唖者"の奴隷でして。今はこの村の

 養蚕場で働いているそうです」



『ほぅ…。詳しいな…。

 最近入った奴隷か?』




「最近…。そうですね。セタ様がちょう

 ど病に伏せていた時期に入ったようで

 一度、この宿に見舞い来ているのを

 見ました」



『ふぅん…。で、ノーラを見て、

 "惚れて"しまったというわけか?』



「その時にはネムコはセタ様の部屋にずっと

 いましたから、恐らくドアが開いた時に

 覗きこんで"偶然"見てしまったのでしょう

 …おそらくは」



『ふぅん…。偶然か…。"一部人間"には

 途端に弱くなり、押し負けてしまう、

 そんな"甘く優しい人間"もいるから、

 用心はしないといけないな…。


 あえて、"誰"とは言わないが…』


 男は僅かに視線を床に落とし、


「…………すみません。好奇心が旺盛

 なようでして、…ちょっとだけ

 その、手心を…」


 セタは、男の様子をみて、

 "ふぅ~"と一つ呼吸を置いてから



『まあ、別に村の住人にノーラのことを

 隠しているわけじゃない…。


 ただノーラのことが心配なだけだ…。

 好奇心だけの取り扱いを知らない

 無粋な輩に…自分の子供を

 無闇矢鱈と触れさせるわけには

 いかない…そうだろう?』



「はい、そうですね…。当然です」




『わかればよろしい…。そして私に

 下手な嘘はつくな

 …。その程度のことであれば、正直に

 気持ちを伝えて"相談"してしまった方が、

 私的には"大変に"気分がいいぞ…』




「はい…。わかりました」




『さて…。こいつは"名前"はあるのか?

 …無いだろう?』




「…はい?…奴隷ですから…当然…」




『イーシャ』




「…はっ?」




『イーシャ、と名付けよう』




「………何故です?セタ様とは直接関係の

 ない奴隷に、わざわざ名前を付ける意味

 がわかりませんが…」



『いや…。もう関係はある…

 こやつのネムコ…ノーラへの情熱は

 本物だ…。このどこにでもある石に

 下手くそながらも絵を描いて、それを

 届けに、ここまでやってきたわけだ…


 そして今、その"想い"を私やノーラに

 届け、こうして受け入れられている…

 

 なんか、すごく、よいだろう?』



「……正直にいって、その理由はあまり

 よくわからないのですが

 "その石"が理由ですか?」




『普通に考えてみろ。こんなどこにでも

 ある石を拾って、それを"ダシに"図々しく

 ここに渡しに来るというわけのわからない

 発想…


 素晴らしいとは思わないか?』




「……はぁ。そうですか…」




『…そうだ。文句は誰にも言わせない。

 きっと将来こいつは、イーシャは、

 ノーラを守ってくれる存在に

 なるだろう』




「…………あの。セタ様。飛躍のし過ぎでは

 と思うのですが。…まあ、百歩譲って

 "守る存在になる"


 それは別に良いのですが…」




『何だ?』




「……未だに"名前"が決まっていない

 "憐れな従者"が一人いますよ」




『…………あ。そうか』


 男はガクリとしながらも堪えつつ、

 じっとセタの瞳をみて、


「…そうです。セタ様。出来れば、

 もう遅いですが、従者であるアイツの

 手前、"先に"アイツの名前を考えて

 上げてください…


 それから、その"イーシャ"という

 名を与えてやってください」



『………う~ん。そうだな…。だが、

 どうしようか…

 

 あれから色々と考えているが、よい

 のが中々浮かばない…。良い意味で、

 個性があるようで無いのだ…。


 アイツは…。以前にみせていた

 わがままな子供のような状態であれば

 もっとよい名前がつけられたかも

 しれないが…。最近は凛々しくもあり

 えらくおとなしい…



 すこし親としての寂しさを感じる

 ことがある…』




「……つまりは、もっと"特徴"のある、

 セタ様の心に引っ掛かる、"わがままで

 子供っぽくて、ちょっと変な奴"なら、

 早く名前が付けられる、


 ということですか?」




『……うん。そうだな。具体的に言えば

 そうなるな…。そしてこの"イーシャ"は、

 変に純粋で、強引で、はっきりいって

 私好みの変な具合の、変な奴だ…。


 だから瞬間的に名付けられた



 少年であった頃の、変で、純粋で、

 意地っ張りなところもある、

 いじらしかった"ノーラ"と同じだ…』



(ノーラ…少年…。

 そういえば、だいぶ変わった

 奴だったな…)



【…僕は、逃げませんよ】



 男は奴隷であったノーラ少年の顔と、

 強い光ある眼差しをふと思い出した…

 セタのネムコ研究小屋である人工楽園

 のドア前での、光景だ

 

 


「…………そうですか。であっても

 今のアイツが無個性であっても、

 お願いします。


 早く名付けて上げてください」  


  

『……うん。わかった。努力しよう』




「…お願いします」


 


 

 ★





「はぁ…。まったく…


 "初対面のイーシャ"…か」




『…イーシャ?って誰?』




 男はらしくなく"ビクッ"とした。

 セタの部屋のドアを開け、独り言を

 発すると、セタの従者である少女が

 いた…。手には桶と灰色に変色した

 粗末な布巾を持っている



『ん…。どうしたの?』




「いや…。あの…。その…な。

 別にたいしたことじゃない…

 独り言だ…


 そんなことよりも、"今は"部屋に

 入るのは止めたほうがいいぞ」




『なんで?セタ様の部屋の掃除でも

 しようかな…と』




「…そうか。でもな、今は

 "大切な"お客さんが来てるから

 あとにしろよ…」




『…誰?サラ様じゃないよね?』



 サラは現在いつものクロの部屋にいる


「誰って…。その…。え~と、

 とにかく、大事なお客さんだ…

 帰ってからにしろ」



『…う~ん。わかった。あとにする』




「そうだ…。じゃあ、一度ここを

 離れよう…」




『…うん?…言われなくても一度

 戻るけど…』




「そうか…。ならば、戻ったら

 ちょっと話がある」




『ええ…。あたしは別に話が無い…

 "大切な"お客様にお茶を淹れて

 こないと…』




「あっ…。そうか、なら、

 俺がお茶を淹れてこよう…」




『えっ…。なんで?』




「その…。俺も知ってるお客さん

 だからだ…」




『………う~ん。さっきから、何か

 あたしに隠してる?』




「いいや…。そんなことはない」




『…ふぅ~ん。じゃあ、ちょっと

 お茶を渡しに行って、挨拶して

 おこうかな?…

 

 あたしは、セタ様の"ただ一人"の、

 従者だからね!』



 男は"はぁ~"と深い溜息をついて

 から、"うん…。しょーがない"と

 自身に向け、納得をさせる言を発し、


(…………うぅん。そうだな…

 わかった…。もうあとはセタ様に

 任せよう…。これはセタ様が悪い…


 俺にはもう無理だ…)


 と心中、思ってから


「行って来い…」と少女に伝え…

 ゆっくりと歩を進め、セタの部屋の

 前をあとにした



『うん…。何なの?』


 怪訝な表情で少女はそのうしろ姿を

 みてこぼし、桶と布巾を隣の空き室に

 置いてから、男に続き、階段を下りて

 いった

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