第13話『神様の褒美』
『どうした…?サラ?』
セタの部屋に入るなり、サラは無言の
まま、セタを背後から抱きしめた
「………」
『寝るか?』
「ちょっとこのままでいてくれ…」
『……わかった』
室内、ドアの前
後ろからサラに抱きしめられている
セタは…。サラのことを子供の頃から
知っている自分がこの場所にいる事が
出来ているから、ここにこの状況と…
温もりのある現在があるの
だろうな…と愛おしさを感じながらも
同時に、少しの背徳感を覚えながらも、
しみじみと思った
『なあ…サラ?』
「なんだ…?」
『昔から…お前はどこかすっきりとしない
空を、未来を、私に見せつけるように
して、いつもみていたな……』
サラは暫く考えた後、
「…ああ、否定はしない。きっと
わかって欲しかったんだろう…
お前だけには…」と答えた
『辛いなら、辞めたらどうだ?』
「………」
『そのままの状態では、徐々に駄目に
なる。…精神的に膿んでくるぞ』
サラはセタを抱きしめる腕の力を
少し強め、"ぎゅっ"と…セタがいつも
着ているノーラの毛と同じ色の
ローブをつかむ
「………"辞めて"どうするんだ?」
『そんなのは知らない…。ただ…
神官という立場から一度離れてみて
もいいんじゃないか?』
「……何だそれ。
すごく無責任な奴だ…
幻滅する…」
うなじから伝わる暗く低いサラの声に
セタはふぅ~と小さく息を吐いてから
『……ごめんな。わかってるけど
いまのサラを見ていたらいいたくもなる
…。意味がよくわからないかもしれないが
…。お前のことをわかっているからこその
意見だ…。わかってくれ』
サラは強めていた腕と手の力を
"すっ"と…弱めてから、ふぅと
一息吐いた
「………ごめん。言い過ぎた」
『いいよ…。どうする?』
「…クロのところに戻る」
『…うん。それがいい。そうしろ』
「………神官は辞めない」
『…わかった。好きなようにしろ
ただ何もかもが嫌になったら、
私や、クロを頼れ…。何なら、
クロごとお前を拾ってやる…』
「………うん。拾ってくれ、
そしたらな…
毎日肩でも腰でも揉んでやる…
こうやって…なっ!」
サラは後ろからセタの両胸に触れ
つつ、うなじにキスをして、耳に
息を吹きかけ、その行為を嫌がる
ふりをしているようにみえるいつもの
素振りのセタに対して続けた
『はははっ…!…うん。もう、何だ!
サラ…。そこは腰でも…。うんっ…
もうっ…。ダメだっ。肩でもっ…
もぉ~。ないだろ!…ははっ。あっ』
「…知るか!……そんなこと!
お前が優しいから悪いんだ!
…全部お前が優しいから、
こうなるん…だっ!」
『ははっ!…もぉ~クロが待ってるぞ』
「…おっと。そうだ』
とサラはセタに触れる手を止めた
『ノーラも、こちらを不思議そうに
みているぞ』
寝台のいつもの位置で横になっている
ノーラは、サラとセタから目を離すと
あくびをしてから目を閉じた
『……お前も休め』
セタがサラに伝えると、サラは
「わかった。こっちをみてくれ」
『…うん?』とセタが振り返ると
サラはセタの頬…そして唇に指で
触れてから、セタの顎先をくいと
上げて、唇に長めのキスをした
「んっ…」と甘いセタの声が漏れる
サラは、唇を離しじっと目を見る
「セタ……。大好きだ。ノーラ以外には
誰にも渡さない…。他の誰とどこで何
をしていようが、お前の自由だが、
最終的には、やっぱり、…渡したくない」
『………うん。わかった。子供の頃
から何度も聞いた熱のこもった私だけ
にしてくれた台詞だ…。忘れてない。
唯一無二の親友として、その気持ちは
わかってる…。
だから今日は、今は、…早く休め』
「ああ…。ありがと。お前に好きな人が
出来るまで、私がここにいる限りは、
私がお前を守るからな…
そして毎日、神官の神聖なる"行い"
として口づけの儀式をする…」
セタは微笑みながら
『…わかったよ。好きにしてくれ』
「ふふ…。好きにするよ」
そう言うとサラはセタを正面から
抱きしめると、再度の熱い口づけを
した
・・・
セタがドアを閉める間際、
サラがいった
「同じだよ…。ラナ様にも今日
同じことを言われて、色々と
考えた…。
でも、逃げたくないんだよ…
自分の決められた運命に、人生に、
逃げずに向かっていきたいんだ…」
セタはその言葉に頷いてから、
ドアをゆっくりと閉めた
(…相変わらず、愚直で不器用な
奴だな)と思いつつ
『変わっていないようで、どこか
変わっている。そんなところか…』
とセタは自分のことを顧みながら、
独り言を漏らすと…。何とも言えない
回顧と成長の過程を感じていること
に対して、人としての生きる喜びを
覚えた
★
サラがクロの部屋に入る前、
サラは階下からお茶を持ってきた
男と廊下で会った
男は盆を片手に僅かに開いていた
クロの部屋のドア面を小突いていた
『…おっ。ありがとう。開けようか?』
とサラはいった
男はサラが割と早くにクロの部屋に
戻ったことに少し驚きつつも、
「…あっ。ありがとうございます」
とサラに悟られないように注意しながら
伝えた
男はお茶を置いていくと、砂箱を取りに
階下へ戻っていった
・・・
クロはふて寝しているようだった
サラは何も言わず、起こさないでいた
クロが…
クロの心配している気持ちがわかって
いたから、起きてきたら優しく抱きし
めて、謝ろうと思った
サラはお茶が冷めることを気にしながら
クロが起きるのをクロの机にある椅子に
座って待った
お茶にひとつ口をつけてから窓の外を
みると…。曇り無い澄んだ昼前の晴れた
空がみえた
サラはお茶の入ったカップを机に置いて
立ち上がると、静かな足取りで窓に近寄り
空を…
そして、寝台にいるかぶっている掛け布
からいつもの艶のある黒い髪をさらして
いる、クロをみる
(悪くないものだな…。この神官の勤めを
果たしたあとの、綺麗過ぎる光景…
見返り等を求めてはいけない者への
神が与えてくれた"褒美"は…)
いつものこのクロのいる場所で、この景色を
"変わらずに"眺めることが出来ている…
ブルウノス村の若い神官であるサラは、
それが"優しさ"と不思議さを纏った空間
に包まれていると感じると…
それと同時にして、
言いようのない言い表せない無形の幸せ
の中に自分が置かれていることに対して、
ただ、嬉しく思えて、
(まあ、こんなものだろう…)
と心中つぶやくと、空と未来の自分に
向かってほんのりと微笑んだ




