スリー
「ただいま~。」
なんだかんだあって俺は家に帰ってきた。
靴を脱ぎ、玄関から居間へと進むとアレが立っていた。
「……」
「おう、留守番ご苦労さん。」
アレは、発音としてはア↑レ↓が正しい。
アレは無言のまま俺を値踏みするかのように全身を見回し、それが済むとその場に立ち尽くした。
賞味期限切れのエスパーかお前は。
「ほら、欲しかったローションってこれでいいんだろ?」
「…………」
「んじゃあ確かに渡したからな。もう無くすなよ。」
俺はアレにローションを投げ渡す。
ローションはアレの硬い身体に当たって跳ね返り、そのはずみで蓋が外れたのか中からローションが零れて床に小さな水たまりを作った。全く、何考えてるか分らんわ。
¥ ¥
「はぁ……なんだか疲れた。」
俺は自分のベッドの上に腰を掛け、そこで息を吐いた。
時刻は午前42時。まだ半日も経っていやしない。
やる事もないし、暇つぶしになんかゲームでもしようかとそう考えていた時だった。
「……? なんだ?」
俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
多分アレだろう。いや、珍しい事もあるものだ。
アレは引っ込み思案で普段は俺とも挨拶くらいしかしないし、趣味も俺とは合わない。
何より俺の部屋にアレが来る理由がほぼない。
一体何の用だろう。まあいい。用事があるというなら暇つぶしに聞いてみようか。
「いいぜ、入れよ。」
「では失礼しますね。」
俺がドアに向かってそう言うと、そんな返事がきた。
だがおかしい。この声は明らかにアレのものではない。いや、声は聞いた事は無いがこんな声ではないはずだ。
声の主は、そう言い終わるや否やドアを乱暴に開けて部屋へと入ってきた。
「な……!? 誰だ!」
「ではお薬を注射しますねぇ。」
そいつを、俺は知っていた。いいや忘れるはずがない。
そいつの名前は、驚くほど滑らかな生地と稀代の縫製職人の手によって紡がれた見る者を圧倒し、魅了してやまない純白の白衣(税込み49800円)に身を包む気高き精神と志を胸に数多の患者の命を救った現代医療の最終兵器、ミスター武田の一番弟子にして師に勝るとも劣らない活躍でテレビのワイドショーにも引っ張りだこの大山根子。
彼女は腕に子供ほどの大きさのある注射を抱え、俺を満面の笑みで見下ろしている。
これほどの有名人が何故俺の部屋に……
「では、すぐに済みますからね~」
「な、何をする!?」
いつの間にか俺はベッドに固定され、腕は彼女の方に差し出されている。
なんなのだこれは!? 一体全体何が起こっているというんだ!?
混乱する俺をよそに、彼女は俺の腕に向かって注射を突き立てようとしている。
その注射は、大きさに見合った極太の針(直径3センチ)を持っており刺さったらただじゃ済まない事ぐらい俺でも分かる。
「そぉれ、プスッと♡」
「ぐ、ぐわぁあああああああああああああ!!」
彼女は構わず俺の腕に注射の針を突き立てた。
腕に凄まじい痛みが走ると同時に、俺は、意識を失った。
¥ ¥
「ん、んん……ん?」
俺は目を覚ました。時刻を確認する。
「……起きるか。」
そう言って俺はゆっくりと体を起こした。
「デートに遅れちまうのは流石になぁ……。」
¥ ¥
時は「ストロベリー☆キャンディ」歴25.765年。季節は14月の月初め。
息が燃えるほど寒い、クッキロポリンリー(但し公衆便所にあるものだけは除く。あれは良い音が出ない。)が恋しくなる季節だ。
場所はR-97通りのメンテナンス直前区画。しみったれたアイマスクがご愛敬だ。
みんなも知っての通り、今日は丁度良いほどに栓が閉まらないのは言うまでもないだろう。
さて、では遅れてしまったが自己紹介をしよう。俺の名前は横山新一。至って普通の登場人物だ。
今日はなんと、彼女と買い物デートをすることになっている。
それほどまでに考えられていたとは言うまでもなく、ただただ刮目して見ていてほしい。
さてと、そろそろ8時間ほどになるが、彼女はまだ来ていないようだ。
「……」
「…………」
「………………」
ミミ・ギギ。
これにて最終話です。御覧いただき、誠にありがとうございました。
引き続き至らないところや誤字、脱字等が見られるかもしれません。
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その辺に関しましてはご了承ください。
この作品を呼んだ友人より
作者「内容はいかがでしたか?」
友人「面白い、面白くない以前の問題。」
作者「ですよね。」