冒険者の在り方
ウジャスの街に戻った三人は、護衛をしてくれた二人の冒険者に礼をのべるのがやっとの様子で、仲間の遺体を三光神教会へ運んで行った。
死体は放置すれば、場合にもよるが数日後に死霊と化し、人々を襲うこともあり得るのだ。聖別された場所に運び、しかるべき対処をとらなければならないのである。
シグナークとレスティアの二人はギルドへ向かった。彼らは疲れた様子などまったく見せない。危険な相手との死闘をくぐり抜けてきたばかりとは思えないほどだ。
ギルドの受付に来るとシグナークはレスティアを待合室に待たせて、自分が依頼の報告をおこなうことを選んだ。
彼は受付の仕切り台の上にコボルドや魔獣ギュネルの牙や角などを出し、受付嬢に起こったことをできる限り説明しながら、人喰鬼の討伐をおこなったことを話して、討伐した鬼の爪や牙を差し出しつつ、先行していたパーティの一人が死亡したことを報告した。
受付嬢は死者について「それは残念です」とつぶやいただけで、感情を見せることはなかった。
受け取った素材を大きめの木皿に載せて後方の作業台に運び、鑑定士に検分を任せる。彼女は依頼内容とその報酬を紙に書き、すぐに鑑定士が説明した各素材の金額も紙に追加して、合計金額をシグナークに呈示する。
「ご確認ください。魔獣ギュネルの討伐、並びにダスクギュネルの角の入手、そして遺跡を徘徊する人喰鬼の討伐。またそれらで入手した素材の合計報酬……以上で、九千七百七十ガルドになります」
彼は頷くと厚紙の紙片を受付に示して、証明印を押すように求める。受付嬢は三つの印を押すと「少々お待ちください」と言って、奥にある棚の前へ行き、そこから目当ての白い布に包まれた剣を手に戻って来た。
「三つの依頼を完了されたことによる特別報酬です、お受け取りください」
受付から渡された剣と報酬の入った皮袋を受け取ると、彼は受付嬢に礼を言ってレスティアの待つ待合室に向かう。
「報酬と、その内容が書かれた証明書だ」
そう言って彼は無造作に、二つの皮袋と布に包まれた剣をテーブルの上に置く。
「それは?」と少女が問うと、彼は冒険者の先輩からの報酬であることを説明した。少女はあまり興味を示さなかったが「一気に三つの依頼をこなせて良かったですね」とだけ口にして、報酬を分ける段になると少女は、一つの金の腕輪と二つの銀の腕輪と、亜人種などが持っていた硬貨の入った皮袋をテーブルの上に並べた。
「これも分けないとですね」
「こちらもだ」
シグナークはそう言って荷袋から、ゴブリンとコボルドから得た武器と盾を取り出し、テーブルに置く。
彼らの戦利品分配はすぐに決まった。一方に銀貨、一方に銅貨の入った手を差し出すレスティア。中身の銀貨を当てたら、金の腕輪と硬貨入りの皮袋と報酬の半分。銅貨のほうを当てた場合は、銀の腕輪二個と亜人種から得た剣や手斧や盾と報酬半分をもらえる仕組みだ。
「硬貨占いってやつですね。さあ、どうぞ」
少女の差し出した左手を叩くシグナーク。少女が同時に手の平の物を見せると、左手に銅貨、右手に銀貨が乗っていた。
「これでいいですか?」
「良いも何も、運試しなのだろう。それで構わない……硬貨の入った皮袋はともかく、銀の腕輪二つは場合によっては、金の腕輪一つより高いこともあるぞ」
シグナークはそう言いながら「亜人たちの武器や防具を売るのは面倒だろうが」とも口にする。こちらは大した金にならないのを運んで行かなければならないのだ。
今回の金の腕輪には宝石が付いていないが、銀の腕輪にはそれぞれ四つずつ宝石が付いている。それに銀の方は二組で一つの装飾品なので、片方のみの場合より値段は高くなるのが通例だ。
「なるほど……確かにそうですね」そのことを説明するとレスティアは納得し、戦利品と報酬を自分の物にすると、こう切り出した。
「シグナークさんが良ければ、明日も一緒に依頼を受けませんか? 東の荒野には黒蜥蜴が棲んでいるので、革をはげばそれなりの額が手に入りますし。危険ですが北西にあるミメト遺跡には、牛頭人や魔人の尖兵が出るので、価値のある装備品が期待できるかもしれないですよ」
あそこの地下迷宮ならもっと手強いのが出ますけどね、と少女は楽しそうに語る。
「牛頭人はともかく、魔人の尖兵の討伐は魔法銀階級からのはずだが。このあたりでは違うのか」
彼の常識的な判断に少女は残念そうに苦笑しながら「そうなんですよね」とだけ言って、首から下げられた階級章を手にする。シグナークは思っていたことを口にした。
「レスティアの実力なら魔法銀階級……いや、銀階級などすぐだと思うが。ちゃんとパーティを組んで、仲間と行動することを身につければ……だがな」
彼の言葉に少女は、がっくりとうなだれる。
「苦手なんですよね──まわりの人の動きに合わせるのって」
レスティアの言葉にシグナークは頷いた。彼女の動きについて行くのは、ほかの冒険者にとっては大変であろう。足の速さのことではない、戦闘中の身のこなしや行動一つ一つの速さが、並の冒険者と明らかに違うのだ。
「だが──それができなければ、君と組んでくれる冒険者は少なくなるだろう。自身の身の安全に直結する問題だからな。どんなに強い冒険者でも連携を組めないと、仲間から煙たがられるものだ」
そう言ったあとに彼は痛烈な言葉を彼女に浴びせた。
「ましてや君は進んで自らを危険な状況へ追い込もうとする。これでは多くの冒険者は、君とパーティを組もうとは思わないだろう」
そう言われた少女は表情を曇らせることもなく、肩をすくめただけであった。レスティアがたった一人ででも──今日遭遇した敵に対して勝利することは、おそらくは可能だっただろう。彼女にはそれだけの地力があり、自信も持ち合わせているのは明らかだった。
「まあ、とりあえず明日は一緒に、なにがしかの依頼を受けてみようか」彼はそう言って、白い布に包まれた剣を手に取り、布を取り除けていく。
中から現れたのは青い革張りの鞘に収まった、装飾も細かな長剣であった。それは柄頭に翠玉をあしらった、見栄えも良い一品だ。
鞘から抜くと鍛え抜かれた刃に、仄かに呪文らしき細かな模様が浮かび上がり、光を受けるとそれがきらきらと浮かんだり消えたりする。その剣は見た目以上に重く、柄を握ると剣の持つ魔法の力が流れ込んでくる──不思議な感覚を覚える、魔法のかかった剣だった。
剣自体を破損しにくくする魔法のほかに、所持者自身を強化する魔法を帯びているのだ。
シグナークはその贈り物に満足すると、再び少女のほうを見て言った。
「これの試し斬りもしないといけないしな」
「それでは明日の朝、ギルドで待っています」
少女はにっこりと笑って、報酬を手にギルドを出て行った。
残された彼は受付に行くと、武器屋や宿屋の場所を尋ね、まずは戦利品の処分に取りかかることにしたのである。




