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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第八章 「英雄の資質」

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祝典会場で

貴族社会に入り込む冒険者の気持ち……

「息が詰まる」といったところでしょうか。

 シグナークとルイルは一風呂ひとふろあびると、侍女らによって整えられた礼装をまとい、二人は城の中にある図書館などで時間をつぶしていた。

 グエンも加えて彼ら三人は親しくなり、互いの冒険話について語り合ったり、宮廷での生活やそれ以外の──ルイルが育った領地での生活などに話がおよんだ。


「──そう、その領地には大きな図書館があってね。そこの司書館長をしていた人の娘と仲良くしていたんだ。そのは『クエイティーバ魔導学院』に入学しているんだ」

「それが前に言っていた友達か」

「そう、その娘のことだよ。実は今日の祝典に来るよう声をかけておいたから、あとで会わせるよ」

 彼らは年は離れているものの、同じ冒険者として──それも高みを目指そうというこころざしを持った者同士ということで──すっかり打ち解けていた。


 ルイルのとらわれのなさは、シグナークが魔女王の魔力の影響を受けて外見まで変わってしまったというのに、まったく変わるところがない。

 偏見や先入観というものを持たないよう、自分を律しているのだ。

 それはどこかあけっぴろげで、危なっかしい部分もあるが──そうした危うい部分を、グエンなどのまわりにいる人たちがうまく回避しているのだと思われた。


 外が暗くなりはじめたときに彼らは図書館を出た。そして応接室に向かおうとしたとき、シグナークはどこかで見た覚えのある女性の顔を見かけた。

 その人物は階段のある通路に向かって歩いて行き、姿を消した。その人物は魔女王との戦いの場にいたシアメスであると気づいたが、シグナークは彼女について黙っていることにした。

 ルイルを守っている護衛の一人だろうと推測し、あまり皇族の事柄について興味本位に踏み込まないほうがいいだろうと判断したのだ。




 ルイルとシグナークは祝典の時間になると応接室を出て、あらためて身なりを整えてから会場へと向かった。

 レスティアとレイラには会わずに、会場でその姿を披露ひろうするとルイルが言うので、少年の言葉に従い、彼は開かれた会場の入り口へ向かう。



 ──そこは華やかな宴をもよおす会場だった。

 人の数は思っていたよりも少なく、帝都にいた貴族のみ声をかけたらしい。

 ルイルはこのあたりで待っていてほしいと告げると、どこかへ行ってしまう。

 いきなり華やかな世界に放り込まれたうえ、独りにされてしまったシグナークは急に心細くなり、不審者のようにきょろきょろと、周囲に知り合いの姿はないものかと見回しはじめた。


 多くのテーブルや給仕の姿。

 華やかな礼装ドレス姿の貴族令嬢や紳士たち。

 上品な立ち振る舞いの彼らの中に飛び込むには、シグナークはあまりに場違いだと考えて臆してしまう。

「どう考えても場違いですね」

「ああ、まったくだ」

 不意にかけられた言葉に素で返事を返してしまう。

 となりを見ると礼装服に身を飾り、薄い化粧をして美しく着飾ったレスティアの姿があった。

 かなり大人っぽくした姿で現れ、少女は初めてく高いヒール付きの靴に悪戦苦闘している。


「見違えたな」

「そうでしょうとも。衣服を合わせるのにものすごい時間をかけたんですから」

 そう言う少女のとなりにはゼシルレイラが立っていた。

 妹よりも一層大人びた格好をして現れた彼女。

 その姿はきらびやかな白い礼装の美しさと、本人の白い肌の一体感が合わさって、この世のものとは思われない存在のようである。


「二人ともまさにこの城にふさわしい、可憐な令嬢のような姿になったな」

 シグナークはいつもよりも饒舌じょうぜつな感じで二人美しさをめ、自分は壁際にでも行こうとしたのか、どこかのテーブルn腹に入れる物を求めて歩き出そうとする。

「どこへ行くのですか」

 レスティアはそう言って彼の腕にしがみつく。

「こういうとき男性は、女性につきそうものだそうですよ」

 すっかりお姫様気分になったレスティアレスティアだったが、彼女の姉によって少女は男の腕を奪われてしまう。


「あなたはそのあたりの給仕にお願いして、お菓子の場所でも聞いてきなさいな。私たちは祝典でのお披露目ひろめをしてきますから」

 背中を押されて前に数本つんのめった少女は、振り返りながら恨めしげに赤い瞳で姉を睨む。

「おやおや姉さん。さっそく本性を現したということですか? あの母親のように男あさりをして玉の輿にでも収まろうと?」

 そんな二人が静かに睨み合いをはじめ、周囲に奇異の目を向けられる。



「こらこら何をしているんですか」

 そこへルイルが慌てて割って入る。

 少年の横には彼と同じくらいの年齢の美しい少女が並んでたっている。──彼の育った領地で知り合った人とは彼女のことだった。

 少女はめかし込んでいたが、胸元に特徴的な徽章バッジを付けており、それはクエイティーバ魔導学院の校章であった。


「こちらが先ほど話したぼくの友人。フレイセリア・アクセリッド」

 紹介された少女は青いスカートを指先でつまむと優雅に一礼する。

 全身を青色で統一された清楚な礼装を着ており、首からは銀の素朴な意匠デザインの首飾りを。腕にも銀の落ち着いた装飾の腕輪を付けていた。

 少女らしからぬ美貌を持つ少女はいくぶん緊張した面持ちで挨拶した。その少女もまた先の魔物との戦闘で、南門の防衛に参加していたらしい。

 もちろん学生の魔法使いということで後方からの支援をしていたのだが、彼女はかなりの活躍を見せていたと兵士たちのあいだでささやかれていたようだ。

 ルイルがあまりにも、自分のことのように誇らしげに語ったせいか、彼女は恐縮しながら「そんなことはありません」と謙遜けんそんする。


「そういえば俺たちを支えてくれた神官がいたじゃないか。彼女はどうしたのだろう? あれほどのたすけをしてくれたのに、礼を言えてない」

 シグナークはそう思い出して、彼女はいないものかとあたりを見回したが、ここには招かれていないらしい。

「そういえば……確かにいましたね。あれほどの魔法が使える人がいたとは驚きました」

 魔女王に立ち向かう勇気も持った女性神官だ。きっと三光神教会でも優れた人材のはず。そんなふうに話しながら彼らは、フレイセリアにルイルがいかに懸命に戦い、傷ついたかを話し出すと、興味を持った外野の貴族たちが集まって来てしまった。


「まあセインアーク様。わたしたちにもそのお話を聞かせてくださいな」

「魔女王を倒したときのお話を、ぜひお聞きしたいですわ」


 セインアークとはルイルの姓である。少年の本当の名はル=イルフォーザ・セインアークというのだ。

 フレイセリアやシグナークたちは、集まって来た紳士淑女に圧倒され思わずおよび腰になってしまう。

 するとルイルが進み出て、まずは祝典がはじまるまで待ってからにしませんかと呼びかける。

 貴族たちは魔女王の討伐戦の話を聞きたがったが、しばらくすると壇上に人が立ち、魔女王ルディアステートと、その側近である魔人アイラスが討伐されたことを告げた。

 拍手と歓声が沸き起こり、その過酷な戦いにのぞんだ英雄として、ルイル、シグナーク、レスティア、ゼシルレイラの四名が壇上に呼ばれたのである。


 シグナークは内心──自分たちだけでなく、女神官やルイルの護衛たちの活躍があったことを告げるべきだとも思っていたが、ルイルはそれを察したのか壇上に上がる前に、あくまでこの四人が活躍したことにしておきましょうと言った。

 なにやら裏工作がなされた祝典がはじまり、大まかな魔女王討伐の顛末てんまつを歌う吟遊詩人によって、彼らの活躍が誇張して歌われたのである。




 弦楽器を手にした吟遊詩人の歌が終わると、今度はさまざまな楽器と奏者を集めた管弦楽オーケストラによる演奏がはじめられた。


 シグナークらは壇上を降り、緊張から解放された様子で壇上から離れて行く。

 給仕から酒の入ったガラス杯を受け取るとシグナークは、果実水ジュースの入った杯を手にしたレスティアとレイラたちと壁際に並んだ。

 ルイルは彼らに気を利かせ、なるべく貴族連中が近寄らないようにと壁になってくれているようだ。

 そうしているところへフレイセリアもやって来て、肩身が狭そうにレスティアとレイラのとなりに立っていた。


「どうもこうした華やかな場所は苦手で」と話すフレイセリア。

 彼女は貴族の娘であるはずだが、心底こうした空気が苦手なようだ。──そして彼女にはもう一つ彼女レスティアらのもとに来た理由があるようだった。

「私、荒れ地の魔女──いえ、剣の魔女について知りたいのです。もしよろしければ、荒れ地での生活について教えていただけませんか?」

 そのようにレイラとレスティアに申し出ると、数人の若い女たちもやって来て、彼女らと談笑をはじめる。

次話はあの人が見違えた姿で登場。

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