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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第七章 過去から未来へ息づく邪悪

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戦士ならば死を後にして勝利せよ

いよいよ絶望的な戦いに決着が。

意識を失うほどのダメージを受けたシグナークに魔女王が迫る──!

 深手を負い怒り狂う魔女王は、街路に落ちた魔剣を拾おうと、よろよろとした足取りで近づいて行く。

 魔剣は衝撃で飛ばされたシグナークの近くに転がっていた。

 魔女王の向かう先には魔剣と、倒れたレスティアの姿がある。

 シグナークは折れた剣を放り投げると、異質な魔力の波動を放つ魔剣に手を伸ばし、迫り来る魔女王に立ち向かっていく。


「キィサマアァアァァッ!」

「おぉおおおオオッ‼」

 渾身の力を乗せた「剛斬剣」を叩き込む。

 魔女王は片腕を上げて全力で魔力の盾を生み出し、魔剣の一撃をくい止めている。

 魔剣は魔女王の魔力を吸い上げながら、その力を持ち主に流し込んでいるらしい。シグナークの中に魔剣から力がそそぎ込まれ、彼は異様な力の流れを体内に感じはじめた。


(なんだっ、これは……! 体内に何かが──)


 その様子を見ていたルディアステートが魔法の盾をそらして攻撃を受け流し、よろけたシグナークに対して近距離から闇の魔法を放って攻撃した。


「『黒光烈破ティグダーヌ』!」

 ぶおんっ、という音と共に黒い閃光が放たれて彼は吹き飛ばされた。

 その魔法攻撃に魔剣をかざして防御したが、強力な衝撃が彼を襲った。

 手にした魔剣を放すことなく着地したシグナーク。

 大きな損害ダメージを負っても彼の戦意は失われずに、まだ自分の足で立ちつづけている。


「キサマ……魔力回路の閉じた者だったのか──、()()()()()()

 魔女王ルディアステートはそんな言葉を口にした。

 そして一瞬で間合いを詰めると、シグナークの腕をつかんでねじりあげる。

「だがその力は我の物だ」

 呪いを含んだ言葉で言うと、彼の体の周囲に黒い魔法の弾を発生させ、それで一斉攻撃を叩き込む。


「し、シグナークさん……!」

 なすすべなく魔法の弾丸に撃たれつづけるシグナーク。

 レスティアがなんとか立ち上がろうと腕を使って上体を起こす。

 ルイルやグエン、シアメスもかなりの損害ダメージを負い、苦しそうにしている。

 レイラはまだ触手から受けた呪いにむしばまれていたが、彼女は離れた場所から魔法を封じた宝石──烈衝の印石を魔女王に投げつけた。

 衝撃を炸裂させた印石の力でよろけるルディアステート。だが魔女王の体は損害を受けたようには見えない。


 しかしシグナークを襲っていた魔法の弾による攻撃は途切れた。無数の攻撃を浴びてなお魔剣を手放さないシグナーク。

 それどころか思い切りルディアステートの腹部を蹴りつけ、つかまれた腕から逃れようとする。その身体はすでにずたぼろになっていた。

「たいした奴だ」

 酷薄な笑みを浮かべる魔女王は、腹部に受けた蹴りをものともしない。


 それを見たシグナークは気を失う寸前に剣を手放し、魔女王から遠ざけるために魔剣を蹴ってルイルのほうへと転がした。

「なにィっ……!」

 後方に蹴り飛ばされた魔剣を追おうとシグナークから手を離し、ゆっくりと振り返る。

 魔女王の視線の先には膝立ちで体を起こしている少年の姿があった。

 その手元に向かって魔剣がくるくると回転しながら石畳の路面をすべって行く。


「コイツら……ッ!」

 ルイル少年は路面をすべってきた魔剣をつかむと、その魔剣から流れ込んでくる力を利用し、足にため込んだ力を解放して、一瞬で魔女王に接近する。



「ヤァアアッ‼」



 突進の勢いのまま魔剣を突き出し、ルディアステートに向けて鋭い突きが放たれた。

 その魔剣の刃が魔女王の胸元を貫いた。



「ぐォオぎャあぁアァぁぁァッ──‼」



 胸元に突き刺さった魔剣の根本から青いほのおが噴き上がる。

 ルイルは反撃してきた魔女王の力で吹き飛ばされたが、魔剣は魔女王の胸元に突き刺さったままだ。


 ばちばちと音と火花を散らしながら、よろよろと後退する異形の魔女。

 うめき声をもらしながらルディアステートは、シグナークの近くまでよろよろと下がる。



「こ、コノまマ──消えサるなど……みトめン!」

 青い焔が胸元から全身に広がろうとする魔女王。

「コイつのニくたイヲ……ツカ、えばァ……!」

 ボロボロと崩れ去る足を捨て、魔女王は倒れているシグナークに這って行き、最後の力で手を伸ばす。


「いけない……! シグナークさん、目を覚まして……!」

 離れた場所からレイラが弱々しい声で叫ぶ。

 どうやら消滅の一歩手前まで追い詰められたルディアステートの呪いから解放されたらしい。

 レスティアも地面を這うようにしてシグナークへと手を伸ばした──が、届かない。


 魔女王の手がシグナークの腕をつかみ、残された魔力を彼の中へとそそぎ込む。──邪悪な魔女王の魂も一緒に。


「うォアぁあぁアァ……ッ!」

 シグナークの口から苦痛のうめきがもれた。

 燃え上がる魔女王の体が灰になっていく。


 しかし、ルディアステートは自らの魂を魔力と共に、新たな肉体へと移し替えようとしていた。



(この肉体を奪い、次は魔剣の封印を解けば──)



 そうした企みを抱きながら魔女王の魔力がシグナークに流れ込む。

 魔女王の体に突き刺さっていた魔剣が、灰となった体からこぼれ落ちるようにシグナークの手元に転がった。



「うぐぅァ……ぁあァ、──ォオォッ‼」



 肉体と精神が侵されていく中で、苦痛の声を上げるシグナーク。

 しかし彼の意識が抵抗しようともがく。

 魔剣をつかんだ彼は自分に入り込もうとする魔女王を感じ、魔剣の刃を握りしめると、それを自分の胸に突き立てた。



(なァっ……にィィ……⁉)



 魔女王の驚愕した声がシグナークには聞こえた。

 彼はほとんど無意識に自身の体を乗っ取ろうとする敵に気づき、自らの痛みもかえりみず、魔剣を自身の体に突き立てていた。



 しかし──彼の体に流れ込んだ魔力の流れは消滅しない。

 魔剣を彼の手から弾き飛ばした魔女王の意識は、まだシグナークの身体を奪うことをあきらめていなかったのだ。

 まるで生存の本能だけで襲いかかる虫の群れのように、魔女王の呪いともいえる魔力がシグナークの身体を蝕みはじめる。


 彼の肌から血の気が失せ、魔力の青黒い筋が身体に浮かび上がる。

 赤みを帯びた茶色の髪から色が失せ、白や銀色に染まりはじめた。──その髪色の中にも紫色に濡れる魔力がそそぎ込まれていく。



「しッ──、シグナークさんを……わたしません!」



 這うような気持ちでレスティアが彼に駆け寄った。

 彼の身体の横に膝を突くと、両手をシグナークの胸の上にかざし、魔力の流れを制御しようとするレスティア。



(まッ、まさか、コイツ……ッ⁉ 魔力の根源を……ぉおォオッ⁉)



 魔女王の悲痛な叫び声が聞こえた。

 ただしそれはシグナークにしか聞こえなかっただろう。



(おのれ、おのれぉおおのれぇえぇぇっ‼)



 恨みがましい女の絶叫を聞きながら、シグナークは心の中でわめき立てるルディアステートに言った。


(うるせーよ。黙って消えろ)


 彼はほくそ笑みながら、この歴史的な化け物と心中するのも悪くない、などと考えていたのだった。──一抹いちまつの切なさを感じながら……



 * * * * *



 リシュバークの街で夜が明けた。


 朝日が街を囲む高い壁を越えて街に差し込む。

 空は晴れ、白い雲がわずかにあるくらいで、ゆるやかに流れる風に乗ってどこかへ流されて行く。


 魔物の襲撃を受けた街は日が昇る前から慌ただしく人々が行き交っていた。

 亜人や魔物の死体をかたづけたり、負傷した兵士や冒険者を医者のもとに運んだり。

 戦いの音を聞きつけて震えながら夜を明かした市民もいただろう。

 何人かの冒険者や兵士の命もこの戦いで奪われたに違いない。



 だが──彼らは勝利した。

 魔女王ルディアステートとその配下のアイラスは消滅し、二度と彼女らの支配に怯えることはない。



 巨大な森巨人と窟巨人を倒した戦士たちの姿。

 その中に半妖精の男がいた。

 彼は全身鎧を着込んだ仲間と共に、数名の冒険者と協力して、巨大な死骸を街の外へと運び出している。

 壊れた門から怒涛どとうのように攻め込んで来た亜人や魔物。

 そのうちの何体かは、日の光が門から差し込むずっと前に、灰となって消え去っていた。




         ー 第七章「過去から未来へ息づく邪悪」完 ー

第七章「過去から未来へ息づく邪悪」終幕です。


第八章「英雄の資質」では、さんざん名前だけ出ていたあの人が登場。

最終章となる八章は長めのエピローグのような大団円のお話になります。

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