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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第六章 魔女王の首飾り

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発見された首飾りと灰

 なま温かい空気が奥から流れてくる。

 銀の羅針盤が反応し、洞窟の奥を指し示して針が揺れている。──かちかちかちっ、と小さな音を立て、暗闇の奥へ進めと羅針盤が訴えているようだ。

「いこう」

 携帯灯を手にしたシグナークが前に立とうとすると、レスティアも負けじと前衛に名乗り出る。

「狭い洞窟での戦闘は、私みたいな体のほうが戦いやすいでしょう」

 そんな風に言って剣を手に前へ進み出る。


 洞窟の奥から流れてくる空気には、亜人種の住処すみかから漂うような臭いがしない。ゴブリン特有の異臭や、腐敗した食べ残しの臭い。コボルドの放つ獣臭さといった臭いがまったくなかったのだ。

 洞窟内は奇妙なほど乾き、もった空気が蓄積されているかのようである。入り口は開かれていたのに、空気が対流することはなかったのだろうか。

 通路状に延びた道の先に、正面へとつづく道と、左右に分かれる道があり、右側をシグナークとレスティアが、左側をセーヴァとレイラが進む。

 二つの通路の先にはたくさんの小部屋があり、そこには古びた壺や、木製の棚らしき物があったが、ぼろぼろにち、崩れ落ちている。

「どうやらコボルドの巣穴のようだね」とセーヴァが説明した。

 錆び付いた鶴嘴つるはしに、いくつかの鉄鉱石が放置されたままになっている。


 十字路まで戻って来た四人は、互いの調べた部屋の状態を説明しあい、ここに棲みついていたコボルドたちは、なんらかの理由でここを放棄したのだと結論づけた。

「魔物に襲われたかな?」

「あの崖を上って? それはないでしょう」

 そんな会話をしつつ、シグナークは羅針盤を手に、反応が洞窟の奥からしていると告げる。

 四人は慎重に、通路のさらに奥へと向かって行く。


 洞窟は人工的に作られ、土壁は削られていた。ところどころに金属の金具が壁に取り付けられており、それがコボルドの作りだす「精光結晶」を置く場所だと四人は理解していた。

 コボルドたちがここで鉱石を掘り出していたのだろうと考えたが、通路の先には広い空間があるだけだった。

「なんだ、ここは……」

 携帯灯で照らすと、部屋の中にはコボルドのものらしい、白骨化した死骸が数多く転がっている奇妙な場所。その部屋の奥に台座があり、その上になにか人型の像が置かれている。


 それは片手を前に伸ばした姿で、右手に幅広の剣らしき物を地面に突き立てた格好で毅然きぜんと立ち、前方をにらむみたいに視線を向けていた。

「まさか……この像は──」

 セーヴァが台座に近づく。

 台座には古い文字が刻まれ、シグナークには読むことができなかった。

「どうやら魔女王ルディアステートの像らしいですね」

 レイラが台座を覗き込みながら言う。

「なぜこのような場所に… セーヴァのつぶやく声があたりに響く。

 シグナーク羅針盤を見ながら、奇妙な反応をする針の先を追いながら、地面を見つめて歩いている。


「ここにはなにもないようですが……」

 レイラの言葉が空洞の中に響く。

 シグナークは携帯灯で地面を照らしながら進み、台座から離れた場所にあった灰のかたまりを見つけだす。

「ここから反応がある」

「待って」

 セーヴァがその灰の山を見て声をあげた。

 彼は近くに落ちていたコボルドの物と思われる短剣のさやをつかみ、灰の塊にそれを突っ込んだ。


()()()()()みたいだが……」

 彼はそう言いながら持っていた皮袋に灰を入れ、さらに灰の中を探る。

 がちり、と固い物に当たった感覚。短剣を持ち上げてみると、その刃の先になにかが引っかかっていた。

「首飾りか──?」

 携帯灯の明かりを受け、銀の鎖付けられた真紅に輝く宝石が、キラキラと光を反射する。

「その首飾り──いや、赤い宝石に反応しているようだ」

 羅針盤の針がカタカタと小さく揺れて音を立てていた。


 周囲の様子を見たが、台座のある部屋の奥へとつづく穴が空いていたが──それはどうやら、コボルドが鉱石の採掘をおこなうために掘った穴であるらしい。

 念のためにと調べてみたが、どうやらそこは鉱山としてはいまいちだったようで、すぐに穴の先は行き止まりになっていたのである。




「さて、この首飾りをどうするか……」

 洞窟から外に出たセーヴァは、シグナークと二人の剣の魔女に視線を送る。

「それは──魔女イズアルベラに持って行って調べてもらうのがいいでしょう」

 シグナークの言葉に二人の魔女も頷く。

 吸血鬼の物と思われる灰は、シグナークとセーヴァの双方が皮袋に入れた物を持ったが、首飾りはシグナークが魔女イズアルベラの元まで持って行くことになった。

 レイラもレスティアも、その赤い宝石から禍々(まがまが)しい力を感じ、手にしたくないと言うのだ。

 彼は仕方なしにそれを皮袋にしまい、荷袋に入れた。


「では下山しようか。──と、その前に昼食にして、休憩をとってから下に向かおう。焦らずゆっくりと、怪我のないように下山しなければ」

 監査官はそう言うと、護衛と共に食事の用意をはじめる。食事と言っても、すでに用意されたパンや薫製肉にチーズと言った、あり合わせの食料と水分を補給するくらいだったが。


「二人はこの宝石からなにを感じるんだい?」

 黙々と出された食事を食べ、水を飲んでからセーヴァは、二人の剣の魔女に尋ねた。監査官が首飾りに魔法を掛けて調査しようとしたが、魔力の痕跡すら感じ取れないほどだったのだ。

 ところがこの二人は、この首飾りから放たれる、異質な力の痕跡を感じるとそろって口にした。

「それは──たぶん、()()()()()()()()()()()()。──つまり、魔女王の力だと……いえ、正確なことはわかりませんが」

「わたしも魔女王の物だと思う、なんとなくだけれど、ここに封じられていた力が解放されて、それがイズアルベラや、ギルドの千里眼? 能力者に感じ取られたんじゃないでしょうか」

 姉の説明に肯定の意志を示すレスティア。


 彼女たちの感覚からすると、この大きな赤い宝石からは、魔力以上のなにか、よからぬものを感じ取っているらしい。

 それは彼女らの原点である、魔女王ルディアステートから与えられた「魔神の力を有した魔女」としての本質に関わる部分が、根源である魔女王の力にある種の畏怖いふを感じているようだった。


「私は残念ながらここまでしか今回の件には付き合えないが、戦士ギルドとしては魔女王ルディアステートの復活など、なにをおいても阻止したいと考える案件だからね。帝国のギルドにも今回のことは通達してあるし、君らも遠慮せずにギルドに報告してほしい」

 監査官はそう言って立ち上がり、下山の準備をはじめる。


 シグナークも魔女王のことは気になっていたが、いまは早く下山してふもとにある小屋に泊まることを考えていた。

 山の天気は変わりやすく、危険であることを理解していたからだ。切り立った崖の多い岩壁山脈デュークアルゴアでの雨は、少々の雨でも行動不能になる可能性が強い。

 彼らが下山していると、空模様は彼の予感どおりに──雲行きが怪しくなってきた。

「雨は困る」

 セーヴァがつぶやく。


 山道を下りながら森の近くまで来たとき、レスティアが急に武器を抜いて先行したかと思うと、岩陰から現れた剣歯虎サーベルタイガーに斬りかかった。

「無茶だっ!」

 たった一人で猛獣を相手にするなんて、そういう意味の言葉だったろう。セーヴァとシグナークは荷物を置いて、少女の加勢に入ろうとする。

「大丈夫ですよ」

 その二人を冷静に制止するレイラ。


 少女は剣歯虎の前足の攻撃をかわすと同時に、猛獣の首を一撃で斬り上げて吹き飛ばす。

 剣歯虎からすれば、自分が死んだことにすら気づかなかったのではないか。それほどに鋭く、すばやい攻撃で首を落とされた虎。

 どさりと地面にいつくばった胴体と違い、勢いよく前に転がっていった頭部は、ごろごろと斜面を転がり落ち、崖下にある森の中へ姿を消したのである。


「いやはや、さらに剣筋が速くなってないか」

 監査官が呆れた感じで長剣を鞘に戻す。

「さあ、早く下に行きましょう」

「焦らず、慎重にな。急いでも危険だ」

 シグナークも武器を収め、少女に声をかけた。

 彼はレスティアに先陣を任せることにしたようだ、少女の荷物を代わりに持ち運ぶ。あの動きを見る限り、斜面での戦いにもまったく違和感なく行動できるのは明らかで、彼女に護衛を任せるほうが安心して下山できると判断したのだ。




 彼らが山の麓にある森に入ったとき、雨が降りはじめた。

 それほど勢いよく降ったわけではないが、木の葉を打つ雨音があたりに響きわたり、空に広がる灰色の雨雲によって、森の陰はすっかり暗がりに包まれてしまう。

 護衛を引き連れた彼らは森の中を進み、小屋まで戻って来ると、結界が張られていることを確認し、ドアを開けて小屋の中へ入る。

「……ふぅ、早めに戻ってこれてよかった」

 外は太陽が沈み、雨雲におおわれた空は月も見ることができない。


 小屋で腰を落ち着けると、セーヴァやシグナークらはこれからのことについて話し合う。

「私はガレンツァールのギルド中枢ちゅうすうに報告に行く。すでに各重要国には手紙を送り、魔女王とその配下アイラスに対する警戒を呼びかけているが、君らには帝国に報告に行き、洞穴で見つけた首飾りと、吸血鬼の灰らしい物の調査をお願いしたい」

 彼は帝国に送り込まれた剣の魔女イズアルベラなら、魔女王の痕跡を突き止められるのではないかと考えているようだ。

 異質な魔力を感知する羅針盤の性能からしても、彼女ならなんらかの発見をしてくれるだろうと、そう期待しているらしい。


「わかりました、明日からさっそく帝国へ戻るよう行動し、ことの報告をしたいと思います」

 彼らは深刻な様子でそう話していたが、食事をとって、眠る支度を済ませたころに、屋根を打つ雨音は止んでいた。

 一つの部屋しかない小屋の中で八人が眠ることになり、寝袋などを使って横になると、しんと静まり返った闇の中で体を休めるのであった。

あと1話か2話で、この章も終わりです。


精光結晶はコボルドが鉱石から作り出す結晶で、洞窟内を照らし出す明かりとして、冒険者たちにありがたがれている。「コボルドの明かり」みたいに言われることも。

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