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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第一章 二人の冒険者の出会い
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魔獣の群れとの戦闘

 遺跡の内側へ向かう通路はまるで朽ち果てた回廊がどすんと上から降ってきたかのごとくに、崩れた高い壁を築いていた。崩落した建物の壁を動かして別の壁を築いた者がいる、と考えるのが自然だろう。乱雑に組み上げられた──その壁とも言えぬ代物を積み上げるのは、ゴブリンやオークであろうか。

 遺跡の石畳はところどころ壊れていて歩きにくい場所もあったが、通路としての機能は維持されている。積み上げられた石壁の一部が崩落して、通路に転がっているのがいくつかあった。中には大きな円柱が倒れ、通路に横たわって道をふさいでいることもあった。


 遺跡の内側へ向かっていると、遠くのほうで戦闘音が聞こえてくる。ほかの冒険者たちが戦っているのだろうが、魔獣の吠え声などは聞こえてこない。いったい何と戦っているのかと耳をそばだてていると、通路の先にある十字路を──魔獣ギュネルが横切るのが見えた。そいつは迂闊うかつにも二人の姿をまったく認識しなかったようで、そのまま通りすぎて行ってしまう。


 追いかけましょうと言うふうに少女はシグナークを振り返ってうなずく。彼も少女に頷き返して、足音を殺しながらもすばやく魔獣のあとを追う。追跡は得意なほうなのシグナークであったが、少女は軽装の上にかなりすばしっこく、大振りの剣を手にしたまますばやく進み、十字路まで来ると身をふせて、各方向に延びる通路に目を向ける。

 魔獣が進んで行った先以外には敵となる者の姿は確認できない。少女は魔獣の後方から迫る形で通路を移動しようとした。


 その少女の腕をつかむと、いきなりシグナークは自分のもとに少女を引き寄せた。次の瞬間、崩れた壁の向こうから大きな鉤爪が伸びてきて、少女の立っていた場所をかすめていった。


 知能の高い魔獣が冒険者をわざと通路へ追いかけるよう仕向けて、不意を突こうとしたのだ。少女は危ういところで難を逃れたが、大剣を身体の前を隠すように立てていたところを見ると、奇襲を予測していたらしい。

 少女は小声で礼を言いながら、大きな鉤爪の付いた腕に向かって鋭い突きを放つ。

 一瞬の差で魔獣の前足が通路の向こうに消え、替わりに四体の魔獣ギュネルが十字路に走り込んで来た。崩れた通路の壁を飛び越えて現れた二匹の魔獣が、彼らの来た道をふさぐ形で身構える。


「どうやら罠にかけられたらしい」


 シグナークは焦った様子もなくそう言うと、少女に後方の二匹を頼むと言ったが、彼女は十字路に現れた四匹の内の二匹に向かって突進して行った。後方の二匹が挟み撃ちを仕掛ける前に前方の四匹と、前足の大きな鉤爪と頭部から突き出した角を持つダスクギュネルを迎え撃つ形になる。

 少女の無茶な行動に内心舌打ちをしながらも、彼は十字路に躍り出ようとしていたダスクギュネルに一撃を加える。魔獣の首領は身体に傷を負いながらも後方へ退く。横から襲いかかって来た魔獣に蹴りを入れ、怯んだ相手の頭部を一撃で叩き割る。

 獣の頭部から真っ赤な血と脳漿のうしょうがこぼれ落ちた。

 少女のほうもすばやい動きで二頭をしとめて、十字路の残り一匹を迎え撃ちに行く。


 シグナークは挟撃に来た後方の魔獣たちに向かった。二歩進み出ながら身体を左右に振って相手の攻撃態勢に迷いを生じさせ、二頭の身体が重なるほうへ回り込み、手前の魔獣に鋭い突きをおみまいする。


 後方から大型の魔獣ダスクギュネルが進み出て、少女のほうへ向かうのを感じながら、飛びかかって来たもう一頭を狙って剣を横薙ぎにし、前足と腹部を叩き斬る。魔獣の身体は重い一撃を受けて通路の反対側まで吹き飛び、崩れた石壁に血をぶちまけながら激突した。


 少女のほうはダスクギュネルの前に残っていた魔獣を、身体を回転させた豪快な振り下ろしの一撃で倒し、その動きの流れのまま身体を反転させて──ダスクギュネルのほうに向かって突進する。

 かなり規格外の荒っぽい動きだ。先ほどよりも動きが加速しているようにも感じられ、少女の底知れぬ戦闘技術に感嘆かんたんすると同時に、荒っぽい戦闘姿勢(スタイル)に、冒険者としての慎重さが欠けていると、シグナークは思わざるを得なかった。


 少女の攻撃が魔獣の鉤爪を叩き折り、すばやい連続攻撃で相手の分厚い皮を斬りつけると、ダスクギュネルはたまらず二、三歩後退した。

 シグナークは魔獣の横に回り込むと後ろ足と脇腹を狙って斬りつけたが、魔獣は横に飛んで剣を躱し、二人のほうを睨みつけて威嚇いかくのうなり声を上げる。


 すっと少女が腰を落として石床に手を伸ばす動きをしながら、何かを唱えていた──呪文か? とシグナークが気づいたときには、魔獣の足元から数本の黒い棘……槍状の影が飛び出して、ダスクギュネルの足や胴体を貫いていた。

 魔獣の首領は苦しげなうなり声を上げたが、逃げることもできずに石畳の上に崩れ落ち、穴の開いた箇所から黒に近い色の赤い血を流して絶命し、動かなくなった。

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