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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第四章 荒れ地の魔女の業

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魔女王の側近と幻獣の試練

 レスティアとイブニスノアは荒れ地の中央にある洞穴の近くまで来た。封印境のほこらは洞穴の中にある。このあたりは異界を封じる力が強く、魔物たちもここから発生することは無いだろう。

 レスティアはイブニスノアに離れた場所で待っているように言いつけると、幅広の剣を構えたまま単身で洞穴のほうへ向かって行く。洞穴の前には岩山に囲まれた広い場所があった。むき出しの地面が広がる空間──そこが試練の場所。


 洞穴に近づいて行くと、洞穴のある岩山に雷が落ちた。雲一つない晴れた空だと言うのにである。

 すると岩山の上に何かが立ち上がったのが見えた。四本足の獣──銀色の毛に混じってところどころが青や緑色の毛におおわれた、見たことのない種類の魔獣──いや、合成獣だ。


 背中から生え出ている物は翼ではなく、鋭く尖り、曲がった鎌に似た黒い刃だ。それは機械的な間接部分を動かしてがちゃがちゃと音を立てている。

 身体は細長くひょうに似ており、頭は小さめの獅子を思わせる。四肢ししは強靭さと俊敏さを備えた獣特有の膂力りょりょくを秘めた太い足。その指先には鋭く尖った金属質の爪が突き出ていた。


 長い尻尾の先には鋭く尖った槍の穂先に似た物が付いており、ゆらゆらと揺れながらときおり地面を削りながら歩いて来る。

 洞穴の上部から飛び降りると、その大きさがはっきりとわかった。体長は頭から尻までで測ると約四メートルほどの大きさで、紫色に光る眼を持ってレスティアを見ている。


 強い魔力を感じる敵に向かって厚みのある剣を構えるレスティア。

 合成獣は数歩前に歩んでから少女の正面で立ち止まると、威嚇いかく咆哮ほうこうを上げながら後ろ足で立ち上がり、前足を地面に叩きつけると少女に向かって突進してきた。


 * * * * *


 ファーレオン帝国がルディアステートに支配されたのは約六百年くらい前のことだ。そのときに消えた半人半魔のアイラスが──いまだに生きつづけていると仮定しても、どうやって魔女王ルディアステートを復活させるというのかとシグナークは尋ねた。


「うむ、世間には魔女王ルディアステートが倒されたあとどうなったのか、まったく知らされていない。墓も無く、魔女王の痕跡こんせきを示す物は何も残されてはいないのだ。()()()()()

 魔女の長ヴェルカーリムはそう言って長椅子に腰かけ、白い茶碗カップを手に取ってお茶を口にする。


おおやけにはされていないが魔女王ルディアステートの墓標は存在する。そしてアイラスは、すでに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。奴がルディアステートの墓標を見つけたなら必ずや、魔女王の復活を望んで行動を起こすはず。その兆しがあれば私は帝国にしらせを出す手はずになっているのさ」


 ヴェルカーリムは何代も魔女王ルディアステートの墓標を見守り、魔女の長が受け継ぐ魔眼の力をもって、アイラスの活動を先読みしようとしているらしい。

「奴が活動を開始したのを察知したときは戦士ギルドに秘密裏に知らせて、手練れの者たちに討伐を依頼するように取り計らっていたが。その多くは徒労に終わり、アイラスと接触できた者たちは──ほぼ間違いなく帰って来なかった」

 ここ数十年の間にやっと活動を察知できたのが数回あるだけだが、と魔女の長は言う。


「相手の活動がわかるのなら人海戦術で対抗できそうですが」

 シグナークの言葉にヴェルカーリムは首を横に振る。

「残念だが私が受け継いでいる『()()()()()』は劣化品でな、本来の力が発揮できぬのよ。しかもアイラスは長い休眠期があるらしく、数十年置きに数日のあいだだけ活動をはじめるのだ。これを正確に予知するのは難しい」


 エレミュスはなぜそんなに長い休眠期があるのでしょうかと、もっともな疑問を口にしたが、魔女の長もそれについてははっきりとはわからないらしい。

「しかしアイラスは間違いなく魔神の力に取り込まれた怪物──いや、()()となって生きつづけている。私たちガルド・モールナの末裔まつえいにとってはアイラスもルディアステートも、ぬぐい去りがたい悪夢のようなもの。これを世界から取り除く為に、戦士ギルドの戦士である君らにも手を借りることになるかもしれんからな。そのときはぜひ頼みたい」


 魔女の長はそう言って頭を下げる。クィントゥスやエレミュスは、自分たちの力でどうにかできるものなのか、といった不安のにじんだ顔をしているが──シグナークは違った。

 彼は「そのときには必ず力を貸しましょう」と応えたのだ。彼の剛胆な性格ゆえの返事──というよりは、レスティアにも関係する異質な素性すじょうを持つ相手に興味を持った様子だ。

 帝国の歴史に名を刻む怪物に興味を持った、という側面もありそうだが。


「まあそうは言っても、予知できるのはせいぜい数日前にわかるくらいだからな。間に合わない場合は仕方がない。なにしろ数十年に一度だ。今度は来年に現れると思われるが……」

 魔女の長が言うとエレミュスは「来年!」と大きな声を上げた。いまから三光神教会のほうに連絡すればなんとか来年までには、魔人に対抗する戦力を整えられるのでは──と口にする。


「三光神教会にも知らせてあるよ。あそこは帝国とも親密だからねぇ。もちろん上層部の者しか知らされていないだろうが、あんたたちも迂闊うかつに今日聞いた話を広めないようにね。確証のない事柄にすぎないんだから。ひょっとすると今年かもしれないし、再来年になるかもしれない。──アイラスの出現は曖昧あいまいなものだから」


 そこまで話すとヴェルカーリムは()()と手を打つ。

「おっと、レスティアが受ける『幻獣の試練』について話を聞かせるはずだったねぇ。なぜならこの試練には『光の魔女セルラーシェス』の意志が関係している試練なのだから」


 * * * * *


 合成獣はレスティアに向かって突進し、少女の手前で足を踏み込み地面を削りながら立ち止まると、背中の刃を薙ぎ払って攻撃してくる。身体を横に向けてすばやい攻撃を繰り出してきた合成獣。

 少女はその刃を後方に宙返りしてかわすと、遅れて飛んできた獣の尖った尻尾を剣で弾き飛ばす。

 合成獣はその場で一回転すると少女に向きなおる──が、そこにレスティアの姿はない。


 レスティアは獣が回転する方向に移動して側面に回り込むと、脇腹を狙って斬りつけた。相手が振り向く前に頭を狙って二撃目を薙ぎ払ったが、その攻撃を合成獣は後方に飛び退いて躱した。

 間合いを詰めようとする少女の動きに対応して、すばやく位置を変えながら背中から生えた刃と、尻尾の槍で攻撃してくる獣に苦戦を強いられる。

 彼女が自らの身体に加速魔法をかけて速度を上げようとすると、合成獣も同じように魔法を使って己を加速させてきた。


「このぉっ……!」

 ぶうんと大きく薙ぎ払った剣を後方へ飛んで躱す合成獣。その場から魔法の弾丸を数発発射してレスティアを守りに入らせる。

「グゥルルルゥ……」

 低い唸り声が、まるで笑い声のようだと感じたレスティア。だが、彼女は冷静になって考えはじめた。


(これは幻獣を相手にする試練。幻獣とはこの魔法で作られた合成獣──こいつは封印境を守る守護獣で、私たち魔女のことをよく知っているとおさも言っていた。勝つ為には覚悟と、己の弱さに打ち勝つ心が必要とも言っていた──)

 合成獣は雷をまとうと、それを彼女に向けて撃ち出してきた。


 少女は咄嗟とっさに魔法の障壁を張って防いだが、ビリビリとした放電を受けて膝を突く。

(私の優位点は速度。しかし、こいつも加速をおこなってくるだろう──いや、それだ。私はこいつよりも速い。絶対に速い! 私の加速についてこられるものならついて来い! 必ず追い込んで、倒し切ってみせる!)


 レスティアは立ち上がると加速魔法を己にかけ、そのまま相手に突進する。合成獣も加速魔法をかけて対抗し、後方へ飛んで剣を躱す。彼女はその瞬間に気を体内に充填じゅうてんさせて瞬発力を上げ、さらに前へ踏み出しながら加速魔法を重ねがけする。

 合成獣が加速魔法の光をまとう瞬間には、彼女は一瞬で獣の眼前に迫り、獣の頭部を薙ぎ払った。獣はその剣先で片目を傷つけられながらも、()()()()ところで躱し、背中の刃を振って反撃する。


 レスティアは相手のふところに入りながら幅広の剣を振り上げて、その刃を根本から斬り落とした。

 斬り落とされた鎌状の刃が地面に突き刺さる。


 獣の側面から立てつづけに剣を二度、三度と高速で振り下ろし、胴体に向かって鋭い連撃を叩き込む。さらに身体を回転させながら踏み込んで斬りつける戦技を脇腹に浴びせかけると、合成獣は派手に吹き飛んで岩山の壁に叩きつけられ、低いうめき声を上げた。


 合成獣はまだしっかりと四本の足で立っていたが、身体が青白い光に包まれて大きな光のかたまりとなり──洞穴の中へすごい勢いで飛んで行った。

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