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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第四章 荒れ地の魔女の業

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幻獣の試練へ向かうレスティア

 シグナークは若干悶々(もんもん)とした気持ちを抱えながら目覚めた……無理もない──彼は若い男なのだ。いきなり娘のいる女とはいえ、若く美しい女に迫られた彼は仲間のレスティアの気持ちを考え、自分を抑えるように努めたが──普通に街の宿で、あのように迫られたら……拒絶することは難しいだろう。

 彼は早めに起きると武器を手に家の外へ出て、体を動かすことにした。──外に出ると荒れ地特有の乾燥した朝の空気が日の光に照らされていくところだ。


 集落の中に人の姿はない。集落の外側にある小さな農場から山羊の鳴き声が聞こえてきた。

 剣を手にいくつかの戦技を放って、土の匂いに満ちた空気を薙ぎ払うみたいに鋭い連撃を打ち出してゆく。


 彼は剣を構えると意識を集中し、ヴォアルススの使ってきた戦技を模倣することに感覚を研ぎ澄ませた。──敵に接近しつつ足を使って横に跳ぶと、鋭い突きから身体を回転させての浴びせ斬りを打ち出す技だ。

 突きはほとんど囮として使ってきていたが、彼は──その初撃から急所を狙って突くか、相手の武器を持つ腕やわきの下などを狙って反撃を押さえ込みながら、次の大技を繰り出す心象イメージを持って何度もその技を練習する。


「まるでヴォアルススですね」

 空き地で訓練しているとレスティアがそう声をかけてきた。少女は息を切らせている相手に朝の挨拶をしてから、昨晩のことを謝罪した。


「夕べは申し訳ありませんでした。母はその──()()なんです、少し」

 少女は暗い表情でそう説明する。

「ああ、いや。うん──気にするな」

 シグナークは曖昧あいまいに応えながら息を整えて剣を鞘にしまう。──彼はいつもやるように剣をすばやく振り下ろしてから(血糊ちのりを落としてから)鞘に剣を納める。


「それよりレスティアは平気か。その試練というのは危険なんだろう」

 彼の言葉に「ええ」と答え「それなのにあの母親は……」と呪詛じゅそを口にする。娘の覚悟をなんだと思っているのか。少女の口から「いっぺん()()()()()()()()いけませんね──」などと物騒な言葉がもれたので、シグナークは思わず「お手柔らかにな」と()()()()()()


 レスティアは彼の言葉に「ふふっ」と笑い、食事の用意をしてきますねと、くるっと背を向けた。彼女の小さな背中からはいつもと違った覚悟や闘志が見えた気がして、シグナークはもう少し身体を動かしていくことにした。




 レスティアの用意した(彼女の母親は現れなかった。レスティアの表情を見る限り軟禁されているとしても不思議ではない)食事を食べる四人。クィントゥスはまだ眠たげな様子である──

 エレミュスは魔女の焼く甘いパン(やや固い)が気に入ったらしい。レスティアも久しぶりに口にしたが、これは蜜蟻みつありの蜜を使って作るので荒れ地でしか食べられませんね。と言って二個目を口にする。


 朝食後には不思議な緊張感が四人のあいだに広がった。これからレスティアにどのような試練が待っているのかを想像し、仲間の身を案じたのだろう。

 レスティア自身もこれから向かう幻獣の試練がどのような物なのかを想像して、緊張を隠しきれないでいる。──彼女にしては珍しいことだ。


 少女は一旦自室に戻って支度をするので、三人は長のところへ出かける用意をしておいて下さい、と言って部屋に入って行った。

 しばらくすると少女はいつもの黒と白を基調としたゆるやかな服装ではなく、薄い灰色と深い青い色の線が入った動きやすい服装になって部屋から出て来ると「行きましょう」と声をかける。


 四人は彼女の生家を出て魔女の長ヴェルカーリムのいる建物に向かった。すると建物の前にイブニスノアが待っていて、少女に声をかけると「あんたたちはここで留守番な」とシグナークたちに言う。

「それでは私は試練を受けに行ってきます。ここで待っていて下さいね」

 レスティアはそう言うと、心配そうにしている仲間に「大丈夫ですよ、すぐに戻って来ます」と言って仲間たちに背を向けた。


「お入り」

 三人はレスティアとイブニスノアの背中を見送ってから魔女の長の建物の扉を叩き、魔女の許しを得てから家の中へと入って行った。昨日と同じく甘い香りと薬の匂いが混じった香を焚いている。


「レスティアの心配をしているようだけど、そんなことは無用だよ。あの娘はそんなにやわじゃない。『幻獣の試練』だってちゃんと乗り越えられるさ」

 魔女の長はそう言って使いの者に指示を出し、四人分のお茶を用意させる。

「試練の内容について話す前に、昔話を聞かせようじゃないか。しっかりと聞いておくれ? これからこの大陸に降りかかる災いについての話になるかもしれないのだから」


 * * * * *


 レスティアたちが荒れ地中央に向かおうとすると、何度かの魔物との戦闘がおこなわれたが、二人の強靭な剣の魔女の力の前にそれらの敵は──まるで、暴風の前の枯れ木の様な物だ。

 すさまじい力で幹をへし折る暴風はことごとく敵を巻き込んで、あっと言う間に地面へ死体を転がしてゆく。容赦はまったくない。むしろ守る必要がある仲間がいない分だけ、自由に──その暴風が暴れ回り、無慈悲な旋風が竜巻となって魔物どもに襲いかかったかのようである。


「相変わらずすさまじい速度だなぁ、力もだいぶ強くなった。まあ、私ほどではないけどな」

「あなたと同じようになったら、私もいよいよ化け物に近づいたということでしょうね」

 少女の吐く毒にイブニスノアは「あっははは」と笑い、荒れ地の奥へつづく結界の道を通って──ときに大きな崖状の岩山を避けたりしながら進みつづけた。


 * * * * *


 いまから六百年ほど前にラクスバールという国があった。大きな国ではなく、かと言って小さな国でもない。──肥沃ひよくな土地に恵まれているわけでもなく、主要な産業は小麦と牧草。それらを餌にした牛や、羊や、鶏などの畜産によって、それなりに生産活動がおこなわれている国であった。


 ときは侵略によって国土の拡大を目指す戦乱に揺れ動く時代である。ラクスバールも近隣国から何度か侵略を受けるも、これを撃退するだけの武力と糧食を有していたのである。


 そんなラクスバールの王宮にある日、若い魔女が現れ王や諸公に取り入った。彼女は「先見の魔眼」を持つと語り、諸外国の度重なる侵攻に頭を悩ます諸公らの後ろ盾になると申し出て、これをその言葉どおりに果たすと、王や大臣らも彼女の手腕を頼みにするようになり、王宮内で彼女をおとしめようとするような、権力者たちの権謀術数けんぼうじゅっすうが渦巻くこととなったが。彼女はそれらもことごとく回避してみせ、貴族など諸公たちを短期間で完全に鎮圧した。


 この魔女の名はルディアステート。

 のちにラクスバールを大きな国となるまで導き、その権力の座を王から簒奪さんだつした魔女として「魔女王」と呼ばれることになった。


 魔女の長ヴェルカーリムは、王の座を奪った魔女王の手によって生み出された二種類の魔女について語り、自分たちがその「ガルド・モールナ」の子孫であることを説明する。──が、三人の反応を見てレスティアからそれらのことを聞いていたのを知ると「それなら話が早い」と言って、魔女王ルディアステートの側近の話をはじめる。


「彼女の名はアイラス。強力な力を秘めるガルド・モールナの中でももっとも強力な力を持っていた者。ガルド・モールナの多くが短命であったと言われているが、この魔女はルディアステートの、ひいては魔神ロウシャームの力を与えられて不滅に近い身体を持っていたと言われておる」


 しかしレスティアから聞いた話では「光の魔女セルラーシェス」によってルディアステートは倒されて、危険な魔女たちはちりじりとなり、国から追放されたのでは? と言うクィントゥスの言葉にヴェルカーリムはうなずく。


「しかし、その戦いの中でアイラスが()()()()()()()()()()()のさ。側近中の側近であるアイラスが主を守らずにどこへ消えていたのか。それはいまでも明らかになっていない。帝国では有名な話さ。それでルディアステートが討たれた九月の十三日になるとどこからともなくアイラスの亡霊が現れて、人をさらって行くと言われている。──もう何百年も昔の話なのにね」


「そのアイラスがいまだに生きていたとして何を企むと言うんです?」

 またしてもクィントゥスが尋ねる。

 魔女の長は一度だけ重い頷きをしてみせると「魔女王ルディアステートの復活」と口にした。

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