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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第四章 荒れ地の魔女の業

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レスティアの秘密

やっとレスティアの秘密について語られ、次の旅に向かうことに。

 二人は力強い先達せんだつを見送ったまましばらく立ち尽くし、街の中へと戻って行った。道を歩く人々の中に見覚えのある顔がいくつか見える。向こうもシグナークらに気がつくと、先頭を歩く女が声をかけて来た。昨日の上級悪魔との戦いで共に戦い、その夜には祝宴を上げた女騎士の一団だ。

 いまは鎧を着込んでおらず、旅用の衣服を身に着けていた。


「やあ、昨日はお疲れさま……もしかして、あの金階級の人が街を出て行ってしまったのかい? 本当に君らのパーティに、一時的に参加していただけだったのか」

「ああ、ドーファさんは、ベイルアークにいる仲間と合流するために出て行ったよ」

「そうか。しかしあの人の強さにも驚かされたがシグナーク、君にも度肝を抜かれたよ。まさかヴォアルスス相手に、戦技をわざと使わせて勝つなんて、無茶がすぎる」


 そう言って彼女は「私のパーティの仲間だったら説教ものだな」と美しく笑う。彼女のその動作は貴族的で優雅なものだ。おそらくは良いところの出の騎士なのだろうと彼は考えたが、口にはしなかった。戦士ギルドでは身分などを問題視しないことになっているのだ。


「私たちはこれからレルハンドラの街へ向かう予定だ。君らは?」

 女騎士──昨日の祝宴で名前を聞いていた──リアス・クラムフェローはそう尋ねてきたが、シグナークはまだ予定は立てていないんだと答える。


「そう……おっと、そうだった。昇級審査はもう受けたのかい? まあ、君らなら問題なく魔法銀ミスリル階級になれたはずだが」

 彼女の問いに答える代わりに、首から下げた新しい階級章を見せる二人。その青い階級章を見ると満足げに微笑む。


「君らとはここで一旦お別れだが、またどこかで会うこともあるだろう。そのときには互いに、より一層強くなっていることを期待している」

 お固い騎士らしい彼女は、そう言葉を残して仲間と共に街を出て行った。残されたレスティアたちは魔術師ギルドへと向かい、エレミュスの様子を見に行くことにして、通りを歩きはじめる。


「より一層強く……ですか。そうですね、私たちは強くならなければいけませんよね」

「冒険者は魔物や、敵対亜人種と必然的に戦うことになるからな。強くなければ生き残れない」

 レスティアはシグナークの言葉に頷き、何か考えを巡らせているようだ。彼女にしては珍しい重い沈黙のあと、こう切り出した。


「私は一度、故郷に戻ろうかと思います」




 エレミュスとクィントゥスは、二人が魔術師ギルドの前に来ると建物の入口から姿を現した。象徴的な模様を彫り込んだ壁や柱のある魔術師ギルドは、入り口の造りが戦士ギルドと比べて格調が高く。青い塗料で彩られた木製の扉に真鍮製の取っ手などが付けられている。


 大きな扉を押し開けて出て来た二人は、レスティアらの顔を見ると小走りに駆け寄る。エレミュスは新しい魔法二つと契約をして、一つはもう習得できたと自慢げに話す。

 シグナークは魔法に関しては、基本的な知識しか持たないので何もこたえなかったが、レスティアのほうは「お疲れさまです」と、彼女の労をねぎらう。


「でさ、これからどうする? またグラナシャウド大迷宮に行って依頼をこなす?」

 クィントゥスがそう言うと、レスティアが先ほどシグナークに言ったとおりのことを口にする。

「故郷? 帰っちゃうの? そんなのやだ──!」

 子供のようにわめき出す彼女を完全に無視し、少女はつづけてこう言った。


「あの場所は大変危険なので、皆さんとはここで別れたほうがいいでしょう」

「……危険な場所が故郷なのか。俺とは逆だな」

 シグナークのつぶやきは、三人には聞き取れなかったらしい。エレミュスは少女と別れることになる気がしていたのか、特に口を出さなかったが、危険な場所に帰ると言われてもやもやした気持ちになり「危険な場所なら、四人で行ったほうが安全では?」と、もっともな意見を口にする。


「そうだよぉ、一緒に行くよ! よ──し、次の目的地はレスティアちゃんの故郷ね!」

 そう宣言したクィントゥスに、嫌そうな表情を向けて「お断りします」との無情な一言。




 彼女らはその後も話し合いを重ねていたが、シグナークが前々から思っていたことを少女に尋ねた。

「もしかして、その故郷というのはモルガ・ディナなのか?」

 彼の言葉にレスティアは、まっすぐにその瞳を覗き込み「そうです」とこたえる。

 エレミュスは薄々──というか、ほとんど確信していたのだろう。その返事にやっぱり、というような反応をする。


「モルガ・ディナ? なにそれ」

「あなたは……私の赤い瞳を見て、何も疑問に思わなかったんですか」

 少女は「あきれた」という言い方をしたが──どこか、ほっとしている様子でもある。


「モルガ・ディナは『魔女の領域』を指す言葉。私は大昔に、魔女王ルディアステートによって生み出された──魔神の力をそそぎ込まれた魔女の、末裔まつえいなんですよ」


 赤い目をした者がすべて、この魔女というわけではない。生まれつき虹彩こうさいが赤く色付く者も数は少ないがいるのだ。しかし、彼女の言う「魔神の力をそそぎ込まれた魔女」とは、一般的な「魔法を使える女」といったものとはまったく異なる意味を持つ。


「私の母親は魔神の力を持つ『ガルド・モールナ』の末裔でした。代を重ねるごとに魔神の力の影響は薄くなると言われていますが、それでも同世代の女の子より力も、魔力も強いことは疑いようがありません」


 四人は場所を変え、噴水のある広場へ行き、長椅子にレスティアたちを座らせると、シグナークは一人立ったまま少女の話を聞くことにした。この中でガルド・モールナについて知らないのは、クィントゥスだけのようである。


 * * * * *


 かつてガレイレア大陸には二つの大きな帝国があった。その一つは、すでにこの大陸から消滅しているが、もう一つは──その領土をせばめてはいるがいまだに存在している。この帝国の名はファーレオン。この帝国を(一時とは言え)簒奪さんだつした者が、魔女王と言われるルディアステートである。


 ルディアステートが帝国の簒奪に成功すると、おのれの地位を盤石の物とするために、その当時は虐げられていることの多かった魔女たちを召集し、魔力の高い魔女は魔神や魔物を使役するゼルト・モールナとして重用し。魔力の低かった魔女は、魔神の力をそそぎ込んで筋力や魔力を強化した、()()()のガルド・モールナとして彼女らを支配し、帝国を私物化しようとしたのだった。


 この魔女王に立ち向かったのは、この国の貴族の一人である若き領主と、彼に協力する魔女……のちに、光の魔女などと呼ばれるセルラーシェスを中心とした、騎士や兵士たちである。

 くわしいことは割愛しよう。──彼らは苦難の末に魔女王を打ち倒し、帝国の新たな皇帝として、若き領主が台頭たいとうすることとなったのだ。


 そんな魔女王が生み出したガルド・モールナは、その出自のために多くの者から敵意を向けられることとなったが。彼女らもまた、最後はファーレオンと共に外部から押し寄せる敵と戦い、ガルド・モールナが人間の味方であることを示したのだ。


 * * * * *


 レスティアが、そのガルド・モールナの末裔であることを知って動揺する者は、ここにはいなかった。クィントゥスに至っては、彼女の強さの理由を知って出た感想が「そうか、そのガルド・モールナって強いんだねぇ」だったのである。


 レスティアの告白の真意に気づいていないのかと思いきや、クィントゥスはつづけて言葉をつないだ。

「魔神の力を持っていたとしても、レスティアちゃんはレスティアちゃんだから、私はついて行くよ。モルガ・ディナでも──どこでもね」


 彼女の言葉は優しかったが、少女の反応は「そうですか」という素っ気ないものだった。

 だが彼女は小声で「ありがとうございます」とも口にしていた。──クィントゥスには聞こえないくらいの小さな声だったが。


「そうね、私もクィントゥスに賛成。生まれは選べないのだから、そのことについてとやかく言うべきじゃないと思います」

 エレミュスの言葉には力強さがある。彼女の所属する三光神教会では、ガルド・モールナについては「恩赦おんしゃ」が与えられている、としているのだ。三光神教会の大本が、ファーレオン帝国に古くから伝わっている伝承を引き継いでおり、三柱の内の一柱ひとはしらである神が、帝国ファーレオンの守護神であることも大きい。


「そのとおりだな」とシグナークは言い、つづけてこうも言った。

「だがモルガ・ディナの荒れ地には、危険な生き物や魔物が多く出現するのは事実だ。行くなら相当の覚悟が必要になる」


 彼は過去にモルガ・ディナの広大な荒れ地に数名のパーティでヒドラ(多頭大蛇)の討伐に向かったらしい。岩山や土がむき出しの乾いた土地で出くわしたのは、大きな狼に似た魔獣や大蛇。炎を吐く大蜥蜴(とかげ)、狼男など……結局ヒドラに会うこともなく帰還したそうだが。


「俺も仲間も、ぼろぼろの状態でメリダウの町へ戻った。特に巨大な狼を思わせる魔獣ウォルバスは知性も高く、仲間を失いかけたくらいだ」

 彼の言葉にレスティアは真剣な面持ちで頷く、彼女にとってもウォルバスは危険な相手であり、ヒドラと共にモルガ・ディナに出現する魔物の中でも、もっとも会いたくない相手である。


 シグナークの言葉を聞いて若干じゃっかん、不安の色をにじませる二人の戦士と神官ではあったが、レスティアたちのみで行かせるわけにはいかないと気を吐くのであった。

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