探索へ向かう二人
鋼階級用の仕事はいくつか残っていた。小さなウジャスの街では、銅から魔法銀階級あたりの冒険者が数十名は訪れているはずだが、この日は冒険に出る者は少なかったようだ。討伐系の物は何パーティが受けても問題ないが、討伐対象が少ない場合は早い者勝ちになる。
コルヌス渓谷近くにある遺跡での魔獣ギュネル討伐任務と、魔獣ギュネルの首領格である大型種ダスクギュネル(大きな一角を持つ)の角を一本入手する依頼が、上手く行けば同時に二つの仕事をこなしたことになるのでおすすめだが、危険をともなうので──パーティを組むことを受付嬢は勧めた。
「首領格のダスクギュネルは数匹のギュネルを率いていますので、お一人では危険です。魔法銀階級の方であってもパーティを組むことをお勧めする任務です」
男……シグナーク・ギオスヴァークは、この街に来たばかりで仲間のつてがないことを告げると、そこへ先ほどの一風変わった雰囲気の少女が声をかけてきた。
「魔獣狩りに行かれるんですか? 私と一緒に行きませんか」
少女はにっこりと微笑みながら、首から下げた革紐を持って鋼の階級章を見せる。シグナークはちらりと受付の表情を確認すると、彼女は何やら言いたげな表情をしていたが、少女の前でそれを話す気はないようだ。
「私はレスティア・ヘルブランド。剣と、攻撃系の魔法を少々使えます。いかがですか?」
「俺は魔法を使えない。戦技のみだ」
シグナークはそれでもいいか? と言うみたいに視線を少女に送ったが、レスティアは曖昧に微笑んで見せてから頷いた。
「せめて回復役の神官職の方を連れて行ったほうが……」
受付嬢の言葉に二人は首を横に振る。シグナークはあっさりと「問題ない」とだけ言って、ベルトに付けた小さな鞄を軽く叩く。回復薬なら持っている、という合図だ。
「コルヌレーヴァの遺跡には別の少人数パーティも向かいましたので、交渉すればパーティに加えてもらえるかもしれませんよ。あ、でも……」
受付はそう言って、ちらりと少女の方を見たが──それ以上、口にはしなかった。
こうしたなりゆきで二人は共通の目的を達成するために、コルヌス渓谷まで徒歩で向かうことになった。レスティアは街を出る前に宿屋へ戻り、回復薬を数本用意しただけで、すぐにシグナークと合流する。
彼女は彼が見たことのない素材で作られた革の籠手を身に着けただけで宿から出て来た。そのほかには防具らしい物は一切、身に着けていない。
二人は大した会話もせず黙々と歩きつづけていたが、渓谷へ向かう分かれ道に差しかかったところで、互いが普段こなしているギルドの仕事などについて話がおよんだ。
「普段は一人で討伐依頼を受けている。相手はおもに敵対亜人種の類や魔獣だ。ギュネルは何度も戦ったことはある。首領格のダスクギュネルは三度ほどあるな、一度は一人で戦って倒したこともある」
一人で戦う羽目になったのは予想外の遭遇戦になったからで、いつもはギルドの指示どおりに、共闘する仲間を集めてから討伐に向かっていると彼は話した。
少女のほうは普段からパーティ(集団)を組んで討伐任務をこなすように心がけているが、最近は一人でゼフェク(蜥蜴亜人)や、コボルドの群れと戦うことが多いと話した。レスティアの年齢を考えると驚異的な戦績に思われたが、シグナークは彼女の言葉を信じた。それは彼女の発する気配が、その言葉を裏付けるに値する物だったからだ。
魔法銀階級は、中級の上位。といった程度の階級です。銀階級よりも下に位置します。