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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第三章 大迷宮の探索
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階級と実力

 部屋に各自の荷物を置くと宿の外へ出て、料理屋に向かうことにした一同。夜になると大通りの店先には、いくつもの角灯ランタンがかかげられ光を道に落としている。四人が宿から少し離れた場所にある小綺麗な食堂を見つけると、壁に貼られた献立と価格帯を確認して、店に入ることにした。


 クィントゥスとエレミュスは、給仕からわたされた献立表メニューたのしげに見ているが、レスティアは甘い飲み物や、お菓子が見当たらないことを嘆いている。シグナークは手早く何を注文するか決めてしまったらしい。すぐに献立表をテーブルに置いて、周囲の客の顔ぶれなどに注意を払っている。


「そういえば聞きたかったことがあるんだけど」

 献立表を置いてクィントゥスが、シグナークのほうを見てとうとつに言った。


「レスティアちゃんが鋼階級な理由はなんとなくわかったけれど、シグナークはなんで鋼のままなの? 実力的には正直言って、私より強いくらいじゃん」


 不躾ぶしつけに言った友人の足を踏みつけると、エレミュスは「年上〜〜」と小声で警告した。靴の上から足の指をぐりぐりと踏まれたクィントゥスは、声を殺して悶絶している。


「ん……まあそうだな。昇級審査を受けるための得点は持っているんだが、まだ鋼階級向けの、達成していない依頼があるからな」


 彼は気にした様子もなく、そう言って三人に首を傾げさせた。


「評価得点を得られたなら、昇級審査を受けるべきでは? 私はまだ少し足りていないのですが」


 レスティアはそう言うと、不思議そうにシグナークの表情を見る。ほかの二人も「別に、これを受けなければ昇級できない依頼なんてないよね?」といった顔をしている。当の本人は近くにいた給仕を呼び、注文を取るよう促した。


 戦士ギルドでは依頼内容によって得点が設定され、持っている階級章に記録されていく仕組みである。これにはギルドに設置された魔導器によって()()書き込みが可能なため、不正ができないようになっているのだ。

 この技術は魔法都市レミールで開発された物を、魔術師ギルドが戦士ギルドに提供する形で広められた物である。──ここでは魔法都市や、戦士ギルドと魔術師ギルドについての説明は割愛する──


「階級によって困難な任務があるわけだが、昔から鋼階級には三つの危険な依頼があるとされてきた」

 それぞれが注文を終えるとシグナークは話しはじめた。彼はあえて軽口を叩くみたいな気楽さで会話をはじめたが、三人は興味津々(きょうみしんしん)の様子で耳を傾けている。


人喰鬼オーガ、魔獣デボルモス、あとは……なんだっけ?」

 指折り数えながら言っているクィントゥスだったが、笑いながら「私は人喰鬼しか倒したことないわ」と告白する。


「中級悪魔種……ですね」


 エレミュスの言葉に頷くシグナーク。魔王や魔神と呼ばれる上位存在が使役しているという──これらの存在は、特定の迷宮や、突如として出現する「異界化」という現象で、遭遇する可能性があるとされている。

 また特定の迷宮にはこういった存在が出現する場所もある。


「下級悪魔なら倒したことはあります」


 そう言ったのはレスティアだった。下級は青銅階級からも依頼が受けられる程度の敵だ。下級とされる悪魔の中にも強敵となる存在はいるが、中級悪魔は下級のものより倍以上の強さ、強力な魔法を扱うと言われている危険なものが多い。中級悪魔の討伐は、魔法銀ミスリル階級への任務発行が多いくらいである。


「その中でも剣を持った戦闘が得意だという、悪魔ヴォアルススと一騎打ちをしたいと考えている」


 その悪魔は「剣魔」とも呼称されるほど、剣士としての高い戦闘能力を持った中級悪魔だ。

 彼の突然の告白に三人は考え込んだ。クィントゥスなどは、一騎打ちということは一対一で立ち向かうということだろうかと悩んでしまい、それ以外の意味がないことに行き当たった。


「しかし、それは無茶ではないでしょうか」


 エレミュスはそう言って、危険だとも警告した。三光神教会では魔物との戦いを念頭にした特殊な騎士団があるくらい、魔物や悪魔との戦いに積極的で、三つの神の内の一神の教えが悪魔の討滅をうたっているのだ。


「俺は人喰鬼と魔獣デボルモスは一人で戦い、討伐したことがある。──危険は承知の上だ。それで倒されるなら、それまでだとしか言いようがない」


 魔獣デボルモスは大きな猪に似た狂暴な魔獣で、この地方でもたまに出没例がある。全身を朱色の毛で覆われたその魔獣は、口から伸びる大きな鋭い牙と硬い皮膚を持ち、その突進は巨大な盾を構える重戦士でさえ吹き飛ばされてしまう。


「なぜそこまで個人での戦いにこだわっているのですか?」

「それは……」


 レスティアの疑問に答えるのは簡単だが、シグナークは言いよどんだ。彼は返答をあれやこれやと思考していたが、結局は言葉にできなかったのである。

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