行商が語る錬金術のお話
世界観に関する描写がほとんどですので、斜め読みしてくださって構いません。
馬車で移動する五人は、錬金術が生み出す品物の話などで盛り上がっていた。サディクのような行商は各地に錬金術の商品や、新たな生活様式を提案しながら物を売っているという自負があるらしい。冒険者相手に特化した品物が多く出回りはじめたのも、そのような意識を持つ行商人や、商会が増えたためだと彼は言う。
「しかし、各地を回っているとよく聞くのですが──ここ数年で亜人や、魔物の出現が増えたと聞きますし、一部では異界化……魔物の世界との接点が開くことが増えた、という話も聞きます。それと同じくらい増えたのが野盗ですが」
サディクはそう言って苦々しい顔をする。
「戦争や、領主同士の小競り合いが頻発している地域もありますからね、そうなると出るんですよ。軍が民間の護衛をおこなえなくなると踏んで、野盗の真似事をする連中が」
行商人同士でも、そう言った地域についての情報はすぐに入って来るのだという。戦争をよろこぶのは一部の愚かな民衆と領主くらいだと、彼は吐き捨てた。
話は一変して、これから向かうフィグニアについての話になった。行商人であるサディクは、近ごろはウジャス周辺をぐるりと一回りしていて、フィグニアへ行くのは二度目のことになると語る。彼の話によると、このあたりの街の中では冒険者の数も多く、規模の大きな冒険者たちの拠点でもあるが、それでもどちらかというと──流通の拠点であり、冒険者による発展というよりは、行商人たちの運ぶ商品が各地へわたるための、中継地点としての側面が大きいという。
「冒険の拠点といえば、この国ではリフスカンツァが有名のようですね。私も一度行きましたが、なかなかの賑わいでした。冒険者向けの錬成品を見たのも、その都市が最初でしたね」
行商はそう語り、この国の隣国にあるメイビルローアは、大きな冒険者訓練所のある街として有名だが、最近では若い冒険者の数が増えすぎて、冒険者同士の依頼の奪い合いとなってしまい、行き詰まりを見せているとして──以前ほど、行商人にとっても冒険者にとっても、魅力のある街とは見られなくなったらしい。
さまざまな話題で会話をしながら、彼らはときおりすれ違う荷馬車などを見かけたが、幸い亜人や魔物に襲われることもなく旅をつづけ、途中にある一軒家の廃墟を拠点にして、一泊することになった。
石材と木材を使って建てられた、ちょっとした大きさの一軒家はかつて、この近くにあった村や町から狩人などが集まって、一晩をすごす拠点になっていたが、最近では使われなくなったらしい。おもに冒険者か行商人が、一泊の宿として利用しているのだという。
一階のみの建物は、周囲を灌木と樹木で囲まれてはいたが、基本的に外から丸見えの状態であり、入り口には木製の扉があって──鍵は開放されていた。
汚れの少ない建物の中に入ると、扉の内側には簡単な掛け金が取り付けられ、施錠はそれで可能になっていて、室内は寝室二つと暖炉のある応接間に分かれている。
サディクは馬を一本の木につなぐと、建物を含む周辺をぐるりと歩き回り、錬成した道具を使って結界を張ったようだ。
行商人である彼の扱う品は、旅で役立ちそうな物もあった。魔物が寄りつかなくなる香油や、その効果を高める魔法の香炉など、特に結界を張って野営地などを守る、「聖なる灰」と呼ばれる道具は、冒険者たちのあいだであっと言う間に広まって、頻繁に使われるようになった。
一昔前は、魔術師や神官などの肩書きを持つ者が、獣や魔物の骨を砕いた物を使って結界を張っていたが。それよりも効果が安定していて、誰にでも使える「聖なる灰」を錬金術師が生み出すと、その利便性から道具屋や雑貨屋で売り出されるほど大人気の商品となったのだ。
五人は建物周辺の安全を確保すると、建物の中で食事の用意や寝床の用意をし、サディクの持つ商品を見せてもらったりしてから、各部屋で身体を休めることになった。
* * * * *
彼らはこうして、一夜を安全な建物の中ですごすと──翌日の朝も手早く準備をし、朝食も簡単な物で済ませると、さっそく旅を再開することにしたのである。
ー 第二章「新たなる仲間」 完 ー
ちょっと細かすぎですかね……性分なので、ご勘弁を。