探索の続きと街への帰路
短剣を拾って腰の鞘に戻したシグナークを気づかい、大丈夫かとエレミュスが声をかけると、彼は大丈夫だと応えながら──剣に付いた血をぬぐって、牛頭人の角を回収する作業に入る。彼の頑丈さもかなりのものであったらしい。
戦利品を探しているとレスティアは、牛頭人の腰巻きを縛る革紐から下がった小さな皮袋を見つけ出し、その中に金貨や銀貨が入っているのを確認する。二体の腰にそれぞれ二つの皮袋があり、合計四袋分の金貨や銀貨を手に入れることができた。
一頭が手にしていた斧槍はシグナークが扱えるのもあって、彼が持って行くことになった。牛頭人の手に合わせて作られたというわけではなく、もとは人間の持ち物であったと思われる大きさであったので、持ち帰ることにしたのだ。
「本当に大丈夫ですか」
エレミュスは、まだシグナークが壁に叩きつけられるほどの攻撃を受けたことを気にかけていた。彼は彼女の不安を払拭するために言葉ではなく、重い斧槍を軽々と振り回し、牛頭人が仕掛けてきた、頭上に振り上げた斧槍を振り下ろす動作を見せ、さらに刃の先を地面すれすれで止め、彼は「ごらんのとおりだ」と言わんばかりに、片手で斧槍を肩に担いで見せる。
まだまだ若手の──こう言うとシグナークがかなり年を食っているような言い方だが──エレミュスには、鍛え上げられた戦士や、冒険者の力量を測ることは難しいらしい。
今度は前衛をレスティアとシグナークの二人がおこなうことになった。先手を取れそうな場合は、シグナークが手にした斧槍の一撃で、戦闘を有利にしようというのだ。彼の持つ長柄武器の戦技は、集団相手のものと単体を狙うもの両方があるが、一撃に秀でる戦技が斧槍にはあるので前衛に出て、先陣を務めることを進言したのである。
その機会はすぐにやってきたが、相手は牛頭人ではなく──群れなす武装ゴブリンの一団であった。奴らは広間状の場所でくつろぎ、小さな天幕や鍛冶場を造って、いささか乱暴な手つきで──装備を修理したりしている。
まずは先陣をシグナークが、つづいてレスティアが彼の背後から攻める算段だったが──想定よりも、シグナークの攻撃が激しかったようだ。壁のかげから飛び出した彼が、一匹目に斧槍を薙ぎ払ってゴブリンを吹き飛ばすと、その勢いのまま回転攻撃を繰り出して、次々に近くにいたゴブリンたちを巻き込んで、回転する斧の刃を敵の胴体に叩き込み、あっと言う間に五体のゴブリンが石床の上に倒れ込んで、大量の血を流す結果となった。
戦闘終了後レスティアはなかばあきれながら「剣よりも斧槍の方が得意とかじゃないですよね……」と愚痴ったものだ。彼女やクィントゥスの出番はほとんど奪われてしまったのである。
そのあとも四人は廃墟となった街の中を探索し、三体目の牛頭人を倒して角を折り取ると依頼を達成するのに必要な数を手に入れたため、街へ戻ることにしたが、ミメト遺跡を出るころには西の空が夕焼けに染まりはじめていた。
いまから街に向かえば、ぎりぎり暗くなる前に辿り着けると考えて、彼らは疲労を感じながら──特にクィントゥスとエレミュスの二人が──重い足を懸命に動かして、ゆるやかな傾斜のある道を進みながら、街までの帰路につくのであった。
実は遺跡探索のあと、暗くなった道を帰らずに中継地点の砦に泊まっていく、という展開も書いていたのですが──無駄に長いので削りました。冒険者の日常を描くには、そういう場面も残しておいたほうが良かったのかな……