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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第二章 新たなる仲間
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ミメト遺跡内での初戦

 ゆるやかな斜面を下って遺跡に近づくと、遺跡の周辺を囲んでいたと思われる崩れた壁の隙間から、廃墟となった街の様子をうかがう。

 廃墟にはところどころに住居だった物がそのまま残されてはいるが、多くは壁だけが残されていたり、壁すらも崩れて、瓦礫がれきの固まりとなっている物もあった。建物と建物のあいだにある石畳の通路もところどころがはがれ、草木が生え出ている場所もある。


 廃墟を囲む高い壁も何ヶ所かが崩れており、街への侵入はそういった壁が崩れた場所の一つから、簡単に中へ入ることができた。


 遺跡の内部は独特の空気が流れていた。獣の匂いとも、自然の匂いとも判断しがたい、奇妙な空気が感じられる。空をゆく雲が日の光をさえぎると、遺跡の中の静けさが奇妙な威圧感となって冒険者たちを迎えた。遺跡の中には明らかに通常の街では感じられない、得体の知れない気配が、そこかしこにひそんでいるのだと彼らは感じ、武器を抜き放つと警戒しながら通路を進みはじめる。


 先頭をクィントゥスが進み、そのすぐ後ろをレスティアが追いかける。途中途中にある崩れた壁の隙間から、反対側の様子などをうかがいつつ慎重に進み、シグナークは彼女らのあとをエレミュスを守りながらついて行く。


 崩れた壁のあいだをしばらく進んで行くと、左へ向かって折れ曲がった通路に出た。正面と右側には崩れた壁があり、進むことはできないが、物陰に何かがひそむことはできそうだ。クィントゥスはそう判断したのだろう、レスティアに身振りで合図し、右側の壁の背後をうかがうよう指示を出す。

 少女は慎重に壁際に身を寄せると、左へ曲がる道を警戒しながら、そっと壁の後ろを覗き見る。


 そこには一人の人間らしい人影が背を向けて立っていた。それは雲におおわれたかげの中に立ち尽くして、身動き一つしない──全身鎧を着た戦士だ。ぼうっとうつろな影みたいに立っているそれが、雲の切れ目から姿を見せた日の光を浴びると、青白く光る奇妙な光を放って見えた。


 少女はそうっと通路側に身を隠しながら、仲間に身振りで「魔人の尖兵が一人いる」と訴えた。しかし彼らには、彼女が何かを見つけたことしか伝わらなかったらしい。

 なおも身振りで「一体の」と、指を立てて教えようと奮闘しているレスティアを見て、クィントゥスが少女に近づいた。


「魔人の尖兵」と小声で言われたクィントゥスが、壁の後ろをそっと覗き込むと、そこには崩れた壁の一部と、広くなった部屋が雲のかげになって暗くなりはじめたところだ。


「なにもいな……」


 ふっとクィントゥスの身体を影がおおった瞬間、レスティアが剣で何かを打ち払うのがシグナークの目に映った。凄まじい速度で振り上げられた剣が、金属の塊を弾き返す激しい音があたりに響き、三人は一気に戦闘態勢に入ることとなった。


 壁の崩れた入口から慌てて離れるクィントゥスとレスティア。少女が敵の攻撃を受け流さなければ、クィントゥスは頭部を割られて死んでいたかもしれない。クィントゥスは礼を言いながら数歩後退して通路側に逃げる。


 壁の背後から姿を現したのは、雲の作るかげの中でゆらゆらと揺れる陽炎かげろうに似た、青白い光をまとう鎧姿の戦士であった。

 それは大きな両手持ちの大剣を構えてゆっくりと通路側に姿を現し、兜の暗いうろから冒険者らを見つめ、四人の方を首を動かして確認すると、いきなりレスティアのほうへ突進し、長い剣を薙ぎ払って彼女を攻撃した。


 少女はそれをしゃがんでかわしながら、後ろに引いた足で石床を蹴りつけ、魔人の尖兵に斬りかかると、今度は魔人の籠手が彼女の攻撃を弾いて受け流し、そのまま身体を回転させて大剣を振り下ろそうとする。


 重い金属音が遺跡内に響いた。振り下ろされた大剣を、クィントゥスが盾で受け止めて少女を守ったのだ。

 すかさずシグナークも魔人の尖兵に接近して、すばやい攻撃を繰り出したが、あっさりと躱されてしまう。


「戦い慣れているらしいな」


 攻撃を躱されたことを怒る様子もなく、淡々と口にして、前衛三人で一体の敵を囲む形で陣取る。

 今度はクィントゥスが魔人に斬りかかったが、それも後方への後退で躱され反撃を受けそうになった。その隙にレスティアが魔人の肩口を斬りつけて、相手をよろめかせる。


 立てつづけにシグナークが、上段からの振り下ろしを側面から打ち込んだが、ぐるりと反転しながらの大剣の薙ぎ払いで反撃されて、レスティアと一緒に後退させられてしまう。


「しゃあぁっ!」


 飛びかかる勢いと同時に振り下ろされたクィントゥスの剣が、魔人の尖兵の右腕を叩き落とした。籠手で守ろうとしたが、逆に肘から先を失うこととなったのだ。


「ハァッ!」


 大きく前に踏み出したレスティアが、神速の二連撃を斜め十字に斬りつける戦技をみまうと、腕と首をほぼ同時に狙われた魔人の尖兵が、後ろ向きに倒れ込み、青や紫色に見える灰が鎧からこぼれ落ちた。

 それはガラガラと音を立てて崩れ落ち、鎧や武器を残して消滅した。



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