じゃんけん
「「じゃんけんぽい」」
「ああ、負けちゃった」
「よし!勝った!………じゃあ、今日のアイスは杏の奢りね」
「……仕方ないなぁ。でも、明日は負けないから」
「あり得ないって、だって俺の方が勝ちまくってるもん。昨日負けたのはたまたまだったし」
「違うよ、私の方が湊君より勝ってるもん!」
「記憶力大丈夫か?この前のテストの点だって下がってたじゃん」
「あれは、前よりも難しくなってたから仕方ないの!」
「それでも俺は点数上がってたけどな」
「そうやって頭が良い自慢をして……ほら、お店行くんでしょ、早く行こう?」
「うん。……今日は何を食べよっかなぁ」
「私はもう決まっているけどね」
「杏はいっつも雪見だいふくだもんな」
「美味しいから良いじゃない!」
「いや、美味しいけどさ……同じものばっかりだと飽きるじゃん」
「好きなんだからいいの!でも、湊君は同じものは連続で食べないよね」
「まあ、飽きるからってのもあるけど、やっぱりアイスは繋がってると思うんだ。昨日の味を覚えてるから今日食べるアイスが違って見えてくる。前に食べたことのあるアイスだったとしても、昨日のアイスが違えば今日食べるアイスも前とは違うように感じる。そうやっていくと、アイスの可能性が無限に広がるんだ!」
「……意味わかんない」
「……つまりね、今日雪見だいふくを食べるとして、昨日食べたアイスがピノだったときと、ハーゲンダッツだったときで、今日食べる雪見だいふくの味が違うように感じるんだ」
「……言いたいことは分かったけどやっぱり意味わかんない」
「じゃあさ、一度だけ試してみようぜ!」
「そこまで熱意を持って言うなら…試してみようかな」
「よし決まり。じゃあ杏は今日は雪見だいふく以外な」
「仕方ないなぁ、それなら湊君が雪見だいふくにして、私に一つちょうだい!」
「……仕方ないなぁ」
◇◇◇
薬「ねえ、皆起きてる?」
親「どうしたんだ?薬指」
薬「私ね、ずっと耐えてきたんだけど、もうダメみたいだから皆に言いたいことがあるの」
小「だいじょうぶ?なにがあったの?」
薬「私ね、人差し指と中指の事がとっても羨ましいの!」
親「そうか」
薬「そうか……じゃないわよっ!」
親「それがどうかしたのか?」
薬「だってさっき、湊君が『じゃんけん』をしてたじゃない」
親「そうだな」
小「そうくんがかってたねー」
薬「それは嬉しかったんだけど。……『じゃんけん』って『グー』『チョキ』『パー』の三種類あるじゃない」
親「神様が決めたルールだと、そうだな」
薬「でも、その中でパーの時しか目立てないじゃない!人差し指と中指は『チョキ』の時も前に出られるのに、しかも『パー』の時は皆出てるからあまり目立てないし」
親「なるほど、そういうことか。でもそういうことなら、私と小指も同じじゃないか 」
小「ぼくはそんなことかんがえたことなかったなぁー」
薬「親指と小指は別に気にならないから良いのかもしれないけど、私は気にするの!」
親「じゃあ、どうすれば満足なんだ?」
薬「それはわかんない」
人「はっ!解決案も無いのに言い出したのか?相変わらず感情で動く軟弱ものだな」
薬「何よ!人差し指!目立ってるからっていい気になって」
人「俺様はイケメンだからな。目立って当然の立場にいるんだ」
薬「実際そうだから、何も言えない……中指はどうなの!どう思ってるの!?」
中「僕はどうでもいいかな。そういうルールでそういう役割だからそれに従ってるだけだよ」
薬「ルールに縛られて何が楽しいの?何も考えてないなら、私と役割を交代しなさいよ」
中「そういうルールになるなら全然okだよ~」
親「ルールを変えることはできないだろう」
薬「なんでよ!」
親「なぜなら『じゃんけん』を創ったのは神様だからだ、神様は絶対的な存在で、神様がいなくなったこの世界では誰もルールを変えることができない」
小「かみさまはぜったい~」
薬「それでもどうにかすれば……」
親「例えばの話だが、さっき言っていた、中指と薬指の役割が変更になったとしよう。その状態で『チョキ』を想像してみよう。とても辛いだろう?こんな仕打ちを湊君にさせてしまうのか?そんなことはしてはいけない」
薬「……流石に湊君を悲しませることは出来ない。でも、私のこの気持ちは、この思いはどうすれば良いの?」
小「せかいをかえられないなら、じぶんが変わるしかないって、パパが言ってた~」
親「………」
薬「……親指、あなたも若いときがあったのね」
親「……ごほん。つまりだ、ルールを変えられない以上、受け止め方を変えることしかできないんだ」
薬「でも、私は目立ちたい!前に出たい!三つの内、一つしか前に出られないなんて……私、耐えられない」
人「薬指、お前は所詮そんな存在なんだよ!大人しく俺様のことを引き立てとけ」
薬「……うっ……うっ……うわぁぁぁん」
親「人差し指、お前は言ってはいけないことを言ってしまった。俺たちはな……みんなつn「うぉりゃっ!」」
人「っ!いってー!何すんだよ」
掌「人差し指、お前は言ってはいけないことをを言ってしまった。俺たちはな、みんな繋がっているんだよ!」
親「掌《しょう》さん………それ、私の台詞」
掌「人差し指、俺たちはみんな違う感情を持っている。だけどな、皆が繋がって俺たちは作られている。だから、相手を貶めるような発言は必ず自分に帰ってきてしまう。だから尊重しても貶めてはいけない。「One for all, All for one」って言葉があるだろ!」
人「掌さん、俺様は……俺は間違ってた、これからは生まれ変われる気がする。ありがとう!……そして、薬指ごめん。俺は何もわかってなかった」
薬「人差し指、あなたが謝ったとしても私の気持ちは変わらないわ!この気持ちをどうすれば良いの……」
掌「薬指……お前も何もわかってねーな」
薬「なによ!あとからぽっと出の癖に、いい気になって」
掌「さっき人差し指にも言ったがな、俺たちはみんな繋がってるんだぜ、思いは違えど体は一つ」
薬「だからなんなのよ!」
掌「つまりな、人差し指と中指の受けている注目はな、薬指、そして、俺たちの注目でもあるんだ」
薬「だから?」
掌「親指、小指、薬指、おまえたちの目立たないという動作が、より『チョキ』として目立てることになるんだ!」
薬「だから?」
掌「薬指が目立たないことで、人差し指たちがより目立つ、その注目は繋がっている俺たちに還元されるんだ、だから目立たない演技をしても目立ってることになるんだ」
薬「はぁ……」
掌「今、響かなかった?」
薬「全然。私は直接目立ちたいの、この気持ちはそう簡単は変わらないわ」
掌「結構真面目に考えたんだがな……ダメだったか」
薬「私の意思は固いわ」
掌「じゃあ……薬指」
薬「何?」
掌「俺は、お前の事が好きだ」
薬「えっ……なんで……」
掌「前から好きだったんだ。お前の真っ直ぐな姿勢、不満があってもすぐにぶちまける、活発なところ。大きいしか取り柄のない俺はそんなおまえに惚れた」
掌「『じゃんけん』で『グー』と『パー』の形の時に必ず触れてしまうから、ドキドキがお前に伝わってしまわないか不安だった、繋がっている俺たちは一生離れることは出来ないから、嫌われたらどうしようって思って言い出せなかったんだ」
掌「だがな、今回、お前が内に秘めた思いを聞いた時、何とかしてあげたいと思ったんだ。場所を変えることは出来ないから、どうにかして捉え方を変えられないか考えたがダメだった」
掌「だから、もうどうなってもいいから、告白しようって思ったんだ」
薬「……そんなこと…急に言われても」
掌「ああ、急さ。別に振ってくれても構わない。告白出来たことで今はもう満足なんだ」
薬「掌さん、私はね……」
掌「……ああ」
薬「私も、掌さんの事が好きなの」
掌「………そうなのか。……そうなのか?……まじで?」
薬「そうよ!私も掌さんの事が好きよ」
薬「私はね、いつも何かに反発していた。でも、いつも掌さんはその広い心で受け止めてくれた。いつからか、あなたを思うようになっていったわ。……でも、私はこういう存在だからあなたに気持ちを伝えても流石に受け入れてもらえるとは思っていなかったわ」
掌「そんなことは無いぞ。俺は心も体も広いからな!」
薬「ええ、知ってるわ。あなたのそういう所が好きなのだもの」
掌「ははは」
薬「うふふ」
親「……おい、薬指」
薬「何?私は今忙しいのだけれど」
親「『じゃんけん』のことはもう良いのか?」
薬「ええ、もうどうでも良いわ。だって、掌さんが居るんだもの」
掌「嬉しいこと言ってくれるじゃねーか!このこの~」
薬「きゃー♪掌さんのエッチー」
親「……はあ、なんだったんだこの茶番」
子「しあわせそうだからいいんじゃない」
中「ルールさえ守ればオールオッケー」
人「本当に幸せそうじゃないか。仕方ない、俺が目立ちに目立ちまくって、あいつらの事が回りに目立たないようにしてやるか。俺からの……俺様からの選別だぜ!」
薬「うふふ」
掌「ははは」
薬・掌「あはははは」
◇◇◇
「どう?」
「うん……好きよ」
「ほら!美味しいでしょ!」
「言っておくけど、このアイスが美味しいだけだから!別に湊君言ってたことじゃないから!」
「そうなんだ。……まあ、今日は今までとは別のアイスの味を楽しんでくれただけでも良いとするか。はい、雪見だいふく」
「ありがとう。……う~ん、美味しい♪やっぱり雪見だいふくが一番ね」
「それはよかった。……てか、なんでいっつも雪見だいふくを食べるの?」
「またそれを聞くの?やっぱり一番好きだからね」
「俺の好みが杏に理解できないように、俺も理解できない何かがあるのか……」
「そういうことよ。…………本当は、初めてあなたが私に教えてくれた美味しいという気持ちだということは言わないけどね」
どんなものにも命は宿っていると私は思っています。
だからこそ紳士に向き合わなければいけない。
鉛筆を削るとき、鉛筆さんは痛いと思っているのか、気持ちいいと思っているのか、はたまた、なにも感じていないのか。
捉え方で一つでいろんな表情が見えてきます。
些細な日常が、ここまで読んでいただいた皆様の記憶の片隅に残っていることを願っています。