EP10確かな覚悟
「お父さん!どうするのこれから! ?まだ子供も小学生なのよ!」
悲鳴のような怒声が辺りに響く、その悲痛の叫びは壁で跳ね返り彼の中にこだまする。
「わ、分かってる。分かってるよ。」
「ったく、役に立たないわね貴方。私にプロポーズしたときに言った言葉をどこかに置いてきたの?幸せどころかお先真っ暗よ。」
男の妻は怒りと落胆でため息を吐きながら刺々しく言った。
幸せにするよ。僕が一生をかけて。
彼がプロポーズの際に言った言葉だ。しかし、この言葉は今の彼には重すぎる。
「ごめんなさい。前々から思ってたんだけど、いまいち踏み切れなくて。でも、今回のことで決心できたから。」
「へ、何を?」
「貴方とはやっていけないの。頼りなくて、いつもいつも仕事から帰ってきたら家族との会話もなく寝ちゃうし、聞いたわよ?毎日のように遅刻しているらしいじゃない。だから、ごめんなさいね。」
妻はそういうと、どこから取り出したのか大きめのキャリーバックに手を添えていた。
「さ、行きましょ。」
そう、子供に優しく微笑みながら妻たちは出て行った。
もう一度振り向くことは決してなかった。
「…ゆるさない。」
男は大粒の涙を流し、手に握りしめた憎き部長からもらったリストラを告げる紙をくしゃくしゃにして投げる。
よくも僕をこんな目に遭わせやがって。絶対に許さない。許せない。
男はふつふつと湧き上がる怒りとともに自分をこんな目に合わせたあの男を。
「社長も、お坊ちゃまもみんなみんな許さない」
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「ち、また始めからかよ」
舌打ちをする吹雪。渋々とマスをスタート地点に戻す。だが、顔は笑っていた。やはり、楽しいのだろう。
「次隼人だろう?早くやれよ」
吹雪は落ち着かない様子で隼人を急かす。よほど早くサイコロを回したいようだった。
「あ、ああ。分かってるって」
隼人はそう返事をしたが、まだサイコロを振るつもりはなく、運命を司るこのマスをすべて確認していた。
あ、あった。
隼人はそのマスの中から探していたマスを発見した。
【新商品を発売し、爆売れして大成功かと思いきや、欠陥品が見つかり、株が大暴落。そのまま倒産。貴方はその後すぐに消息を断つ。よって、スタートに戻る】
まさに、過去の俺の最後だ。
隼人はそのまま顔を上げ吹雪の目を見る。
「吹雪。少し聞いて欲しいことがあるんだ。」
隼人は目線を崩さぬように言った。
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「ということだ」
隼人は自分が未来から過ちを正すために来ているということ、未来での東山財閥で爆破事件が起こったこと等を話した。
吹雪は少し首を傾け何やら考えている。
「すまん、信用できないのもわかる。だけど、どうか今だけは信じて欲しい。」
隼人はその場に頭を下げる。
そして、ずっと黙っていた吹雪が口を開いた。
「んー、悪いけどお前の言ってることは意味わかんないな。俺が偶然爆破事件のマスに当たったからそんなこと言ってんのか?だとしたらその冗談は笑えないぜ?」
吹雪は先程までヘラヘラしていた顔だったのが、今は真顔で冷静に返答した。
「たしかに、そういう事を思うのも仕方がないと思う。でも、俺はそのマスは偶然当たったんじゃないと思ってる。」
「必然だと?」
「そうだ。必然的にそのマスにお前は止まったんだ。」
隼人は一言一言に力を込めて言った。
「…は、」
吹雪は顔を下へ向け、体はピクピクと震えてどうしたのかと思ったら
「はははは!」
そのまま腹を抱えて笑いだした。
「え、」
何が起こっているのかよくわからない隼人。笑う要素があったのだろうか?
「なにを、笑ってんだよ」
隼人は少し強めに聞いた。
「なにって、お前がそんなイタイ事考えてたのかと思ったら面白くってな。もう信じる信じないの話じゃないな。そんな妄想をたくさん見るようなら俺が良い医者を紹介するぜ」
吹雪は笑いすぎて出てきた涙を拭きながら言った。
「嘘なんかじゃねぇよ。」
隼人は信じてもらえない悔しさ言葉がこれ以上出なかった。
信じてもらえないってこんなに辛いのか。悔しいのか…
「なら、証拠くれよ?」
吹雪は馬鹿にするような顔で言った。
「…」
もう、やめてしまおうか。
隼人の頭にこんな事が浮かんできた。
その時だった。
周りの空気が少し変わった気がした。
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「貴方の歯車は止まってしまったのよ。」
あの時の声が聞こえてきた。吹雪を見ると、微動だにしていなかった。
これはなんだ?何が起こっている?
「貴方の歯車は止まってしまったのよ」
繰り返されるこの言葉。
「やめろ!これ以上言うな!」
隼人はどこから聞こえるのかわからない声に向かって叫んだ。
「貴方の歯車は止まってしまったのよ」
「わかんねぇんだよ!人に信用してもらう方法が!信用なんて、してもらったことがない俺にはな!どうすれば良いんだよ!教えてくれよ!なぁ!」
声が木霊するような静かな空間だった。
「過ちを正せ」
言葉が変わった!
「貴方が信用できる時はどんな時なの。」
「…」
その声は隼人を諭すように言った。
そうだ。隼人はいつもそうだった。考えることはいつも他人視点。一般的にこう言う事を人は喜ぶ。こう言うものが人は好きだ。
これらは全て隼人の固定観念にすぎない。
自分はこう言うものが好きだから、ああ言うものが嫌いだから。
そのような自身の感情は全部後回しだった。
他人視点で答えがわからない今、できる方法は自分に問い詰めるのみだ。
かけるぞ。俺。
「あり得べからざる今を変えるあの歯車はまた逆回転を始めたわ」
周りの空気がまた少し変わった気がした。
ーーーーーーーー
「おい、急に固まってどうしたんだよ?なんとか言えよ、おい。」
吹雪に大きな声を上げられ、意識を戻す隼人。
隼人は先ほどの怒りと悔しさを一旦忘れることにした。
隼人は信用ができない事態が起こった時、信用できる証拠を見て初めて、その事柄が信用に値するようになる。
だから、
「分かったよ!今から証拠を見せてやる!」
声高らかにそう告げたのだった
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