潜入ブラコンシスター
「はぁ~」
まだ眠い。まだまだ眠い。
この体になってから寝なくても数週間は活動できる。でも一度寝ると数日は寝てられる。
寝てられるってよりは眠くて起きれない。
これは上位のドラゴンあるあるらしい。アクジキも墓守りしながら普通に10年単位で寝ては30年の二度寝に入るらしい。
その分、身の危険には敏感になるように鍛えられた。
殺気を感じれば飛び起きる。
逆を言えば殺気がなければ飛び起きない。
無造作に寝返りをする。
何か柔らかいものがあるが気にせずに抱き締める。
「あっ」
母さんと話した後、ご飯を食べて自室で休んだ。12年も使っていなかった自室だったが綺麗に整理されていた。
かなり心配かけた。まぁ息子が死んだと思っていたんだ、当たり前か。でもこうやって俺を思ってくれていたことに改めて感謝しかない。
父さんからは母さんとユイナが毎日掃除してたって聞いた。父さんにも言われたけど後でお礼を言わなきゃな。
それにしても12年前、5歳の時に使っていたベッドだけあってかなり狭く感じる。
それにしてもこの柔らかい抱き枕はなんだ?こんなのあったかな?たしか寝た時には脇になにもなかったはず。
スベスベして手に吸い付くし、ほどよい弾力だ。凹凸もあって抱き締めやすい。しかも暖かいし、良い臭いがするから余計に眠気を誘う。
「あっダメッ」
抱き枕の下の柔らかい部分を握ったり擦ったりしていたら急に抱き枕が回った。
最近の枕はずいぶん機能的になったものだ。
今度は上にボコッと柔らかい物があるし、下は毛があるのかサラサラしている。その下は少し湿っぽい。
「あぁ。お兄ちゃん。そ、そこも、ダメ~」
上の柔らかい物のはさらに手に吸い付いてくる。手から少し溢れる感じで指が沈み混む。柔らかい!
いつまでも揉んでいられる。
「うぅ。へ、変な気持ちになっちゃうよぉ」
それにこの柔らかい物の上の突起物は柔らかかったのに今は少し固くなって来てる。これも何故かとても触り心地が良い。
触れば触るほど固くなるし、抱き枕が一緒にピクピク動く。
「あぁ。き、気持ちよくなって・・・」
さっきからユイナの声が聞こえる気がするけどダメだ眠い。
この抱き枕が悪い。抱き心地が良すぎて睡魔が誘ってくる。
こりゃ抵抗しても無駄だな。先人のドラゴンに習って二度寝することにしよう。
「あんた達いつまで寝てるの!起きなさい!」
下から母さんの声がする。あぁダメだ。起きなきゃしばかれる。
「あっ」
「ん?」
抱き枕からの幸せ感触から手を離し、目を開けるとユイナの頭が・・・
体を起こしたのと同時に布団が取れると産まれたままの姿のユイナ。
顔を赤らめて我慢するように肩で息してる。
「女神様?」
ずいぶん綺麗な女性になった。15にしてこの色気にプロポーションは反則だな。
とりあえず布団をかけて自分だけ布団を出る。
「見なかったことにしよう。そうしよう」
幻覚、幻覚、治療が間違ったせいだな。きっとまだ夢を見てたんだ。きっとそうだ。
それにしても何故隣に?まぁ良い考えるのはよそう。
★
「おはよう母さん」
「よく眠れたかい?」
「え?あぁたぶん?」
「なんだいその曖昧な返事は、寝ぼけてないでとっととご飯食べてしまいな」
パンに魔物の肉と卵の炒め物。我が家の定番料理で母の味。
むしろ辺境の村ではよくあるメニュー。不味くもないので文句も言えない。
朝から肉が食べれるだけありがたい。辺境の村ではパンですら食べれるか怪しい村もある。ここまで豊かなのは龍の墓場からの膨大な栄養が土壌を豊かにしているからだろう。
「おはようお兄ちゃん」
「ん?あ、あぁ。お、おはよう」
平然と何事も無く隣に座る妹。怖いです。
幻が正しければ寝ながらとは言え、不可抗力とは言え、まさぐってしまった妹の体。
抱き心地が抜群だったわ。でもダメです。兄弟です。
兄弟じゃなきゃ喜んでです。
「お兄ちゃん。またしてね」
「え?」
「いつでも来て良いからね」
なんですかその天使の笑顔!!てか俺は妹に何をしたー!!!
★
「よし行くか」
「うん」
妹と二人で村と森の縁に立っている。
ちょっと気まずいがこれから森の巡回を兼ねた狩りに出かける。
妹は朝のことを気にした様子はないが距離が近い。腕を組んで俺の腕を抱き締めて谷間に挟んでいる。
薄い生地の服のせいで感触がダイレクトに伝わってくる。
あぁ。これからどうしよう。
まともに狩りが出来るか心配だ。まっ村に帰ってくる途中で手に入れたイブブーガを母さんに渡しておいたので帰ってきたらイブブーガの丸焼きが楽しめるだろうから狩りが失敗しても問題は無いはず。
「いつもどこまで行くんだ?」
「お兄ちゃんが落ちた谷の辺りと森の中心にかけて20キロ位の範囲かな」
ユイナは魔力と魔力操作技能の継承者だ。以外にも部分的な継承者は多いらしい。
記憶の継承者は限りなく少ないそうだ。魔力操作技能の継承と言っても賢者と同等なんてことはありえない。
急に骨を掴んだり、魔力コントロールが上手くなったりするらしいが少ない努力で上達出来る。
魔導師なら喉から手が出る程欲しい能力だ。
グズー村の人達はそこら辺の村人よりも強い。それこそ軍人並の強さだ。
ラスクードの継承者は軍人でも上位の実力者に匹敵するだろう。
だからこそラムカイン王国はグズー村の村人に墓守りを任せることが出来ている。
他にも軍を動かせば費用が莫大にかかってくる。そこをラスクード・アスティスの一族に任せれば無料に近い費用で墓守りをさせることが出来るなんて理由もある。
この森には強力な魔物が現れるし、龍の素材目当ての無謀な墓荒らしどもが数多くやってくる。
龍の素材目当てのならず者は少なからず腕に覚えがあるし、強力な魔物相手に切り抜ける経験もある。そんなやつら相手に国軍を動かせば確実に被害が出る。
被害が出れば軍人への保障や褒章に国費が動く。第一軍を動かすだけでかなりの国費が掛かってしまう。
たかだか一つの村に墓守りを任せれば費用もかなり抑えれるし、国への被害も無い。これほど都合の良い話は無いだろう。
それにラスクードが没して200年。賢者ラスクードの一族の強さは有名になっている。近年では襲ってくるならず者すら少なくなってきている。
そのせいで村から出る若者が後を断たない。有名な実力者は賢者ラスクードの血縁とまで言われる程だ。
「いつも一人で回るのか?」
「うん。私は継承者だからね」
「そうか。大変だな」
妹一人で巡回とは悲しい話だ。近年の村離れが影響しているのは間違いないだろう。
俺の最大感知範囲は50メートル。今のところ感知範囲に魔物の気配は感じない。
猛獣の住まう森に放り込まれてのサバイバルは気配感知が無いと寝泊まりなんて話にならない。
気配感知がない状態での泊まりは恐怖でしかなかった。
ドラゴンの本能か気配感知をちゃんと覚えてなくても少しは反応出来たのが幸いだった。
「まって今感知魔法を使うから【ヒートサーチ】」
地面に手を当てて赤い魔方陣を作り出し、熱探知魔法を発動する。詠唱なしの魔方陣発動か。器用だな妹よ。
「近くには魔物はいないみたい。でも気になる反応があるからあっちに行ってみよう」
ヒートサーチへの魔力の注ぎ方からだいたい熱探知範囲は100メートル前後。俺の気配感知外。はっきり何の反応か言わなかったけど何か分からなかったのか?
ヒートサーチは地表と地中が一番はっきり探知できる魔法だから空中の反応だったのか?考えても仕方ないか。