再会は予想通り拳骨から
「いってぇぇぇ!!」
振り下ろされた拳骨に悶絶し、頭を押さえる。てかアクジキの拳より痛い!!魂まで響くような威力だ。
「あんた今までどこに行ってたんだい!!どれだけ心配したと思ってんだ!!」
涙を流し、顔をくしゃくしゃにさせて、震える声をなんとか抑えながら強烈な拳骨を振り下ろしてくる母さん。
嬉しさも混ざるその声を聞けば反論もできない。
「ごめんよ母さん」
出てきた俺は5歳児の僕。まだ覚醒する前の僕だ。
「生きてて良かった!!!」
「んが!!」
今度は物凄い力で抱き締められる。まるで12年間の想いをぶつけるように。母さんの痛みが自然と伝わってくる。
涙が止まらない。
家の窓からは何事かと心配した野次馬が様子を伺いに来ている。大人はみんな事情を知っている様で俺達の様子を見ては涙を流して家から出ていく。
「ほんとうにごめんよ母さん」
「良いんだよ。こうして戻ってきたんだ。それだけでもう涙が止まらないよ」
40前の母さん。性格は大雑把で大胆。でも容姿はどこぞの聖女様とも思わんばかりの美貌を持っている。5歳の時の記憶の母さんと全然変わらない。そんな美人な母さんが顔をくしゃくしゃにさせて大人げなく声を出して泣いている。
わかっていたけど申し訳ない。会いに来れなかったのは不本意だったけど、こうなる様な気もしていた。
もう一つの展開は半殺しコースだけども。
12年の歳月を一緒に埋めるように俺も母さんを抱き締め返す。
「お、帰ったのかクレイ」
「あ、ただいま」
素っ気ない能天気父さん登場。場をわきまえず帰宅し、そのままテーブルの席に座る父さんです。
とりあえず返事は返しとく。なんとなく父さんのお陰で感動の再開も半減。
「あんたはそれだけかー!!!」
母さんの拳骨が父さんに振り下ろされる。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
恐らく今日一の悲鳴がグズー村に響き渡った。
★
大泣きの続く母さんをなだめ、気絶していた父さんを蹴り起こす。
「お兄ちゃん?」
「ん?」
お兄ちゃん?はて?俺は一人っ子だったはずだが。家の入り口に立つ超絶美人な母さんを若くした女の子は誰だ?
ん~いや、待て。そう言えば妹がいた気も・・・
あ、いた、確かいた。後ろをいつもくっついてた子が・・・
毎日ミックとアカスと森を駆け回っては拳骨が落ちる生活をしてたせいで記憶が曖昧なんだよな。
確か、名前が
「ユ、ユイナか?」
「そうだよ!お兄ちゃん!」
「グブッ」
父さんを踏みつけてこっちに飛び込んで来たので受け止める。
父さんのポジションは昔から変わらないんだな。ちょっと安心だよ。
それにしても久しぶりに会った妹が美人に成長していていきなり抱き締められるとドキッとする。きっと兄弟としてちゃんと生活してないからだな。うんきっとそうだ。
それより12年も会ってなかった兄を覚えてて躊躇無く抱きついてくるとはこやつやりおる。
「あらユイナちゃん。いきなりお兄ちゃんに抱きつくなんてやるわね。お兄ちゃん子は健在ね」
「え?」
「覚えてないかい?小さい頃ずっと後ろを付いて歩いてたじゃないか?」
「いやぁ俺も若かったからってかそんな子供の時のことよく覚えてないよ。毎日バカスカ拳骨くらってたろ?その記憶しかないし」
「そりゃぁあんたが悪さするからだろ」
「まぁ・・・そうですね」
「まぁそれはさておきだ。あんたどこで何してたんだ?」
「母さんはどこまで知ってるの?」
「ミックとアカスからイブブーガに襲われて動けない所をあんたが助けたって所までは聞いてる。5歳児にしては良くやった。
これであんただけ逃げてきたら半殺しじゃすまなかったよ」
うわっこわっ。選択間違えたら死んでたんじゃね!いや、一回死んだか。
「何言ってる母さん。あんだけ絶望して毎日泣いてたじゃないか」
「うっさいわ!あんたは寝てろ!!」
ムクッと起きて呟いた父さんが母さんのアッパーカットで再び撃沈。ドンマイ父さん。
★
母さんと二人きりにしてもらい、イブブーガに襲われた後、谷から落ち死んだこと、ドラゴンに蘇生され10年間眠っていたこと、蘇生の際に体が半分以上ドラゴンの体になったことで目が覚めてから必死にリハビリをしてきたことをかいつまんで話した。
途中からボロボロと涙を流しながらも母さんは最後まで話を聞いてくれた。
「じゃぁあんたはもう人間じゃないのかい?」
落ち着いて話始めた内容がこの第一声だった。
「いや、人間だよ。ドラゴン達によれば人間の域は超えてないらしいよ。ま、もうただの人間ではないことは確かだけどね」
「そうかい。なら話さないといけないね」
真剣な声の母さんは珍しい。てか怒鳴り声とか笑い声しか記憶にない。
「まずここの村について。このグズー村は龍の墓場を見守る墓守りの一族が興した村でね、当時のラムカイン王国の王から勅命を受けてこの辺境の地に着任したんだ。当時は名誉なことでかなり喜ばれたらしいよ。何せ龍の墓場の墓守りだ。ドラゴンの怒りをかえば国も下手すれば世界が滅ぶ。安寧の地を維持する。これほどの名誉なことはないさ」
確かにあの適当ドラゴン達は上位のドラゴン程知能が高いけど下位のドラゴンでも軍隊を返り討ちに出来る位の力がある。
最上位のドラゴンにもなれば国を滅ぼすのは簡単だ。
あ~容易に想像できるわ。
「龍の墓場を守るのも見守るのもどちらも力がいる。一番始めに就任したご先祖は賢者と呼ばれた。ラスクード・アスティス。伝説の賢者だ。その魔法の腕は並ぶ者無しとまで言われる傑物さ」
ラスクード・アスティス。無限の知神と呼ばれた賢者だ。
この賢者が俺の記憶の始まりの男だ。
「ラスクードはドラゴンを見守るうちにどうしても人の子では龍の癇癪すら止められない人の脆弱さに絶望した。そして次代の子へ力を託す魔法を作り出した。その魔法の名はゲデヒトニス・エスポワル。一族で数人が継承し発現させてきてる」
記憶の賢者、ラスクード・アスティスが発動させたゲデヒトニス・エスポワル。俺が継承し発現させた記憶の中にもしっかり残されている。
ラスクードの記憶と魔力を継承し龍の墓場を護る力となることを目的に創られた魔法だ。
だが、俺にはラスクード以外の記憶がある。これはどう言うことだ?完全に記憶の全てを覗いた訳じゃないし、思い出した訳じゃないからわからない。
「これにはある副作用があったのよ。ある一定以上の強さを持つと、その者の力と記憶もラスクードの記憶と一緒に継承されるの。でも継承した者の器しだいで継承内容が異なってね。魔力だけを継いだ者、記憶だけを継いだ者、どっちも継いだ者と様々なの」
そう言うことか。俺もこの継承の魔法ゲデヒトニス・エスポワルの効果を受けた一人と言うことか。でも俺の中のラスクードが違うと言っている気がする。
「だからあんたも私の子だ。ラスクードの魔法が発現するかもしれない。この魔法は体が成長しないと発現しない。何せ器が大きく成長しないと魔法を受け止めきれないからね」
「母さんそれならもう発現したよ」
「そうかい。発現したのかい・・ん?・・発現しただってえぇぇぇ!!!」
「え、あ、うん」
そんなに驚くことかな?すでに半分ドラゴンなんだから器てきには申し分ないと思うんだけど。
「そ、それであんたはどこまで継承したんだい?」
「え、たぶん魔力と記憶どっちもか、な?
イブブーガとの戦いの最中に魔力に目覚めて、谷に落ちてる時に魔力と記憶が吹き出した、かな?」
「あんた、私の子ながら規格外だね」
「母さんも継承を?」
「そうだね。私も昔生死をかけた戦いの最中に目覚めたよ。そのお陰で生き残れたからね」
「そうなんだ」
母さんが生死をかけた!?この母さんが!?
ドラゴン並の拳骨をかます母さんが生死をかけるなんてどんだけ強敵だったんだ!?
「あんた今変なこと考えなかった?」
「い、いえ何も考えてません」
か、勘が鋭いな。
「まぁ良い。あんたもラスクードを受け継いだなら母さんも安心だよ。安心して墓守りを任せられる」
「いやいやまだ墓守りなんてする気ないよ」
なんでそんな辛気臭いことを若いうちからしないといけないのさ。てか誰が襲ってきてもアクジキ達が返り討ちにすると思うけどな。
あのドラゴン達が殺られる姿は想像できない。
「あぁ。まだしなくて良いさ。今は人生謳歌しなきゃな。ミックとアカス達みたいに村を出るのもよし。村で過ごすもよしだ。でも村の緊急事態には駆けつけてもらうからそのつもりでいなさい」
「あぁ。わかったよ」
それにしてもミックとアカスが村を出たとはって。
「ミックとアカスはもう村にいないのか!?」
「あぁ。あの二人なら立派に成長して村を出てったよ。だいぶあんたのことを気にしてたから会いに行ってやりな」
「それでどこに?」
「あの子達は『王立騎士養成校カインケルン』に行ってるよ。あの子達もあんたのことがあってから必死に修行して発現したのさ。こんなに発現者が多い年は無いね。今までの記録じゃ同世代に1人いれば良い方だったんだがね」
「そうかあの二人は騎士に・・・」
自分も含めてだけどあのヤンチャ坊主達がよくそこまで成長した。
「あんたはどおするんだ?カインケルンに行くのか?」
「ミックとアカスにはとりあえず会いには行こうかと思う。でも俺は世界を見てみたい。俺の体じゃ国に使えても碌なことにならなそうだしな」
「そうかも知れないね。強すぎる力は争いを呼ぶからね。まぁまずゆっくり考えな。緊急時には手助けくらいはしてあげるからさ」
「ありがとう母さん」