心配するドラゴン達
とうとうこの日がやって来た。俺は黒いローブに身を包み振り返る。
「今までほんとうにありがとう」
「なぁに。こっちも久しぶりに楽しめた」
アクジキの他にも蘇生実験に参加したドラゴンも見送りに来ている。龍の墓場のくせに随分明るい。
「小僧には無用かもしれないが、竜人族と蜥蜴人族には気を付けろ。それとあやつらの前では龍の力はあまり使わない方が良い。あいつらは龍を神聖化させておる。小僧は半分以上龍の体になっておるし、龍の力も使える。無用な争いになるかもしれん」
「まぁその時は皆に習って邪魔者はぶっ飛ばすさ」
ドラゴン全員が器用にグッと親指を上げてニヤッと笑う。
「まったくこのバカドラゴンどもクレイに変なこと教えやがって。面倒なことに巻き込まれたらどうすんだい。」
聖龍『クララ』が呆れ果てた様子で他のドラゴンに注意している。聖龍『クララ』は純白の綺麗なドラゴンでアクジキと一緒に始めに俺を治療したドラゴンの一匹で、何を隠そう赤龍の死体を生命維持装置に変えたのもクララで同化させたのもクララだ。
聖龍は元来大人しい性格のドラゴンが多く、その悠久とも言える長い命の間で人間とも関わる事が多いドラゴンだ。
実際クララは大昔に勇者と共に魔王と戦ったらしい。
まぁその理由も「どんぱち騒いでて昼寝の邪魔だったから」と何ともドラゴンらしい理由だ。
知的な彼女には珍しい理由とも思ったが、俺には愛着があるが他のことはどうでもいいらしい。「食う寝るがドラゴンの基本生態さ。後は強者と戦うことかね」なんて野性的なことを話していた。
「クレイ。何かあったらすぐ帰ってくるんだよ。それにピンチになったらすぐここのドラゴンかき集めて助けに行くからね」
「あ、あぁその時は頼むよ」
クララもアクジキもそうだがドラゴンの中では最上位のドラゴン。それに世界でも最強クラスの力を持っている。やろうと思えば世界征服すら可能だ。
特に殺り合うなら一番面倒なドラゴン。魔法龍『リューミィ』
白い柔らかい肌をしているドラゴンでパット見蜥蜴に近い感じもする。そこをつくと大激怒するので注意が必要だ。
彼女は全属性の魔法を使えるし、大雑把なドラゴン魔法には無い繊細な魔法を使う。それに搦め手の魔法が最も得意だ。
俺の生命維持やドラゴンとの同化にその深淵のごとき魔法の知識を披露し救ってくれた。
それに魔法や龍の力のことを教えてくれたのも彼女だ。彼女にはまったく頭が上がらない。
「クレイ。力に溺れず今出来ることをするのですよ。龍の力を封印しているとは言え、その力に頼りすぎれば身を滅ぼします。
ここぞの時に使うように気を付けなさい」
「わかりましたリューミィ。気を付けるよ」
「本当ににわかっとるのかい?アクジキとの戦いでも限界を超えて使っておっただろ。あのバカがどうせやり過ぎて使わざる得ない状況に持ってかれたんだろ」
はい、正解です。
「ドラゴンは私も含めて大雑把なのが多い。まぁリューミィは別だがの。あんたもドラゴンの中で育ったせいか力の使い方が大雑把になりがちだ。身体は頑丈になったし、再生力は人間を超えとる。だけどねクレイ。あんたはまだ人の域を超えてはいない。十分に気を付けるんだよ」
「そうですよクレイ。アクジキや他のドラゴンは見習わずに人として謙虚に生きるのです。体が半分以上ドラゴンになった影響で恐らく寿命も人の命を超えるでしょう。焦らずゆっくりものごとを見るんですよ」
「わかりましたリューミィ。それにクララ。出来る限りは龍の力は使わないようにするよ」
「まぁお前の性格だ。厄介事に巻き込まれるだろう。なんせ5歳で龍の墓場まで落ちてきたくらいだからな。その時は龍の流儀にしたがって邪魔者はぶっ飛ばせ」
「任せとけ」
アクジキとまた親指を立ててニヤッと笑い合う。リューミィとクララからは溜め息が聞こえる。
「まったくこの二人。バカにつける薬はないの。リューミィ」
「そうですね。再生させるのに一番波長が合うのがアクジキでしたからね。性格も似てるんでしょう」
「治療を間違えたか」
「一番はアクジキがクレイを育てたのが悪かったですかね。私もクララも人間との関わりがありますから墓場に長居は出来ませんからね」
「無理にでも連れ出せば良かった」
「まぁ二人ともそう言うでない」
「あら珍しいわね。貴方も来たのねグライ」
「グライ爺さん」
茶色い体色をして白い白眉と髭を生やした体長2メートル位のドラゴンが土の中から出てくる。
「こいつのお陰で辛気臭い龍の墓場も明るくて良いわ」
シシシシとグライ爺さんが笑う。グライ爺さんもとい工房龍グライ。鍛冶を生業にする者やドワーフ何かに崇められている龍らしい。
いつもは酒瓶片手に酔っぱらってるけど今日は持ってないから久しぶりに素面なグライ爺さんだ。
「ほれクレイ。餞別だ」
グライ爺さんから渡されたのは70センチ程の剣で、形はサバイバルナイフが近いが剣幅が30センチ近くある。
装飾は無く、無骨な戦うための武器と言った感じだ。
対人戦なら申し分ないが魔物との戦闘には少し物足りない大きさだ。
それにしても剣から感じる力が凄い。まるで一匹のドラゴンで出来ている様だ。
「そいつの名は『龍牙刀デスポタ』そいつにはここにいる龍達の牙や髭とかを使った剣じゃ。ほれ魔力を流してみろ」
言われた通りに剣に魔力を流すと刃が分裂し、大剣へと変わる。隙間は魔力で穴埋めされている。
凄い魔力浸透率だ。気持ち悪いくらいスムーズに通る。過去の記憶を探しても中々ない逸品だ。
「そいつのメインの素材はアクジキだからの。お前さんとの相性は抜群だ」
アクジキの方に振り向くとニヤリと笑っている。
「皆からの餞別だ」
「ありがとうみんな」
自然と涙が出てくる。命を助けられてここまで育ててもらって俺は幸せ者だ。
よけいに母さん。
俺は母さんが怖いです。
もう遺伝子的に屈服してるから仕方ない。うん仕方ない。母さんが怖いのなんて万国共通だ!!
「切れ味は抜群だ。最上位龍の素材で作っただけあって強度も保証するぞ。使い方はおいおい使ってればわかるじゃろ。今は変形刀とでも思って使いなさい」
「ありがとうグライ」
一通り変形を試し鞘に納める。切れ味がよすぎて鞘も龍鱗を使った鞘で黒い鞘に様々なドラゴンが銀色で描かれている。
「小僧そろそろいかないと瘴気で谷を抜けずらくなるぞ」
「そうね。あまり旅人を引き留めるべきではないわね」
「寂しくなるの」
「そのうち帰ってくるよ。皆に会いたいからね。それに龍の力のお陰で空も飛べるからちょくちょく来るよ」
「ふん。100年に1回は顔見せに来い」
「あら頻回ね」
あ、そんな感じで良いんだ。ドラゴン時間だな。
このドラゴン達下手すれば1000年単位で会わないこともあるらしいからな100年単位じゃかなり多い。寂しく感じてくれてるってのはかなり嬉しい。
「それじゃぁ行くよ。地上での戦いが待ってるからな」
龍装纏衣で翼を生やして飛び上がる。
「じゃぁねみんな!」
手を振りながら一気に上空に飛び上がる。ドラゴン全員が手を振っていた。
飛びながらも自然と涙が出てくる。
みんなには本当に感謝しかない。ここにこれて良かったよ。
涙を流しながら飛んでいるとしたから様々なドラゴンブレスが飛んで来る。ドラゴンブレスで瘴気が晴れ、一気に周りが明るくなる。
ありがとうみんな!
ドラゴンブレスの道を通り谷を抜けて空にでる。久しぶりの青空に大自然。
あぁ良い空気だ!!
さぁこれからが冒険の始まりだ。