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崖の下のドラゴン

 イブブーガと戦闘の果て、不運にも崖の下へと落ちた。


 どこまで続くのか、数分経つが未だ落下中だ。


 体の脱力感のせいで姿勢が上手く整えれない。そのせいで体が回転してよけいに具合が悪い。


 崖を下れば下るほど白い霧が濃くなっている。霧のせいで周りが見えず、いつ地面が迫ってきて叩きつけられるのかもわからない。


 自分はこのまま死ぬ。


 それは崖に落ちた瞬間に理解した。でもこう落ちる時間が長いと恐怖が増す。どうせならとっとと殺してほしい。

 恐怖が今までの事を思い返させ、自問自答させる。


 急に霧が薄くなり、突然晴れる。


 霧の下は骨の山。見ただけで数千以上はありそうだ。良く見れば広がるのは龍の屍。


 ここは龍の墓場か。


 自分の最後は龍の墓場。思えば光栄かもしれない。落下の先には龍の顎。迫るは龍の牙


 死ぬ。


 今度こそ、死への恐怖が深く自問させられる。


 そう思うとまた死への時間が延びていく。今まで生きた5年間の走馬灯が頭に流れる。たかだか5年の人生、一瞬で終わる。


 な、なんだよこれ・・・


 知らない人の記憶が流れ始める。


 な、なんだこれは!?


 魔法使いの記憶が英雄と思わしき人物の記憶が異世界の人物の記憶が経験が一斉に流れてくる。


 頭が壊れる。あまりに大量の情報量に頭部に激痛が走る。


「ンガァハッ」


 苦痛にもがいていると衝撃と更なる激痛に襲われ落下が停止する。


 龍の牙に突き刺さり落下が止まり、痛みに一切動くことは出来ない。即死しなかったのは運が良いのか悪いのか。


 意識が薄れていく。もう目も見えない。痛みも感じなくなり、触覚すらなくなった。。今感覚で辛うじて残っているのは聴覚。


 その聴覚ですら聞こえなくなってきた。


「ほぉ。こんなところに子供とは。どれこっちに来い」


 最後に聞こえたのは野太い声で話された言葉だった。



 ★



「よぉボウズ目が覚めたか」


 こ、ここは、どこだ。最後は龍の牙に刺されたはず。そのせいか身体中の感覚がまだ停止している様な感じだ。それよりもあの状況で何で生きてる。


「驚いたぞ。この龍の墓場に人が落ちてきたのにも驚いたが、この墓場の瘴気に当てられても生きてるとはな。まぁ結局は死んだんだがな」


 は!?死んだ!?じゃぁなんで生きてる!?


「そう驚くな。今は一応生きてる。半分龍になっちまったがな」


 半分龍に!?どういうこと!?


「どれ見せてやるか。これが今のお前の姿だ」


 10歳前後の少年が赤龍の腹と同化している。右腕は無く、右目にも大きな傷がある。なんと言っても心臓に大穴が空いている。


 な、なんだこれは!?少年は信じたくないが成長した俺に見える。これで生きているだと!死んだ方がマシと思えるような姿だ。


「赤龍と同化させることで命を繋いでおる。命を止め朽ちるのを待つ赤龍とは言え、その強大な生命力は死してなお健在だ。幼子の命を戻すことすら容易だ。あと数年はこのまま寝てもらおうかの。それでは次目を覚ますまでお休みだボウズ」


 瞼が重くなり、強制的に夢の中に送られる。



 ★



「あぁぁぁぁぁ!!」


 新たな人生の目覚めは激痛と共に始まった。


「お、すまん痛かったか」


 ガハハハハと笑う黒龍。あまりの光景に痛みも吹き飛ぶ。


「こ、この声、前に起きた時に話しかけてきた奴か」


「お、よく覚えておる。治療も上手くいったようだな。ワシの名前は『悪食(アクジキ)』見てわかる様に闇を司る黒龍だ。

 どうだ?身体は上手く動くか?」


 か、身体?


 記憶がフラッシュバックする。前見た自分の姿に慌てて欠損部位を触って確認する。


「うむ。それだけ動ければ大丈夫そうだな。ボウズお前もわかってる通り、見つけた時にはお前はもう死んでいた。無惨な姿でな。

 右腕の欠損、右目は潰れ、心臓には大穴だ。他にも全身骨折にヒビだらけでボロボロ。幼子にしては壮絶な姿だ。あれで息を吹き返し、それだけ動ければ上々だ」


「ありがとう。まさかホントに生き残れるとは思ってなかったよ。それにしてもどうやって欠損を治したんだ?よほど高位のポーションでも使ったのか?」


 新しい記憶。恐らく前世の記憶にあるポーションは切断や小さい欠損なら治せた。更に高位の回復薬エリクサーは欠損部位を完全に治すことすら可能だ。


 さらに魔法での欠損部位の修復。史上の魔法使いの記憶と経験がそれを可能だと訴えてくる。


 それにしても苦しいほどの膨大な記憶と経験が頭の中を巡っている。5年の歳月など無視され追い出されてしまいそうな程の情報量だ。自我を保てているのが不思議だ。


 いや、もう自我は無いのかもしれない。幼かった自分がやけに成長していると感じる。


「そんなもんここにはない。あるのはドラゴンの血肉のみよ。ボウズお前の体の血肉を埋めたのはワシの肉だ」


「お、おいそんなことしたらあんたがーー」


「何心配することはない。幼子の血肉程度失ったところでたいしたことはない。それに生きた者の血肉の再生には死肉は使えないからな。まっワシの肉を使っても拒否が出れば一貫の終わりだったがな。ガハハハハ。まさに一か八かだっなわ。ガハハハハ」


 それにしてもこのトラブルは表情が豊かだ。黒龍はその色から邪龍の一種とも言われるほど邪悪で強大な力を誇る。記憶にもこんなに表情豊かなドラゴンは出てこない。


 人間と喋るドラゴン。ましてや助けるドラゴンなんて聖龍位だ。


 まったく可笑しなドラゴンに助けられたものだ。


 だが、今は命があっただけ御の字としよう。

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