赤薔薇騎士団
タスタス町を出て早1週間。
途中狼の襲撃やゴブリンの夜襲があったり、森の中を抜ける際には野盗が襲ってきたりと概ね予想通りの行程を進んでいる。
狼もゴブリンも4、5体の群れだ。この程度の襲撃は冒険者にとって馴れたものだ。
野盗は弓矢に毒を塗り、さらに罠等の搦め手を使ってくることもあるが基本は農民や冒険者落ちの雑魚ばかりだ。
よほどの新人冒険者でない限り野盗に負けることはない。野盗もそれはわかってはいるが背に腹は代えられないと言った感じだ。
野盗に落ちた辛さもわからなくもないがこれでは野盗も続かない世知辛い世の中だ。
御者のおっちゃんは「いつものことよ」って笑いながら話していたが、冒険者崩れや商人崩れの野盗に会うと辛いこともあるそうだ。
なにせその中に知り合いが混ざっていることもあるそうで知り合いを退治するのは心が痛む。
冒険者の護衛は男4女3の7人パーティーだ。野盗も大勢でかかってくることもあるので護衛も実力問わずに人数を雇うそうだ。
御者のおっちゃんと御者台で話している際におっちゃんが「冒険者は体力が余ってるせいで男女のパーティーだとそこらでしはじめるから溜まっちまっていけねぇ」と愚痴を溢していた。
「まぁ目の保養になるから良いけどな。ガハハハ」って豪快に笑っていた。
マジかよって思ったら休憩で止まっている隙に林で男女の声が聞こえてきた。
「あっ、あっ、あっ、そこ。そこが良い!!」
おっちゃんじゃないけど溜まっちまっていけねぇ。こちとら思春期じゃ。
夜営の時には女性冒険者から誘いもあったが一応今は断っている。タイプからずれてるからしたくないのだ。
女性冒険者にカルナックに行ったらダンジョンに潜る話をしたらダンジョンに潜るときには男女のパーティーが良いと話された。
ダンジョンの中は死が支配してるせいで気を狂わせる者も少なくないそうで、そんな中男女のパーティーだと体を重ねることも出来るので精神を保つことも出来るそうだ。
男だけのパーティーや女だけのパーティーでもそう言うことはあるそうだ。
話を聞いてて男同士だけは勘弁してほしいと思ったのでパーティー入るなら男女のパーティーにしようと心に決めた。
「あれは魔物か?」
「魔物だって?ん?よく見えないぞ?坊主目が良いな」
チスト町目前の平原で微かに土煙を上げて魔物が走ってるのが見える。あれはラブートか?
ラブートはダチョウがさらに大きくなり、羽が硬質化して蟹のようなハサミが生えた魔物だ。何よりも特徴的なのは鶏みたいな鶏冠が頭に生えていることだ。
あまり好戦的な魔物ではないはずだし、群れで動くことも珍しいんだが10頭以上で走ってる。
距離があり過ぎてよく見えない。まだ何かいるのか?
「坊主向かってる方向はどっちだ」
御者のおっちゃんにラブートが走っている方向を指差す。
「そいつはヤバイかもな。もしかしたらチストを直撃するかもしれないな」
仕方ないか。
「おっちゃん。俺はラブートを止めてくるよ。おっちゃんはラブートに直撃しないように町に向かって知らせてくれ!!」
御者台から飛び降りる。身体強化。一足目の加速で馬車を置き去りにする。
俺の動きに冒険者や御者のおっちゃんは唖然とした様子だったが、流石冒険者。直ぐに指揮をとりチストへ向けて速度を上げて走り始める。
★
あれは赤い騎士甲冑の集団?
近づくにつれラブートの前を走っている一団が目に入る。赤い騎士甲冑に薔薇の紋様が入っている。しかも女性だけだ。
騎士の人数は15人。
真ん中には赤いドレスの女性がいる。騎士はあの女性を守るようにして動いている。
とりあえずラブートを止めないといけないな。
買ったばかりのロングソードを抜き魔力を通す。デスポタに比べ物にならないくらい魔力の通りが悪い。魔力を通すと言うより魔力で覆ってるに近い。
こりゃダメだ。
魔方陣を数個作り出してロングソードに重ねる。
強度強化の魔方陣に鋭利強化の魔方陣で強制的に強化する。これで少しはまともになるはず。
さらに加速してラブートの群れに突撃して数匹首を切り落とす。
ラブートは羽が硬質化し蟹のようなハサミが生えているが、首は細く皮膚も他に比べれば柔らかいなので狙い目ではあるが、もうスピードで動き回りハサミが襲いかかって来る中を掻い潜るのは至難の技とも言える。
剣で首を切り落とすのもスピードの乗ったラブートを斬りつければなまくらならば剣がもたずに負けて折れる事が多い。
「これならまだいけるな」
ロングソードを握り直す。まだいけるが、これ以上の強化はロングソードが魔力に耐えられなさそうだ。それに上手く斬らないと下手したらラブートの強度に負けて剣が負ける。
殺気を放ちながらラブートをさらに数体屠るが、どうやらラブートは狂乱状態の様で進行を止める様子はない。
普通ここまで仲間を斬られれば逃げるか恐慌状態になるはずなんだが。
その前に人間と違って精神的に劣る魔物が狂乱状態になることはあまりない。
それこそ絶対的強者による補食を目の前にした時か、それとも人為的に起こされたかの二択と言っても良い。
さぁどうしたものか。殲滅するのははっきり言って簡単だ。簡単だが後が厄介そうだ。
ラブートの強さはそこそこ。弱くはないが強者ではない。熟練の冒険者なら楽にラブートを倒すだろう。だが集団のラブートの殲滅は難易度が跳ね上がる。
「少年!助かった!加勢する!!」
赤い騎士甲冑の女性3名が槍を振りながらラブートに突撃する。
凄い気迫だ。3名とも身体強化をしてる。並みの冒険者じゃ身体強化を会得してる者も少ない。それほどに身体強化は難しい。
身体強化には種類がある。
魔力を過剰放出して身に纏う魔炎強化。
魔法の効果による強化、魔圧強化。
簡単なのはこの二種類だ。
簡単だが、それ相応の努力と修練と才能が必要だ。
魔炎強化はその放出し続ける豊富な魔力量に、戦闘中も放出し続ける魔力を安定させ、身に纏う魔力を留める魔力コントロールが必要不可欠だ。
魔圧強化は強化を施す魔法を修得し、戦闘中も発動した魔法を維持し続ける魔力コントロールが必要。魔力量はそれほど必要無いが緻密なコントロールを求められる。
ただ魔法を発動する事はある程度の魔力量に魔力コントロールがあれば簡単だ。俺も初めは直ぐに発動できた。だけど身体強化魔法は難易度が桁違いだった。一度身体強化を習得すれば簡単な戦闘は直ぐにでも出来る。それが命のかかったやり取りの中でとなるとさらに難易度が上がる。さらにその戦闘が高速になればなるほど難易度があがる。
修得してからがさらに難しい。それが身体強化だ。
それを軽々とこなしている。馬に乗ってさらにラブート相手に戦闘をこなしている。
彼女たちは間違いなく並みではなく強者の部類に入るだろう。
それがなんでこんな所にいる。あの中心で護られていた人物が関係あるのだろう。
まぁ。今は良い。彼女たちと残りのラブートを殲滅しよう。