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だって私は優秀だもの!

作者: まあじ

私はモナカ。古くからの魔術の名門・マジア家の長女として生まれた。マジア家は代々、優秀な魔術師を輩出しており、国内有数の魔術師一族。

その長女に生まれた事は、つまり、そう! 私は超優秀な魔術師ってこと!!


長女であるが故に超優秀な魔術師である事を強いられるこの家で、私は両親に「もっと頑張れ」と言われないぐらい、いや、親戚ひっくるめても誰も私に文句を言えないぐらい、とんでもなく魔術の扱いが上手い。

魔術の名門マジア家でも頭一つ抜き出た才女、それが私。才気煥発な魔術師としてこれから宮廷に召し抱えられる日も近いハズ……ムフフッ。

まあ、当ッ前よね、死ぬほど特訓したもの。

来る日も来る日も魔術漬け、教わった魔術をひたすら反復練習。魔力が無くなったら頭ガンガンするけど、休む暇なんて私には無かったから、本を片手に読みふける。死にたくなるぐらい、いえ、死んだ方がマシだと思えるぐらいには頑張ったわ。

「嫉妬してるヒマあるなら、特訓すればあ?」

そう言って、幼き日の従姉妹の優しかったおねーちゃんに全力ビンタを食らったのはやな思い出だ。

「世の中には頑張っても報われない人がいるの」

と涙ながらに語られた。意味がわからない。

「おねえちゃんは死にかけたことある?」

「えっ?」

「私はあるよ。魔術が暴走したり、重度の魔力欠乏だったり、寝不足と体調不良だったり、何度もなんども死にかけた。それぐらい頑張ったんだよ」

おねえちゃんは頑張ったの? って聞いたら、おねーちゃんは泣きながら押し黙った。

ほら見なさい、私ほど頑張ってないじゃん。ろくに努力もしてない癖に他人を僻むなよ。

ちなみにその後「何いじめてるんだ!」と両親にも引っ叩かれ、親戚一同から叱責を受け、おねーちゃんには謝っても許して貰えず散々だった。

何はともあれ、そういった思い出と経験から、私は迂闊な事を口にするのはやめた。

怒られた事より何より、優しかったおねーちゃんにビンタされたのが痛かったから。あ、心がね。

だから私は口にする言葉だけは気をつけるようになった。

本当は私ほど優秀だったら、他の奴らなんてゴミクズ扱いしても許されるぐらいなんだけど、そんなゴミ共にもきちんと私の高尚な気持ちを伝えるようにした。難儀なもので人の心は魔術よりも扱い辛い。私に対する嫌がらせが頻発する。

私が妬ましいなら、私を超える努力をしろよ!

「それ、単純にモナカの事が嫌いなんじゃない?」

「……なるほど、その可能性は考えて無かった」

兄トゥーゼに言われて気付かされた。どうやら私は「嫌な奴」らしい。

私の才能に嫉妬してるんじゃなくて、私の性格に嫌気がさしてるならどうしようもないな。仕方ないわ。

そう考えると、ゴミ共のする事に一々イライラする事がなくなった。流石お兄様、アドバイスが的確ですわ! 魔術はてんでダメですけど。


ともあれ、そんな感じで私は10歳になった。

私の噂は他家にも伝わっているらしい。天才少女、十年に一度の鬼才、魔術の申し子などなど……ふふふっ、だよねー、私だもん! そのぐらい言われて当然よね! 言ってもらえるぐらい頑張ったもの!

順風満帆、私はこのまま悩む事も迷う事もなく、順調に魔術師として成長し、宮廷お抱え魔術師になって、好きな人と結婚して……ああ、未来予想図が簡単に描けてしまうわ!


……筈だった。


「この子が今日からモナカの弟になる、ウォン・ジャニオだ。ウォン、挨拶しなさい」


お父さんが、この子を連れてくるまでは。


「……」


何この根暗。こんなチンチクリンがわたくしの弟?


「ああ、マジア家に来るからウォン・マジアになるか。モナカ、仲良くしてやれ。この屋敷では一番歳が近いだろ?」


ウォン・ジャニオ。聞いたことない姓だ。


「お父様は元からこの子を知っていたので?」

「マジア家の血を濃く受け継いだのか、とんでもなく魔術の才能があるんだ。お前ばかりに負担をかけるわけにもいかないからな、引き取ってきた」


は? 負担? 私に?? 何を今更。

私が何のために今まで頑張ってきたと思ってるの?

お父様やお母様が私に「もっと」と期待をするから、お兄様が申し訳なさそうな顔で「お前ばっかりに押し付けてごめんな」って謝るから、私はそれら全部に報いようと今まで頑張ってきたのに!!

私の努力は、要らなかったってこと?

私の魔術の才能じゃ、足りないってこと?


「……お父様の隠し子でございますか。お母様はご存知ですか?」


なんとか言いたい言葉を全て飲み込んで、私はお父様を別の理由で言及する。

だって、こんなチンチクリンの前で取り乱すわけにいかない。


「……あいつには、後で説明するつもりだ」

「お母様に受け入れて貰えてないのに、私が受け入れるとでも?」


あんなチンチクリン、家に上げたくもない!


「ウォンを泣かせるなよ。お前はただでさえ怒りっぽくて、顔も怖いんだから。そんなんだから、従姉妹のあの子にも泣かれるんだ」


カッチーン、ぷっつり。

私の顔が怖いのは遺伝よ、このクソ親父!

おねーちゃんは今関係ないでしょ!?

そんで当たり前のように私がチンチクリンを泣かせると思ってるのもムカつく!


「この子に当たるつもりはありません! お父様が悪いのですから。だからお母様に受け入れてもらえるまで、お父様を無視します」


バリバリ当たるつもりだったけど、反抗心でつい言ってしまった。言ってしまった手前、当たってはいけない。有言実行、言った約束は守るのが魔術師だ。


「ウォン、と言ったわね。私はモナカ・マジアよ。この家で一番魔術が得意なの。貴方も才能があるって言うなら、この私を超えてみせなさい」


超えさせてやるもんですか、こんなチンチクリンに。

私が今まで泣きべそかきながらやってきた十年間の努力を、才能ごときに覆されてたまるか。


「おっ、いいねえ。焚き付けてやる気にさせるつもりだな? ウォン、モナカを超えてやれ」


うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさい!!

私は人に超えられるような生易しい努力はしてない! これからもしない!

お父様に認めて貰いたくて頑張ったのに、「よくやったね」って言ってもらいたかったのに、どうして「当然だな」と「精進しろ」しか言えないの!?

血反吐吐きながら頑張って、ようやくようやく他の人からも認められるようになったら、チンチクリンに向かって「モナカ()を超えろ」?

私は用済みですか、ああそうですか!!

お父様にとって、本当に大切なのは才能ウォンであって努力わたしじゃないのね……!


「……っとりあえずお風呂行くわよ」

「……は?」


ああ、イラつく! クソ生意気ね!

私はわざと力強く引っ張る。チンチクリンは私より小さい。多分一つか二つ下だ。


「そのチンチクリンな髪型直すわよ。この家に来たからには、身なりもきちんとして貰います。名門マジア家としての責任と誇りを持ちなさい」

「……」コクン、と頷くのが見える。

「あと、私は貴方のことが嫌いよ」

「ぇ……」


「えっ」て何よ「えっ」て。

むしろ、あんた自分が好かれる理由があると思ってたの?

その図々しさ尊敬するわ。


「むしろ貴方を好きになる理由が無いわ。容姿に無頓着な所も、魔術の才能があるって言われた所も全部、全部嫌い」


私はチンチクリンの服を脱がせて、風呂場に叩き込む。私も腕をまくって入る。


「貴方がどういう思いでここに来たのか、あるいは連れてこられたのか、なんてどうでもいいわ」


魔力を使ってシャワーを勢いよく出す。

あわよくば痛がらないかな、と思いつつ。

私の服にも水飛沫がかかるが、着替えればいい話だ。


「この家では魔術が全てよ」


だからお兄様も苦しんでるんだ。

倍率一万の国家経理試験に合格するぐらい優秀なのに。一万分の一、一万人の頂点よ?

なのに、この家では認めてもらえない。だってお兄様は魔術が使えないから。


私は雑にチンチクリンを洗い流した後、タオルでこれまた雑に拭き(強めで擦ってやったわ)、服を着せて髪を乾かした。

嫌がるそぶりはあったが、口にしないのをいい事に続けてやった。


そうこうしてると、メイドが飛んで来て「お嬢様! こういったことはわたくし共がやります」と仕事を引き継がれた。

あっそう。あ、出来れば乱暴に扱って頂戴ね!





「あ~もうほんっとムカつく! なんなのアイツ! ちょっと顔がお父様に似て格好いいからってお澄まし顔でさあ!? おまけにダンマリ! 生意気! あんな奴、私は絶対弟って認めないわ」

「まあ、けどあの子に罪はないし……」

「わかってますわ! けど、お兄様は複雑じゃないんですか!? 私は複雑です! 弟ができるって、お母様のお腹から生まれるのを私は楽しみにしてました。なのに来たのは一つ下のチンチクリン! おまけに魔術の才能を見込まれてこの家に来たんですって、私じゃ足りないっていうの!?」

「お父様もそういうつもりじゃないと思うけど」

お兄様は苦笑いだ。

「なんでお兄様はお父様を庇うの!? あんなにお兄様をこき下ろしといて、尊大な態度で向き合えるお父様ですのよ!?」

「まあ、あの人も悪い人じゃないから……それに、多分お父様はモナカが頑張ってるのを知ってたから、楽になって欲しかったんじゃないかな。お父様なりにモナカの『荷物』を取り除きたかったんじゃない?」

「……別に私は荷物だなんて思った事ないわ」

「それでも、親心ってやつだよ、きっと。僕もモナカがこれ以上頑張らなくていいんだって思うと、ホッとするよ」

「……お兄様も、本当は私のこときらい? 魔術が使える妹なんて、いなければよかった?」

「なんで僕といる時はそんなにネガティブなの。違うよ、僕はただ、モナカが頑張り過ぎて死んじゃいそうなのが、見てられなかったんだ」


ポンポン、とお兄様に頭をなでられる。

お兄様の前では、見栄を張らなくていいから、自分の弱いところがボロボロ出ちゃうみたい。

お兄様が、私が無茶する度に顔を顰めて両親を詰ってた事。申し訳なさそうな顔して、けどどうにも出来なくて、それがもどかしいから、私が倒れた時の介抱をいつもお兄様がやってくれてた事。私は優しいお兄様を知ってるから。

私、多分お兄様がいなかったらもっと捻くれてた。多分、お父様にもチンチクリンにも当たり散らしてた。


「……うーん、モナカに話しておいた方がいいかな」

「何を?」

「僕も、モナカを羨ましいな、妬ましいなって思った事あるんだよ」

「……当然です」


魔術が使えないのだから、魔術に憧れて、使える人を妬ましく思ってしまうのも仕方ない。むしろ普通だ。

けれど、いざ直接言われてみると、少し傷つく。


「モナカが魔術を使える女の子って聞いた時、ああ僕は両親から見捨てられたな、ってはっきり分かった。それが悲しくもあったし、辛くもあった。モナカさえ生まれなければ、って思ったこともあるよ」


お兄様にも私疎まれてたんだ……。


「でも、頑張り屋でひたむきで、直情型なモナカを見てると、段々可愛く思えてきて。妹なんてって思ってたけど、実際に小さな体で目一杯愛情表現されると絆されるっていうか。まあ、兄の宿命なんだろうね、きっと。なんだかんだで妹が好きなんだ。理由とか関係なく、ね」

「……」


えっと、私は何を聞かされてるの?


「だから、多分モナカも、今はウォン君の事嫌いだろうけど、そのうち好きになるよって事を言いたいんだ」

「ありえません」

「まあ、そう言わないで」


またお兄様は苦笑いだ。そもそも、弟でもなく赤の他人なんですもの。無理です。


「もしかして、お兄様はウォンの事を既に弟だと思ってるんですか」

「流石にまだかな。けど、これから一緒に暮らしていくんだから、好きになれた方がいいじゃん」


お兄様はいつでも大人だ。

大人の意見を言う。反抗できない。


「それは、そうなんですけれど」


けれど、私はやっぱりアイツの事が気に入らないのです。





「だから、いじめるわ」


私付きのメイドに話しかける。


「へーそうですかあ。気長に頑張ってくださいね。あ、使用人は巻き込まないでくださいよ」

「分かってるわ」


こいつ、いじめるの意味分かってるのかしら。

異母姉にいじめられるなんてありがちなパターンだ。最高に気分が沈む小説にね。

けど、私は気に入らないものは気に入らないと言える人間だ。いじめていじめていじめ抜いて、この家から追い出してやるわ。




「おはよう!!!!(騒音被害) こんな時間まで寝てるなんて、いいご身分ね。あ、コラ、二度寝するな!!」

「……」


「あら? 野菜を残すの。好き嫌いはダメよ、ちゃんと食べなさい。まったく行儀が悪い。マジア家の自覚があるのかしら? いつまでもお遊びの気持ちでいられては困るのだけど」

「……」


「ちょっと基礎魔術は疎かにしないで完璧にやりなさい。基礎魔術程度でそのザマなんて、貴方の才能も大した事ないわね」

「……」


「頭洗ってあげましょうか、最初の時みたいに! 今度は体も洗うわよ?」

「……」

「(無視かよコイツ)」


「おやすみ。明日はしっかり起きなさいよ」

「……」



私は鬱陶しくウォンに付き纏うことに決めた。

どうやら人と一緒に何かをするって言うのが嫌らしく、私がそばに寄ると顔をしかめる。

ははっ、いい気味!

あと、野菜は残したら口に押し込む。あら、噎せてるの? ざまあ~笑

魔術に関しては、正直成長率に引かざるを得ないぐらい怪物じみたスピードで吸収してる。あと三年もしたら抜かれそうだ。私の十年の努力が!

けれど、今は圧倒的に私の方が上なので、先生ぶって嫌味ったらしく教えてあげる。魔術を使うには根気がいるんだ。人にギャイギャイ言われると根気は一気になくなる。私なりの邪魔をしてる訳。


ふっふっふ、これならウォンが根をあげる日も近いんじゃないか?

こんな嫌な姉の所で生活なんてしたくないでしょ!





私は14歳になった。

魔術学校に通いだしてから、もう一年が経つ。今年はウォンも入ってくる。ウォンはまだ家を出ていかない。図々しさ発揮しないでくれるかな?

お父様はお母様にまだ受け入れてもらえてない様子。だから私も無視継続中だ。

だから、正式な義弟ではなく、ウォンは未だウォン・ジャニオらしい。

学校の入学手続きも『ウォン・ジャニオ』で統一らしいので、書類だけでは私とあいつが兄弟だとは分からない。やったね!

とはいえ、四年も一緒に生活してると、不思議と自然と愛着が湧いてくるもので、嫌いだし大っ嫌いだけど、私以外の奴にイジメられてたら助けてやろうかな、と思えるぐらいには愛着がある。

ちなみに魔術はまだ抜かれてない、筈。

そもそもアイツが異常なのよ。なんなの、なんであんなに伸びるのが早いわけ!? 「ねえさんの教え方が上手いから」ってやかましいわ!



「今日から転校してきました。ドーナ・ウェロイーナです。よろしくお願いします」


おお、可愛い女の子だ。アイツのせいでささくれ立った心が癒されそう。


……と、思ったのも束の間、彼女はとんでもない怪物モンスターだった。

まず魔力測定値が壊れるって何? ただのファイアボールでその威力? どうして魔法陣を描かずに魔術が行使できるの? 呪文だけで使える魔術は基礎魔術ぐらいなのに! なのになんでそんなふんわり困った顔な訳? 理解不能。


私はギリっと歯をくいしばる。

悔しい、私は今まで頑張ってきたのに。

チンチクリンにも抜かされそうで、この女に至ってはまるで歯が立たない。

才能だけで全てを飛び越えていいと思ってるの?

……いいわ、見せつけてあげる。努力の結末を。ろくに努力もしてない奴らに、負けてたまるか! くそっ。


その日から、私は幼き日のように猛特訓し始めた。

ウォンが来てから、思うように自分の時間が取れてなかったから、少しサボりがちだったのかもしれない。人の事言えないわね。今までサボってた分も取り返さなきゃ。


「モナカ、またそんな特訓してたら身体壊すよ」

「いいえ、おにいさま。モナカは証明してみせます。努力は報われるって。そうじゃなかったら、モナカ、生きてるいみがないもん」

「疲れてる時にいくら頑張っても無意味だよ。休んで」

「やだ。今までサボってた分もとりもどさなきゃ」

「モナカはサボってないよ」


心配してくれるのは分かるんですけど、魔術を使えないお兄様に私の何がわかるの?


「あ、ウォン君。丁度いいところに。スリープ使える?」

「使えますけど……?」

「モナカにかけて」

「や、余計なお世話よ。ウォン、邪魔しないで!」

「いいから」

「えっと……」


ウォンはどちらの言うことを聞こうか、戸惑ってるようだ。お兄様相手に怒鳴りたくはないし、ウォンの前で取り乱したくもないけど、もう我慢の限界。


「お兄様のばか! なんで分かってくれないの!? モナカは頑張ってるの! 邪魔しないでよ!!」

「モナカは一人称を『私』に変えたじゃないか。いつまで昔に縋ってるの」

「魔術を使えないお兄様に、私の気持ちなんてわからないのよ!!」


お兄様は顔を歪めた。私もハッとする。

しまった、この言葉だけは、絶対言っちゃダメな言葉だった。


「……そうだね、モナカの気持ちなんて分からないな。じゃあモナカの好きなようにやればいい。僕は止めないよ。そうして無茶して、勝手に死んでればいい」

「……」


お兄様の目が、今まで見た事ないぐらい冷たくて、びっくりして私はその場から逃げ出す。

ああ、もう、私の馬鹿。言葉には気をつけなきゃいけないのに。文字みたいに消せないから、一度吐き出したら戻せないから。

小さい頃から私は変わらない。

癇癪持ちな所も、すぐイライラする所も、プライドが高い所も、人を傷つける事を言ってしまう所も。

こんな私が嫌いだ。私は名門マジア家の長女。お父様とお母様は私の事を『長子』っていう。お兄様の事はいないみたいに扱う。おかしいと思うのに、何も言えない自分が嫌いだ。

魔術が得意なだけで、私はちっとも偉くない。

嫌い嫌い嫌い嫌いきらいきらいきらい……!



翌朝、私は家族の誰とも顔を合わせずに学校へ行った。朝ごはんも食べてない。要らないって事前に伝えておいたし、問題ない。


「ドーナ・ウェロイーナ、私と勝負なさい」

「え」


そうよ、全てはこの女の所為なのよ。

私は名門マジア家の才女よ。一番であり続けなきゃ、生きてる価値がないの。

それをこの女がひょこっと現れて、普通な顔して掻っ攫っていくから悪いの。

腹立たしい。むかつく。どうせ大して努力もしてないくせに。

その証拠に、高難易度の魔術も力でごり押して成功させてるもの。才能って便利ね、努力しなくても出来ちゃうんだから!


その後、私は何度も挑み続けた。時には嫌味も言ったし、皮肉も言った。止めようとする奴らもいたけど、睨みつければ大人しくなった。

けれど、私は結局一回も勝ててない。悔しい。

いえ、きっと私の努力が足りないのね。


「モナカちゃん、すごいね」

「は?」

「もう、ほんと才能の塊だよ」


は、嫌味? 喧嘩売ってんの、コイツ。


「貴方に言われても嬉しくないわ」

「いや、私は……私は、ズルしてるようなものだから」

「はあ? ズル?」


何を今更。才能持て余してる時点でズルよ、ズル。チートだわ。卑怯者。


「実はね、私はヒロインなの」

「は?」


あ、この子頭おかしい子だ。

魔術の天才は大概どこかおかしいものだけど、これはヤバい。


「頭おかしいとかじゃなくて! えっと、この世界はゲームの世界で、私はその主人公として生まれ変わった、っていうのかな」

「そ、そう」


頭おかしい。うわあ、ちゃんと設定練ってきてる!

ゲームの世界て……ドン引き。


「信じてないね? それで、モナカ・マジアは悪役なの。ヒロインの恋路を邪魔する人」

「ああ、うん」


私が悪役っていうのが気に入らないけど、確かにこんなに才能の差を見せつけられてたら、恋路ぐらい邪魔しちゃうかもしれない。

うっかり納得してしまう。


「……でも、モナカちゃんは違う。私に嫉妬するんじゃなくて、私に勝とうとして必死に頑張ってた。私って転校した時に周りから怖がられてたの知ってる?」


いやバリバリ嫉妬してましたけど。

むしろ妬み嫉みの塊だったわ。

てか、この女を怖がる?

……実は王族、とか? え、うそうそ、怖い。


「その顔は知らないね。ほら、化け物じみた数値出しちゃったじゃん、魔力測定で。それに魔術も高難易度のヤツやっちゃったし……それで、ちょっと浮いてたっていうか、怖がられてたの」


あ、なんだ、そのことか。

そりゃ、あんなもん見せられたら怖いわよ。

私だって心臓止まるかと思ったわ。


「でも、モナカちゃんはそんなの御構い無しで私に『勝負』って言って接してくれてたの、本当はすごく嬉しかったんだよね」


えへへ、と笑うドーナ。可愛い。

……じゃなくて。

え、あんな突っかかってくる三下の噛ませ犬みたいな接し方が嬉しかったの? ちょっと趣向が理解できないわ。

やっぱり、魔術の天才は大概どこかおかしいのだ。イかれてる人しかいないらしい。

まともなのは私ぐらいね。


「ねえさん」


あ、この声はウォンだ。


「……ウォン」

「こんな所で何やってるの? ……その女は?」

「初めまして、ウォン君。私はドーナ・ウェロイーナ。モナカちゃんの親友です」

「違うわ。私のサンドバックよ」

「された覚えないよ?」


クスクスと笑うドーナ。そりゃそうでしょうね。だって貴方にどんな魔術ぶつけても効かないんだもの。

突然ドーナに抱きつかれ、耳元で小声で囁かれた。


「気をつけて、彼、ヤンデレなの」


やんでれ? ……いや、この子はそういう設定を生きてる子だった。その設定の中の言葉だろう。


「ねえさん、帰ろう。今日はにいさんの誕生日だろ?」

「……そう、ね。いい加減、お兄様と話さなきゃ」


パッとドーナは離れる。


「じゃあ、また明日ね」

「ええ、また」


私はウォンと一緒に帰る。

ああー憂鬱。お兄様にあんな酷いこと言ったの、私すっごく後悔してるし謝りたいけど、お兄様最近忙しそうだし、一度勇気を振り絞って謝りに行こうとしたら「忙しいから後にして」って追い出されたし。今までそんなことなかったのに。

やっぱり、私嫌われちゃったんだわ。お兄様は目も合わせてくれない。未だにお兄様とは仲直りできてない。

ドーナにも勝てないし、ウォンには負けそうだし、最悪だ。

上手くいかないときは、何をやっても上手くいかないものね。


「さっき、あの女に何言われたの?」

「ああ、彼女、妄想癖があるの。その戯言よ」


私も今日初めて知ったけど。


「へえー」


ウォンは興味なさそうだ。何その態度? 貴方から聞いてきたんじゃない。むかつく。





「お兄様、お誕生日おめでとうございます」

「にいさん、誕生日おめでとう」

「ありがとう、ウォン。嬉しいよ」


グサァ、傷付いた。そうよね、ウォンは何もしてないもの。ウォンは悪くない悪くない……けど! なんでウォンばっかり優遇されるのよ!


お父様とお母様も今日は食卓にいる。

お兄様の18歳の誕生日だからだ。要は成人。

お兄様は、成人したら家を出て行くと言っていた。国家経理試験に合格したので、就職先はそこだ。

だから、お兄様は明日か明後日には家を出て行くつもりだ。


「トゥーゼ、お前はこの家に生まれながら魔術の才能が無かった。そんなお前でも雇ってくれる所があるのだから、精一杯働きなさい」


お父様はわからない。お兄様がどれだけ立派な人なのか。

お兄様も笑って「はい、もちろんです」なんて答えてる。

お兄様は、もうとっくの昔に両親に両親らしい事を期待するのを諦めたのだ。

唯一両親と対話するのは、私に関することだけだった。

……けれど、今やもう私でさえお兄様の心の中にいない。いるのはウォンだけ。

なんでウォンばっかりうまく行くのよ……。

私にないもの全部、ドーナが持ってる。

私が欲しいもの全部、ウォンが持ってる。

私には、何にもない。


お兄様は私と目も合わせない。

つらい。


「……私、お腹いっぱいですわ。部屋に戻ります」

「もう? モナカ体調悪いの?」

「大丈夫です、お母様」


私は食事の席を立って部屋に戻り、結局渡せなかったお兄様へのプレゼントを眺める。

魔術を行使しやすくなる杖だ。

杖が無くても使えるが、魔力の消費が大きい。

言うならば、スコップを使わずに素手で穴を掘るみたいなものだ。スコップがあった方が便利だろう。

お兄様は魔術が使えない。もしかすると嫌味に思われるかもしれない。けれど、私はお兄様に杖を送りたかったのだ。

お兄様が、この家を見捨ててしまわないように。お兄様に私を覚えてて貰うために。

きっと、魔術の家から離れたお兄様は才能を開花させ、優秀な経理になるだろう。そうしたら、こんな家の事なんてきっと忘れてしまうから。


「……でも、渡せないわ」


私は用意していた別のプレゼントをお兄様の部屋に置きに行く。普通の万年筆だ。

仲直りできなかった。けど、もういいのだ。

お兄様にはお兄様の道があって、私がいつまでも足を引っ張ってる訳にいかないもの。

お兄様は、なんて事ないようだったし。


私は持ってきていた手紙を添えて、お兄様の部屋を出た。





17歳、お兄様は経理として有能に働いているらしい。ドーナには敵わないし、ウォンには抜かされた。

お父様には「これでウォンが当主になっても問題ないな」と言われた。お母様には「モナカ、もっと頑張りなさい。貴方なら出来るはずでしょ?」と言われた。

……出来ないよ、もう。

私は頑張っても追いつかない才能があると言う事を知り、心が折れた。挫折したんだ。


名門マジア家の長女モナカは次期当主の座を弟に奪われた。マジア家は自分の子では無く、他所から拾ってきた子供を当主に据えるらしい。

噂が流れてる。


今から思えば、私はよくあの程度の才能で威張れたものだと感心する。尊大に振る舞ってた幼き日は、黒歴史となった。


「モナカちゃん、学校卒業したらどうするの?」

なんだかんだ一緒にいるドーナにそう問われる。

「宮廷お抱えの魔導士になると思ってたわ。けど……」

「けど?」

「……少し、自分の道に自信がなくなったの」


今まで頑張ってきた事が、全て無駄になった気がする。


「そっか。じゃあさ、卒業したら私と一緒に冒険に行こうよ」

「え?」

「冒険者ギルドに登録してさ。世界中を旅するの。魔導師は数が少ないから、私たち絶対引っ張りだこだよ!」

「……ふっ、そうね。それも楽しそう」


私に、選べる道があるのならなんでも構わない。





18歳、私も成人だ。


「モナカも成人か。宮廷魔導士にならないかと打診が来てるぞ。この家の子として、役目を果たしてくれ」

「……いいえ、お父様。私は宮廷魔導士にはなりません」

「……なんだと?」


ウォンもビックリしてる。


「私、家を出ます」


唯一お母様だけが無表情だ。


「モナカの好きなようになさい」

「ありがとうございます、お母様」


ウォンに勝てない私には、きっと興味がないのだろう。お母様も魔術至上主義だから。


「だが、宮廷魔導士だぞ。お前、ずっとなりたがってたろ」

「……けど、他に道があると知ってしまったので。私は、私のやりたい事をやります」


ウォンが私に尋ねる。


「ねえさん、家を出て行くの?」

「ええ。学校卒業したら出て行くわ」

「行かないでよ、って言っても?」

「もちろん。貴方に言われて止めるぐらいなら、もうとっくに揺らいでるわ」


ウォンは一つ頷いて、爆弾発言した。


「そっか……じゃあ俺も出て行く」

「は? いや、ダメよ。ついてこないで」

「なんで? ねえさんは俺の事嫌いなの?」

「ええ、嫌いよ大っ嫌い。好きになった事なんて一度もないわ。お父様が連れて来たあの日から、ずっと嫌い」


何当たり前のことを聞いてるのだろう?

ウォンもそれは分かってるのか、いつも通りの笑顔だ。


「けど、俺はねえさんのこと好きだよ」

「そう、気持ち悪いからやめて」

「モナカ、その言い方はないだろう!」

「お父様にはわかんないわよ! 黙ってて!」


そこから広がってく喧騒の中、お母様だけが静かに食事をしていた。まるで、私達の事なんて見えてないみたいだ。





19歳、私とドーナは一緒に旅をした。いろんなことを知った。学校じゃ習わないことも、家で教わらないことも。


お兄様の誕生日に私は家に帰った。

帰った、というか、門番にお兄様へのプレゼントだけ託して、また旅に出たので、『寄った』という言い方が正しいのだと思う。





20歳、私達は冒険者の中でも一握りしかいないと言われるSランクになった。

結局パーティは私とドーナだけだ。人が寄ってこないのは私の顔が怖いから? いやでもドーナは可愛いし……そう言ったら、ドーナは「女二人旅の方が気楽でいいじゃん」と能天気な事を言った。

まあ、それもそうね。


今年も門番にプレゼントだけ託した。

私は、私が昔使ってた杖を渡すことにした。

もう、昔のモナカはいません。心配しなくて大丈夫です。





21歳、私もドーナも結婚適齢期だというのに、独身だ。男は沢山いるはずなのに、寄ってこないのだから出会いがない。仕方ない。

二人で安酒がぶ飲みしてるのが楽しいのだ。

ああ、そうそう、この前このギルドにウォンが来た。連れ戻しに来たのかと思ったけど、ウォンは「ねえさんが無事ならいいよ」とあっさり引き下がった。ウォンがドーナを見てた気がするのは気のせい? 二人とも仲よかったのね。


今年のお兄様へのプレゼントは何にしよう。





22歳。お兄様の誕生日に家に寄ったら、門番に捕らえられた。え? 私そんなに不審者に見える?

どうやら、手配したのはお兄様らしい。プレゼントさえも不快だったのかな。じゃあコレも捨てよう。


ひっ捕らえられて(本当は拘束なんてすぐ解けるけど)大人しく歩いていると、ウォンとすれ違う。立派に当主をやってるみたいで何よりだ。


「ねえさんはにいさんとしっかり話し合うべきだ」

「話し合うって言っても……お兄様は私のことが嫌いなんだから」

「話し合うべき」


そう言ってお兄様の部屋に押し込まれた。

お兄様は、部屋にいた。


「お久しぶりです、お兄様。屋敷にいるなんて珍しいですね」

「……」


お兄様は黙ったままだ。


「……あの時はごめんなさい。今更謝っても遅いのはわかってるけど、ついカッとなって、酷い事を言ってしまいました」

「……僕も、ごめん。モナカが謝ろうとしてるの知ってたけど、意固地になってつい追い返しちゃった。今でも後悔してる」

「まあ、お兄様が後悔? いつも大人みたいなお兄様が?」

「僕だって人間だからね。モナカが家を出て行ったって聞いて、僕のせいだと思った。慌てて家に帰ったけど、酷い有様だったよ。お母様は全員の事を無視するし、お父様は落ち込んでるし、ウォン君はいつも通りにしてたけどやっぱり元気がなかった」


いや、お兄様のせいじゃないですよ?

私が選んだ道なので。


「モナカから杖が贈られて来た時、正直ヒヤッとした。モナカは死ぬつもりなんじゃないかって」

「私は死にませんわ?」

「そうだね。でも、モナカが死にかけてるのを僕は何度も見てるから」


お兄様は苦笑した。あ、この顔はいつものお兄様だ。


「モナカ、家に戻ってこないの?」

「……お兄様だって、家に戻らないじゃないですか」

「経理の任期は最長でも十年なんだ。不正ができないようにね」

「じゃあ戻ってくるんですか?」

「モナカがもどってきてくれるなら」

「その言い方はズルいですわ……私には、冒険者としての務めがあります。それにドーナを一人にするのは……」

「呼んだ?」


ひょっこり現れたのはドーナだった。

何故この部屋に突然現れた。あれか、転移術式か。無駄に高度な術をまた、いとも簡単に。


「……呼んでないわ。帰って」

「つれないなぁ、もう! 『お前がねえさんの足枷になりそうだから来い』って言われて慌てて来たのに」


テレパスも使ってるのか。高度な術をホイホイ使うわね、ほんと。嫌になるわ。


「一応聞くけど、それ誰の真似?」

「ウォン君」

「死ぬほど似てないわね」


やっぱりウォンと仲良いのね。天才同士、分かり合える事があるのかしら。私にはわからない事だけれど。


「はじめまして、ドーナさん。僕はトゥーゼ、モナカの兄です」

「あ、はじめまして、トゥーゼさん。私はドーナ、相棒やってます。それでモナカ、私がいるから家に戻れないの?」


その聞き方は卑怯じゃない?


「そうは言ってないわ。けど、ドーナを一人にはできない」

「大丈夫っ、私が上目遣いで頼めば、仲間なんて百人はできるよ」


確かに、女に飢えてる冒険者は多い。ドーナは可愛いから、本当に百人ぐらいできそうだ。


「だから、モナカが選びたい方選びなよ。どっちを選んでも、私は応援する」

「ドーナ……」


私はーー……





「お父様、お母様。お話があります」


二人に集まって貰うのは簡単だ。もう既に家督はウォンに譲ってるようだし、二人して暇だもの。

けれど、何故かウォンとお兄様も一緒にいる。なんで? 二人は呼んでなくってよ。

それで、メイドに変装して聞き耳立ててるドーナ。貴方が一番お呼びじゃない。


「私はこの家に戻ります。戻らせてください」

「おお、いいぞ。なんならいい婚約者でも……」

「ダメです、貴方から出て行ったのでしょう」

「おい、母さん」


お父様のいう事はガン無視で、お母様はこちらを射抜く。


「私はお母様の理想の娘ではありませんでした。この家の理想の子供ではありませんでした。私なりに頑張ったつもりでしたが、それでもお父様のお眼鏡には叶わなかった。だから、ウォンを連れて来たのでしょう?」

「いや、それは違うぞ」

「いえ、分かってるので大丈夫です。お母様は本当に心の底から魔術だけが全てだとお考えですか?」

「何が言いたいの?」

「なら、ウォンを認められないのは何故ですか。魔術の才能はウォンがピカイチです。それでもお母様はウォンをお認めになってない」

「……」

「私は魔術だけが全てではないと思います。お兄様も私も、魔術に関してはこの家の中で役立たずかもしれないけど、他で役に立てる事があります。だからこの家に戻らせてください」

「……言いたい事はそれだけ?」


お母様の胸には響かない、か。

そりゃそうよね、今まで何十年も生きてきた考えを変えろなんて、無理な話よ。


「じゃあ、俺がねえさん娶っていい?」

「待ってなんでそうなるの??」


衝撃発言過ぎてねえさんついていけないわ。

そこ、ドーナは笑わない。

お兄様は苦笑いして、やっぱりかあ、みたいな顔してる。え、お兄様はこの意図を理解できるの?


「俺はこの家の戸籍は持ってないけど、今この家で一番偉い。家督を譲られたからね。じゃあ俺が決めた事なら文句ないでしょ? 俺がねえさんと結婚すれば、俺は正式にマジアの姓になって、ねえさんもこの家にいさせられる」

「ちょっと待て、お前、いつからそんな事を考えてたんだ?」


お父様がタンマをかける。

それ、私も気になってた。


「ずっとだよ。俺がこの屋敷に来てすぐぐらい」


お父様は頭を抱えている。

うん? 利害関係の一致とかではなく、ウォンは私のことが好きなの?


「私、あんたのこと嫌いよ??」

「知ってるよ。でも、それと同じぐらい愛着あるでしょ?」


なぜわかる。


「今すぐ好きになって貰わなくてもいいよ。気長に落とすから」


ウォンの中で私は落とされることが確定してるらしい。ふざけんな。


「ねえさんが義父とうさんと義母かあさんと話したいって言うから付き添ったけど、時間の無駄だったね。義母さんはどうせ俺の事もにいさんの事も、ねえさんさえも認めないんだろ?」

「……」

「義父さんは……あとで、ねえさんにきちんと気持ちを言葉にして伝えるべきだと思う」

「え、いや、しかしだな……」

「しかしもカカシもない。今でも遅過ぎるぐらいなんだから。大体、義父さんがきちんとしてれば、俺はねえさんに嫌われる事なかったかもしれないのに。にいさんにもちゃんと話せよ」


お兄様が驚いた顔して首を振る。


「え、僕? 何も話される事ないよ。彼に期待してないし」

「ほら見ろ、義父さんの行動の結果だからな」

「ぐぅ……っ、分かったよ」


ウォンとお父様の間では話の決着がついたらしいけど、私は全然ついていけない。





私はお父様から、なぜあの時ウォンを連れて来たのか聞いた。お兄様が言ってくれてた通り、私が頑張り過ぎてるのを心配して、少しでも負担が減ればと思ったらしい。じゃあそうやって言ってよ、私ものすごーく傷ついたんだから。


お兄様とお父様の話も聞かせてもらった(盗聴)。

お父様は魔術ができなくても他の才能を伸ばせばいいと思っていたらしい。あんまりお兄様と話さなかったのは、お兄様が手のかからない子だったからで、私が生まれてからは私の魔術の指導に熱を上げてたせいであまり構ってやれず、落ち着いて来たと思ったらお兄様の心の壁が高くて接し方がわからなかった、と。

お父様、不器用か。

魔術は繊細な物を使うのに。


お母様は相変わらずだけど、ウォンが挨拶したら少しだけ目線を合わせるようになった。大きな進歩だ。


そしてウォンだけど、私のどこを好きになったのかと問い詰めたら、気味悪がらずにしつこくはなしかけてくれたところ、らしい。

嫌がらせのつもりだったんだけどな。

本人的にはそうでもなかったらしい。寧ろ好感度アップに繋がった。逆効果か、くそ!


ドーナはなぜかこの家のメイドになった。私専属のね。なんでそうなった。

ドーナはお兄様とも楽しく会話していた。

「ゲーム」とか「にほん」とか「攻略者」みたいな言葉が出てたけど、私には理解できない話だった。まあ二人が楽しいならいいわ。お兄様がドーナの妄想に付き合ってあげてるのは意外だけど。意外な所を一つ知ることが出来たとでも思っておこう。

モナカ・マジア:主人公。努力の天才。高飛車で傲慢ちきだったが、それに見合うだけの努力を自負していた。本物の天才(ゲーム補正)に敗北を喫し、人生めちゃくちゃ。天才滅べ。ゲームの世界とか信じてない。兄は好きだが、義弟は嫌い(現在)。悪役令嬢程度のスペックしか無かったので、どれだけ努力しても伸び悩む事態になってしまった可哀想な人。普通の人だったら、ウォンと匹敵するぐらいには成長してた筈。

ウォン・ジャニオ:姉から嫌い宣言されたが、それでも好きなヤンデレ(ゲーム内)。ゲーム補正もあり、魔術師としては最高峰。ドーナより魔術の扱いが上手い。父の気持ちもなんとなく汲んでおり、兄姉の喧嘩の仲裁までこなした功労者。今後ヤンデレになるかどうかはモナカにかかっている。

トゥーゼ・マジア:モナカの兄。実は転生者。魔法が使える世界なのに自分に素質がないことを知り落胆、魔法が使える妹に嫉妬するが妹の可愛さに平伏した弱シスコン。正直前世の知識使えば経理の試験とか余裕っす、某有名大学出身だったんで。モナカが悪役令嬢にならなかった原因。わがまま娘だった妹を飴と鞭で躾けた。え、ここ乙女ゲームの世界なの? 普通に異世界転生したと思ってたわ。

ドーナ・ウェロイーナ:ある乙女ゲームのヒロイン。ひょんな事から転生したが、男にさして興味はない。私、二次元の男性にしか興味が湧かないの。ウォンにモナカを護るよう言い付けられて、冒険者になっても男を近寄らせなかった猛者。もしウォンが、モナカが嫌がるようなことしたら攫うぐらいの覚悟はしてた人。モナカに会った時からシナリオとかどうでもよくなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 努力より勝る天才ってずるいって思っちゃいますね笑 主人公に干渉しすぎてその世界にいたら結婚反対しちゃいそう
[一言] 面白かったです。 ただ周囲は主人公に甘え過ぎかと。優しい従姉妹もどこが優しいのかもわからないし。 そして弟。半分とはいえ血が繋がってるので結婚できないんじゃ。 近親婚ですよ。 ヒロインと兄が…
[良い点] とても面白かったです。 プライドの高い頑張る女の子は素敵です。 [気になる点] ウォン君はモナカの異母兄弟ですよね?好き嫌いは家族間の好き嫌いでわかるのですが、結婚する発言に対して誰も血が…
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