無名(モブ)の欠片~その時 あの人は〈番外〉~
拙作へお立ち寄りいただきまして、ありがとうございます(>_<)
誰得? な視点、第3弾です。……というか、1人として【欠片】の主要人物が出てきません( ̄ω ̄;)
〔???視点〕
根絶の執行者 と 狂気の堕天使。
俺がその名を聞いた時には、御大層な名前だと鼻で嗤ったもんだ。「そんな恐ろしげな存在が、こんな人の多い界隈をフラフラしているもんか」とも言ってやった。だが、様々な噂話を集めて 小銭を稼ぐそいつの話を聞いてみると、いよいよ笑えねえ奴等も居たもんだと背筋が冷えた。
「なんでもよ、そいつらは小綺麗な嬢ちゃんと坊っちゃんの姿で ウロついててな、ちっと悪いことを企む奴らにゃあ 生唾もんの獲物に見えるんだと。そんで、おいらが聞いた話じゃ 衆道の気がある奴が、人外みてえに綺麗な坊っちゃんに まんまと誘い出されて襲いかかったそうだ。……そしたらな、そいつは 片割れの紫髪の嬢ちゃんに おっそろしい呪いをかけられたらしい」
噂話にしちゃ ヤケに詳しい話に、俺も思わず固唾を飲んで先を促す。
「お、おう、その“おっそろしい呪い”っつうのは何なんだよ?」
俺が話へ食い付いた事に ニヤリと笑って、情報屋の小男は手を差し出す。先が気になってしかたねえ俺は、懐から銅貨を数枚乗せてやる。
「チッ、しけてんな」
「うるせえよ、さっさと先を教えろや」
俺の今夜の酒代に文句を垂れる情報屋をどやして先を促す。はやく喋りやがれ。
「まあまあ、落ち着け。その おっそろしい呪いっつうのはな、この世の終わりのような叫び声を上げて、あまりの苦しみに全身の毛が一瞬で抜け落ちちまうようなモノらしい。1本残らず根絶やしだったそうだ」
「な、なんつう おっかねえ呪いだよそれは……」
そんな呪い、聞いたことがねえ。身震いする俺に、情報屋は片手を上げて「まあ、落ち着けや」と続きを話す。
「こりゃあ、まだ序の口だ。そいつらのおっそろしいところはこれからだぜ。それでな、呪いをかけられた奴が逆上して、呪いの力以外は何もできない嬢ちゃんに手を上げたらしい」
「お、おう……」
髪を根絶やしにされて悔しい気持ちも分からなくもねえが、なかなかガッツのある奴じゃねえか。俺なら逃げるけどな。
「そしたらな……それまで大人しかった坊っちゃんが ぶち切れたんだ」
「は?」
ぽかん とした俺に、情報屋は少しばかり声をひそめて 何かに怯えるように囁く。
「片割れの坊っちゃんだよ。衆道の気のある奴に迫られても、嬢ちゃんに手を上げる直前に殴り倒されても大人しかったらしいんだがな、奴が嬢ちゃんに手を上げた途端……人が変わったみてえに魔法を使い始めてな、笑いながら 何年も修行した魔術師様みてえな魔法をワザと加減して、生かさず殺さずっつう感じに甚振り始めたんだと。そんで、命の危険を感じた奴が、嬢ちゃんに踏みつけられながらも命乞いをしたそうだ。騒ぎを聞いて駆け付けてきた治安維持の騎士様が現れた時にゃ むしろ “助かった”とほっとしたらしいぜ。ぞっとしねえ話だよな」
「ああ……とんでもねえ奴等だな」
ヤベエ。そんな奴等には 間違っても関わりたくねえ。冷や汗が止まらない俺の脳裏には、数日前に見た“2人の子供”が鮮明に浮かび上がっていた。
鈍臭そうな娘と、娘みてえな小僧。良いとこの子供等かと思って 娘を突飛ばして高そうな肩掛け鞄でも かっぱらってやろうと、唯一使える闇魔法で気配を誤魔化して忍び寄ったが……不意に振り向いた小僧の出来の良すぎる人形ような笑顔と得体の知れない眼を見て、慌てて方向転換した時の事だ。娘の髪は薄い紫色だった気がする。
「ま、お前さんみたいな小悪党なんざ 一捻りだろうから、せいぜい気をつけるこったな! まいどあり」
片手の銅貨をチャリチャリと玩んで、次の顧客を求めて酒場のテーブルを行き来する情報屋に目もくれず、俺はカラカラの喉へ 呑みかけだった辛いばかりの安酒を流し込んで店を出る。
とりあえず、今日は何もしないで寝床へ帰ろう。
~*~*~*~
「うっへっへ、奴さんの顔 見たかい旦那? 今にも死にそうな顔で慌てて出て行きやしたぜ」
「うむ。この調子で 悪事を働きそうな者共を恐がらせてやってくれ」
揉み手をせんばかりに謙る情報屋に、安物風だが 小綺麗な服を纏う強面の男が大銀貨を放る。それを器用に受け止めて、情報屋は掠れた口笛を吹いてニヤついた。
「こりゃあ、お大尽様だ。そんで、その子供2人は一体何もんなんですかい?」
「知らぬが身のためだぞ」
ギロリと睨まれて、首を竦める情報屋。おどけたように「へいへい、わかっておりますよ」と言いながら、立ち去る男に向かって 畏まり過ぎて逆にコミカルな礼をする。寸刻後に頭を上げた情報屋は、再び酒場のテーブルを移ろう。
「へいへい、半魔族の“化け物殿下”が丁度そのくらいのお年頃だなんて、庶民のおいらはこれっぽっちも知りませんとも。……お上に消されるなんて真っ平御免だね」
下卑た笑みを一瞬だけ引っ込めた小男の呟きは、場末の酒場に満ちる下品な喧騒に紛れ、誰にも届く事無く消えて行った。
ハイ。冒頭のアレな二つ名を書きたかっただけでしたm(_ _)m
一応、これからも2人でフラフラしそうなお子様たちを守るための いつの間にか流布していた噂を利用した騎士(?)の根回し という感じのテーマです。危険な橋渡りも越えて来た嗅覚の良い情報屋さんは、余計(危険)な情報には手を出しません。
[恐怖の設定]
《2人の子供》
小悪党の予想通りに“とんでもねえ”2人組である。お得意の闇魔法が、逆に魔素の気配に敏い堕天使に勘づかれる原因となった。万が一、かっぱらい……というか 突き飛ばして転ばせることに成功していたら、彼は堕天使によって地獄を見ることになると予想され、むしろ命拾いしたとも言える。




