魔王の力、勇者の力
『魔王…。侵蝕汚染体はとんでもなくヤバい存在だったけど、それよりも厄介な存在なの…?』
エフィの背に乗っているアンジュが問いかける。
見る、見られるなどの視覚経由で自身に掛かる強力な精神汚染。
また触れる、触れられるだけじゃなく近づく、近づかれるだけでも同様の効果をもらってしまう。
真面な攻撃手段は遠方からの強力な遠距離攻撃のみ。
それも自分へ掛かり続ける精神汚染が一定数溜まるまでに撃破しなければ自滅しかねない。
小型も大型も関係なく、全てが平等で同じような個体となるため、侵蝕汚染体へと変貌してしまった個体によってはとんでもなく厄介な存在となり、最悪の結果、全てを滅ぼす災厄になってしまう。
「私も疑問に思ってました…。魔王は教会からの教えぐらいしかで聞いたことなかったけど、今日侵蝕汚染体と戦ってみてすごく恐ろしかった…。だから魔王なんかよりも強いんじゃないのかなって…。」
『…侵蝕汚染体となった存在によっては違ってくるのかしらね…。でも、魔王には決して勝つことはないわ。』
「…そこまで魔王って強いんですか?」
急ぐ足を止めず、ユリアの言葉を受けて返事を返す。
『魔王として誕生したら、"魔神の加護"と呼ばれるスキルが付くの。』
『魔神の…』
「加護…ですか?」
初めて聞くスキルなのだろうか。
アンジュとユリアは2人で合わせて疑問を問いかける。
『魔神の加護…。自身へ干渉する状態異常を全て無効化。そしてありとあらゆる攻撃を大幅軽減…むしろ無効化といってもいいようなモノにまで抑えられてしまうの…。』
そのスキルの内容の異常さに、アンジュとユリアは理解するまで時間が多少かかってしまった。
自らが受けるありとあらゆるデバフを無効化し、さらにはこっちのダメージを無効化に近いレベルで軽減してしまう。
普通に聞けば、そんな相手にどうやって勝てばいいのか勝機が見出せない。
そのことに2人もすぐに気づいたようだ。
『そ、そんなの…どうやって勝てばいいのよ…!?』
『…そこで勇者の力が必要になってくるの。』
「勇者の、力…ですか?」
『そう。ユリアちゃん。貴女にも勇者となった時、天から"女神の加護"を授かったはずよ。』
そういうとユリアは自らの所持するスキルを確認し始め、言われたスキルを見つけた。
だが、その時に浮かべた表情は訝し気に首を少し捻っていた。
「あの…女神、じゃなくて、"大いなる神の加護"ならありましたけど…」
『…え?』
とエフィは走っていた足を止め、何かを考えているかのように眉を顰める。
『…その加護はどういったものなの?』
「えと…よく、わかんないんです…。ただ、"大いなる神の加護"ってだけで他には詳しいことは何も…。」
『前、勇者としての力が全然発揮できないって話してたよね?もしかしてそれが原因とか…?』
「どうなんだろ…。私にもよくわかんないです…。」
少し悩んだ後、またエフィは走り出した。
『違うとはいえ、同じ神としての加護…。ならその加護としての効果は魔王に対して同じはず…。』
「その加護って本来どういう力なんですか?」
『そうね…。あの御方は、"魔神の加護による影響を受けず、攻撃が出来るようになる"っておっしゃってたわね。』
『あの、御方…?それは一体…』
とエフィが言ったあの御方の正体を聞こうとアンジュが問いを掛けた所で、ふと外の様子が騒がしいことに気付く。
激しい爆発音、魔法を連発しているのか、大気の魔素が震えているのを感じる。
前を見ると後少しで目的の場所ってところまで来ていた。
『もうすぐ着くわ。いい?アンジュ、ユリアちゃん。絶対に私の背中から離れてはだめよ!』
そう警告し、崩れた城壁を一気に飛び越えると同時に、
エフィの周囲に白い霧のようなものが展開し始める。
それはどんどん広がっていき、あっという間に辺り一帯を覆うように展開した。
『エフィか!』
足元に広がる白い霧に気付いたアダントが咄嗟に魔王から距離を取る。
『あなた!大丈夫!?』
白い霧がアダントを優しく包み、追った傷に触れると緑色の光を微かに発光させながら癒していく。
『我は問題ない、が…』
「打つ手なし、打開策もなし。マジでクソだぜ、ったくよ…。」
とアダントの後に姿を現した白銀の騎士。
と、周囲を見渡してアルフの姿が確認できなかったのか、アンジュがアダントに問いかける。
『お父様!お兄様はどこにいるんですか? 私の回復魔法で治療を…』
『アンジュ…!?なぜおまえがここに…』
『アンジュだけじゃないわ。』
そういうとユリアもアンジュに続けて顔を出し、アダントに挨拶する。
「私も勇者として助けに来ました!」
『そうか、勇者か…!』
「なるほど、ちょっくら作戦会議が必要そうだな。ならこいつを頼む。俺は時間を稼いでくるからさっさと終わらせろよ?」
そういうと白銀の騎士は自らの影に手を突っ込み、ぐっだりとしているアルフを取り出してエフィに託すとそのまま魔王に向けて一気に駆け出していく。
注意をアダントたちに向けぬよう、降り注ぐ黒い弾の援護も状況を察知して、白銀の騎士の動きに合わせて砲撃を繰り出していた。
アンジュは急いで背中に乗せられたアルフに回復魔法をかけ、様子を確かめる。
色々と傷はあるが生きてはいるようでアンジュはほっとした。
が、未だ浮かない表情のユリアを見て、アダントは声を掛ける。
『…何かあったのか?』
「エフィさんに勇者について色々と教えてもらったんですけど、私の持ってる加護が聞いている加護と若干違ってて…それに私、未だに勇者としての力をうまく扱えてないんです…」
そこで道中で話したことをかいつまんで話し、状況を理解したアダントは少し考えるかのように呻った後、
『我々が仕えていた先代勇者様は、こう仰っていた…。』
―俺は、お前たちが好きだ。だから、お前たちの生きるこの世界を守る。そのためなら俺は、どんなに辛い戦いだろうが何だろうが戦い続けるよ。この身が果ててでも、絶対にあきらめない…!
『その力を振るう時、先代勇者様はいつも我々のために使ってくれた。我々を守るために…。だからユリアよ。勇者として、お主も今一度考え直してみるといい。何を思い、何のために戦うのか。どんな理由だっていい、些細なことだっていい。己が勇者として何のために立ち上がるのか…。』
「私が、戦う理由…。」
アダントに言われた言葉を受け、ユリアは静かに目を閉じた。
『先代勇者に仕えてたって…お母様もなの!?』
アダントとエフィが先代の勇者に仕えていた事実に吃驚したアンジュは好奇心を抑えきれなかったのか、エフィへと質問を問いかける。
『ふふ、そうよ?とはいっても私とあの大銀狼だけじゃなく、もっと大勢の仲間が先代勇者様に仕えていたわ。まあ…今となってはもう私たちしかいなくなったけどね。』
その時のエフィの表情がどこか寂しそうにしていたのをアンジュは感じ取った。
とそこへ白銀の騎士が吹き飛ばされる形でエフィの元へと飛んできた。
「作戦は終わったかよ?そろそろ厳しくなってきたぜ…」
『…そうだな。エフィはここに残れ。我とこの者らでなんとかして時間を稼ぐ。ユリア…、いや、今代の勇者よ。状況から見るにもう迷っている余裕はない。酷な話だが、今ここで勇者として力を振るえなければ我々は全滅だろう。今一度己に問いかけ、勇者としての使命を果たせ。』
「…。」
アダントの言葉に答えが出ず、だがしっかりと受け止め、頷く。
それを見てアダントと白銀の騎士は魔王の元へと攻撃を再開した。
(私の、果たすべき…勇者としての、使命…)
目を閉じ、これまでの自分を振り返るように何度も思い返す。
其のたびに、アダントに言われた言葉を当てはめ、何度も何度も思考を繰り返す。
その時、ふと懐かしい声が脳内に蘇る。
(…焦らなくていい、お前のペースで良いさ。まあ…無理しない程度にな。)
そっと目を開けると、そこにアンジュの回復を受けるアルフの横たわった姿が見える。
が、その時何故かアルフの横たわる姿が、自らの記憶の最期に映るとある人物と重なる。
なぜそんな風に見えたのか自分ですら理解はできていない。
でも未だに胸の奥に秘めてなお、湧いて出てくる罪悪感に似た思いと、慕う気持ち。
だが、意外と自分の中ではまるでゴチャゴチャだった歯車がハマったかのように感じる。
「アルフくん…。」
そう呟いて、アルフの頭を優しく撫でた。
~スキル説明~
≪魔神の加護≫ パッシブスキル
効果:魔王として完全体となった対象に強制的に付与される。
自身の能力を大幅に上昇させる。
自身に対してのありとあらゆる状態異常の効果を受けない。
自らのレベル以下の対象からの攻撃を無効化し、レベル以上の対象からの攻撃を90%カットする。
≪女神の加護≫ パッシブスキル
効果:魔王に対してのみ効果を発揮する。
魔神の加護によるダメージ軽減の効果を無視したダメージをあたえられるようになる。
また魔王から受けるダメージを50%カットし、魔王から受ける状態異常の効果を無効化する。




