魔王、その名は…
「かつて、魔王に匹敵すると言われる魔物の存在がいた。名を"崩壊竜"。要塞竜のとある特殊な条件を満たした場合にのみ進化することのできる特異個体だ。」
『崩壊、竜…?それに特殊な条件、だと…?』
「ああ。ま、特殊っつっても条件自体は簡単なもんだ。」
そこまで言って白銀の騎士の口調は軽いものではあったが、その紡いだ言葉はとても重いモノだった。
「要塞竜と一番深い絆を結んだ相手を、目の前で"殺す"ことだ。」
『……。』
『なんと…』
その言葉にアダントは怒りを露わにしたかのように震え、ヴァレルからの返答はなく、ただ何かを納得したかのような息遣いが聞こえる。
「要塞竜の時にあった堅牢な鎧となる鱗や甲殻、皮膚など自らの防御を全て捨て、憎悪に飲まれて破壊の限りを尽くす権化となる。」
『あの鬼の娘の攻撃で翼が落とせた理由はそのためか。』
「さあな。だが俺はそう思っている。」
そういって光剣を魔王の方へと向ける。
そこには両翼を落とされてもなおダメージを受けている様子がなく、むしろもっと悍ましい姿へと変貌していく魔王の存在があった。
「だが合点がいかないことが幾つかあるのも確かなんだよなあ…。魔王が崩壊竜になってから魔王となったか、それとも魔王になる前から崩壊竜だったのか…。」
『冒険者ギルドの方ではそういう特異個体に関する情報はなかった。』
『我の方でもそういった異変や動きは聞かなかったな…。』
1人と1体の返答を受け、首を軽く鳴らして光剣を軽く振り回して静かに構える。
「まあどうあれ、今はこの状況をどうするべきか。問題は、そこ…だっ!」
そういうと白銀の騎士は光剣を強く握りしめると、一気に魔王へと距離を縮めるように飛ぶ。
勢いに乗せ、軌跡をかきながら振りかざした光剣は魔王に届く前に弾かれ、白銀の騎士も大きく仰け反る。
「インパクト・ハイリング・レイ!」
そこに魔王の尾がうねりを上げて迫るが、その尾にアダントの攻撃と上方から黒い弾が降り注いで着弾して弾け、軌道が逸れたおかげで白銀の騎士に当たることはなかったが、その余波を浴びて後方へ大きく吹き飛ぶ。
吹き飛ばされながらも空中で咄嗟に体勢を整えて、地面へ激突することなく着地した。
「あやつめ…、魔王の加護を使ったな。徐々に魔王としての力を使い始めておる…!」
『不完全体からの完全体へと変貌し、魔王として力を行使できぬ状態の内になんとかしたかったが…』
「こりゃあマジでヤバいな…」
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崩壊した教会にて、怪我人たちを必死に治療にあたっていたアンジュたちの姿があった。
『…ふう。これで一通り終わったわ!』
と一息ついていると、遠くの方で何かがこちらに近づいてくる地響が感じられる。
教会の外へと出るとそこには目を回して動けなくなったアネラを咥えたエフィがいた。
『お母様!』
『アンジュ!この子を見てくれないかしら?』
「アネラちゃん…!?」
と教会の奥から魔動機兵の肩に乗ったチコルが姿を現す。
魔動機兵の差し出された手の上にアネラを横たわらせると、チコルが肩から降りて様子を確かめる。
『大丈夫。その子は力を出し切って気を失ってるだけよ。』
「…ですの。ほんと無理しちゃって…ありがとうですの。」
『お母様!お兄様が…』
とアンジュが必死そうに突然いなくなったアルフの事をエフィへと報告する。
慌てふためくアンジュを宥めるかのように頬をアンジュに触れさせ、
『大丈夫よ、あの子ならアダントが見守っているから…。それじゃあ私も戻るわね。あの大銀狼を助けないといけないから…』
その言葉を伝えた際のエフィの目はとても座っていた。
まるでこれから死地に向かう兵士のように。
それを感じ取れないほどアンジュは鈍感ではなかった。
『お母様…ならアタシも行きます…!』
『ダメよ。魔王が突然現れてとても危険なの。生きて戻れる保証はないわ。』
『なら猶更付いていきます…!お母様やお父様を、また、失いたくない…!』
「魔王、ですの?」
今、壁の向こうで起きている出来事をかいつまんで説明する。
侵蝕汚染体が無事討伐できたが、その直後に突然魔王がやってきたこと。
その際、魔王の攻撃を受けてアダントが怪我をおったこと。
そして、不完全体だった魔王が突如完全体へと変貌したこと。
それらの報告を受け、猶更アンジュはエフィへ懇願する気持ちが強くなっていた。
『アタシは回復が出来ます!お父様の怪我だって、アタシの魔法で…!』
『ダメよ!相手は魔王、いくら私たちでも貴方たちを守って戦えるほど余裕があると確証がない…!そんなところに可愛い娘を連れていけないわ!』
『アタシだって!そんな危ない所に行ったらお父様やお母様、お兄様まで死んでしまうことはわかります…!なら、アタシだって…!』
と話が並行している最中、話を聞きつけて教会の奥からユリアがその場に姿を現した。
「私を、連れて行ってください。」
その言葉はとても震えていた。
「私はこれでも勇者です。魔王を倒す使命を持ってます。今ここで私が逃げてしまえば、この町ももちろん…私の大事な友達だって失うことになります…。」
震える拳を握り、必死に言葉を紡いでいく。
「今、ここで勇者として、勇気を出さないなら…私はいつまでも逃げ続けると、思うんです…。もう、私は、逃げたくない…目の前で私の大事なモノが、失われるなら…私は、足掻きます…!ひ弱でも、軟弱でも、まして勇者としての力が未だにうまく扱えなくても…!私は、勇者だから…!!」
そう言い放ち、まっすぐエフィの目を見る。
エフィは少し困ったような、今にも泣きだしそうな嬉しい表情でアンジュたちを見渡すと、静かに頷く。
『…わかったわ。なら覚悟を決めなさい。』
「『…はい!』」
エフィはアンジュとユリアを優しく咥えると背に乗せる。
(ふたりとも、ごめんね…。)
そう心の中でアンジュとユリアに謝ると一気に駆け出していく。
未だ戦い続けているアダントたちの元へ。
エフィたちが去った後、チコルは教会の奥へと移動し、空いてるベッドにアネラを横たわらせると
「ヴァレルお兄様」
とヴァレルへと連絡を取る。
コンマ数秒の間も開くことなくすぐに返答が帰ってきた。
『チコルたん、どうしたんだい?』
その言葉はいつものように愛情がこもった口調ではあったが、どこか余裕が感じられない。
明らかに緊迫している様子だった。
「…ただ、声が聞きたかっただけですの。」
魔王という単語を聞いて、チコル自身もどこか不安を覚えてしまったのだろう。
その言葉を受けて、数秒ほど間が空いた後打撃音のような音が聞こえてきた。
「ヴァレルお兄様…!?」
『なあに、ただ可愛い妹を不安にさせてしまった情けない自分に活を入れてただけさ!』
また少し間を置いて、
『今、2人の元に行くね。それまで辛抱しててほしい。』
「…うん。待ってるですの…。」
気を失い、横たわっているアネラの手を強く握る。
侵蝕汚染体の襲撃とは比べ物にならないほどの魔王という存在によって湧き上がる不安と恐怖を抑えるために。
そしてエフィたちの向かった方へと顔を向ける。
「…お願いですの、勇者。どうか、魔王を…」
まるで祈るように、チコルは目を瞑った。
<崩壊竜の生態について>
・ランク:★★★★★★
生態:要塞竜と強く絆を結んだ存在が第三者によって自身の前で絶命した際に、相手への憎悪と自らの絶望に染まって進化した特異個体。
今まで自らを守っていた堅牢な甲殻や鱗、皮膚などが全て自らの暴走する魔力によって溶け、まるで黒いヴェールを被っているかのように激しく燃え始める。
剥き出した翼骨はまるで鎌の様に形が変わり、爪と角がより鋭利なモノへと変形している。
要塞竜の時とは打って変わり、目に映る全てを破壊し尽くす凶悪な性格へと変わり、自身の命が尽きえるその瞬間まで殺戮は止まらない。
黒いヴェールを被っているかのような風貌と携えた鎌のような両翼を携えたその見た目から、別名:"破壊をもたらす災厄"と恐怖している。
*今まで危険度に関しての標記をS,A,B,C,D,Eとしていましたが、黒星の数で分けることにしました。
黒星の数が多ければ多いほど危険度が高く、少なければ危険度が低いという感じです。
現在上限と定められている黒星は6つです。
またそれは冒険者ランクも同様で、黒ではなく、白星の数によって変わるようにします。
こちらの上限と定められている白星は同じく6つです。
これまでの話の方での調整と修正も入れていきますのでご了承ください。




