魔王戦開幕Ⅱ
夜。
先に動いたのは魔王であった。
その巨体に見合わぬ速さで、その個体としての大きさを生かした強烈な突進を繰り出してくる。
魔王が歩くたびに地響きが起き、大地が大きく割れていく。
白銀の騎士はアルフを抱きながら大きく後方へと飛び、アダントとエフィはそれぞれ左右へと展開していく。
正面切って待ち構えているのはアネラ。
「さあ、掛かってくると良いのですわ!」
全力でぶつかってくる要塞竜の突進を真っ向から受け止める体制に入るアネラ。
そして魔王の突進はアネラへと直撃した。
「ぐううううううううう!!!」
「ギャオオオオオオオオオオ!」
アネラは魔王の角に当たる部分を両手でがっしり掴みながら大きく後方へと押されていく。
踏ん張った足に更に力を籠め、力には力でその突進の勢いを止めようと押し返そうとする。
だが未だに魔王の突進は止まらない。が、その勢いは徐々にではあるが弱くなっていく。
突進の勢いが最初よりも弱くなり始めたことを感じながら、アネラは更に力を込めていく。
「鬼人の…怪力をぉ…舐めるんじゃないのですわあああああああああ!!!!」
アネラの額から突き出た一本の角が光り始め、その光は角から頭へ、頭から全身へと流れていく。
そして突進の勢いが一瞬ではあるが、完全に止まった。
それをアネラは待っていたかのように掴んでいた角を放し、右手に拳を作る。
全身を巡る光が右手の拳1点に集まり、
「とても良き力を見せてくれたお礼ですわ!食らいなさい…!! ≪ 剛 襲 破 砕 拳 ≫!!」
アネラが繰り出した拳は丁度魔王の額のど真ん中へと直撃し、強烈な衝撃波が生じた。
辺り一帯をなぎ倒さんとばかりの強風が吹き荒れ、衝突した魔力が一気に放出されていく。
その一撃は強烈だったようで、吹き飛びはしなかったものの数十メートルも後方へと大きく押し戻していく。
頭へと繰り出された衝撃を受け止めきれず、魔王の体が大きく仰け反るが後ろへ転倒することはなかった。
「まだまだいけるのですわ!」
後ろへ大きく押し返された魔王へ向けて機械槍を前に突き出し、構える。
遠くの方でジャーニーが魔法を詠唱していたようで、それが完成したのか描かれた魔法陣が光り輝く。
『咲き誇りなさい…!! 光り咲く焔の花!!!』
アネラの身体に燃え咲く一輪の花が咲き、そしてそれは巨大な焔となってアネラの体を燃やす。
その炎の中でアネラはニヤリと笑う。
そう、アネラはパッシブスキルの≪ 空 元 気 ≫を持っており、自らが負う状態異常を全て無効化し、それによって発生するダメージを自らの魔力へと変換する能力がある。
そしてジャーニーが放った創成魔法である≪光り咲く焔の花≫は、味方1人の全ての能力を何倍にも引き上げるが、その代償に付与された相手を焼き尽くす"大火傷"の状態異常を与える効果を持つ。
それによってアネラの能力は限界まで引き上げられ、大火傷の状態異常は≪ 空 元 気 ≫によって無効化。さらには大火傷によって発生するダメージを自らの魔力へと変換するといった荒業なのだ。
変換された魔力は機械槍へと流し込まれ、機械槍の隙間から変換された魔力が更なる炎となって推進力を生み出す。
まるでジェットエンジンのような推進力を得たアネラは覚悟を決めたかのように目線を魔王へ定めると、
「わたくしとわたくしの大事な大事な心友との絆で紡がれ、生み出した究極の一撃…!!」
そう呟き、地面を蹴った。
直後、アネラの姿は見えなくなり、その後に残された衝撃波が周囲の大地を抉りながら半壊していく。
「≪ 焔 魔 破 貫 槍 撃 ≫!!!」
放たれた一撃は正確に要塞竜を捉えるが、直前に両翼を展開し、その一撃を受け止めた。
だが…
「まだまだああああああああああああああああ!!!!!」
両翼へと直撃したその一撃は更にその力を増すかのように炎が激しく燃え上がる。
今度は逆に魔王が後ろへと押されていく。
「グオオオオオオオオオオオ!!!!!」
衝撃を受け止めきれず、防ぐ両翼に徐々に隙間が出来ていく。
その隙間を見逃さなかったアダントとエフィは、その隙間へと精確に
「「インパクト・ハイリング・レイ!!!」」
を放ち、隙間を大きく広げていく。
両翼で受け止めていたアネラの一撃は右翼だけで受け止めるような形に入り、そしてとうとう右翼に小さな歪みとも言える皹がはいった。
「はあああああああああああああああああああああああ!!!!」
更に一層激しく燃え上がり、その勢いは限界を超えんとするかのように無尽蔵に増していき、そしてとうとう右翼を完全に貫くと同時に強大な爆発が巻き起こった。
その瞬間、エフィは大爆発の中に飛び込むと同時にアネラを咥え、その場から離脱。
貫かれた右翼は本体から離れ、地面へと落とされた。
「ギャアアアアオオオオオオオオオオオ!!!」
右翼を落とされ、その痛みに体制を崩し、魔王は地響きを起こしながら転倒する。
何とか起き上がろうとするが、空より無数の黒い弾が降り注ぎ、転倒した魔王へと直撃すると次々に爆発していく。
「≪降り注ぐ太陽の花≫!!!」
『メテオ・ハウリング!!!』
それに合わせてアダント、そしてジャーニーの魔法の支援も入り、完全に身動きが出来ぬ状況が生まれた。
そのチャンスを白銀の騎士は見逃すはずもなく、
「今だ! ヨア!!」
「………!!!」
ヨアと呼ばれた白狼はその名に一瞬だけ反応しつつも、虚狼を呼び出し、その裂けた大きな空間の口を持って魔王を飲み込もうとする。
完全に魔王を飲み込んだと思ったそれは、またもや失敗に終わっていた。
左翼を犠牲にし、魔王本体は虚狼の噛み付きを回避していたのだ。
「…ココ、マデ…ダ…。」
そういうと白狼から赤い紋様は消え、銀狼へと戻るとそのままぐったりとなって動かなくなった。
「くそっ…! 今のは完璧に入っただろうが…結局、両翼を落としただけかよ…!」
『これだけやって3割ほどのダメージってところか。』
『両翼を捥ぎ、盾を剥いだところで、結局我らに決定打があると言われれば、ないと答えるしかない…』
『あなた! この子を急いで町に預けてくるわ! さすがにあの攻撃で全部出し切ったみたい。』
『わかった。安全な場所へ…!』
と後からエフィが合流するが、そのまますぐに町の方へと向かって走り去っていった。
「さて、ここからどうする? 盾はもうないが、こちらも矛を失った。防御に特化した要塞竜なら時間稼ぎぐらいは出来そうだが…」
『…いや、相手にはもともと盾なんて物はない。』
と急にまじめなトーンで話すヴァレル。
「は? 確かに盾の役割だった両翼を落としたじゃねえか。」
『我々は一つ勘違いをしていたかもしれない。』
『…勘違い? 一体どういうことだ?』
ヴァレルの口調はどこか焦りがあった。
『そもそも魔王化した要塞竜相手に、Bランクの冒険者であるアネラの一撃で一翼を落とすなんてこと、本来ならばありえない話だったんだ。』
「…それほどアイツは頑丈だってのか?」
『ああ…。魔王の瘴気によって自らの身体能力は何十倍にも無理やり引き上げられている。要塞竜の防御力は他の魔物たちと比べて群を抜いて非常に堅牢なものだ。そこに魔王の瘴気が加わり、その堅さはあの古龍の内の1頭である龍の両翼にも匹敵するほどだろう。そんな奴に一介の人間の手で魔王の右翼を落とすことなど…』
「…なのにあの鬼娘の一撃は右翼を貫いた、と。なるほどな…、虚狼の一撃は問答無用の防御無視による一撃必殺だから左翼を飲み込んだことは問題にはならないとして…」
『防御無視による一撃必殺…だと?』
とさらっと白銀の騎士が零した異質な言葉に、ヴァレルは反応せざるを得なかったが、それを無視して白銀の騎士は更に続けた。
「そういや昔、聞いたことあるな。要塞竜に関するもう一つのヤバい話をよ。」
そして白銀の騎士は語る。
要塞竜のもう一つの伝承を…。
今のところはなし。




