魔王戦開幕 *要塞竜に関しての修正
夜中
『一体…何が起きたのだ…』
「終わった、の…?」
突然目の前で起きた状況に置いてけぼりになりそうなアダントたちではあったが、
『…いや、まだだ。』
ヴァレルの思念通話によって強制的に我に返させられる。
『あれは我の息子、アルフだ!敵などでは断じて…』
『わかっている! そうではない、魔王はまだ生きている!』
『そんな…!? でも確かに何か得体の知れない何かに地面事…』
と、エフィが告げた途端に全身を襲う悪寒に身震いする。
先ほど魔王が呑み込まれた場所を見るが、確かにそこには何もない。
だがそのギリギリの範囲にあの小さな肉塊の影を見つけた。
寸での所で避けたのだろう。
それに真っ先に気付いたのか、また再度何もない空間に裂け目が生じるが、口が開く前に消滅し、逆に宙に浮いていたアルフの身体が落下した。
『アルフ!』
とアダントが急いでアルフを抱きとめに行こうとしたが、どうしても距離が間に合わない。
地面に激突することは避けられないと悟った時、白銀の騎士がどこからともなく現れて地面に落下する直前にアルフの体を抱きとめていた。
「おいおい、この体はてめーだけの体じゃねえんだよ。今の落下を防げなかったら確実に首から落ちて死んでたぞ…」
「………」
『アルフ!無事か! 白銀の騎士よ、感謝する!』
「おいおいまだまだ油断するな、親父さんよ。まだやっこさんは生きてるぜ?それに…」
そういって彼はとある方向を指さす。
アダントもそれに釣られてそちらの方を見ると、先ほどとは打って変わり、激しく脈を打ち鼓動する、まるで何かの心臓のような異質な物体がそこにあった。
『なっ…!?』
「…やっこさん、こんな土壇場で限界を突破しやがったぜ。」
それは始まった。
~~~~~~~~~~~~~
―シニタクナイ…
気が付けばいつも何かと争い、生を勝ち取ってきた。
周りには常に敵が居り、常に死と隣り合わせの世界で生き続けてきた。
でも、その生存競争の中で"ソレ"が常に思い続けてきたことはたった一つ。
―シニタクナイ…
ただその思いだけで、襲ってきた敵を殺し、その肉を喰らい、そして身を潜めてきた。
それでも見つかることは見つかり、瀕死になりながらも勝ち取り、生き長らえてきた。
だがある日、複数の人間の冒険者たちに見つかり、互いの生存を掛けた死闘を繰り広げた。
死闘の最中、深手を負い、逃げていった冒険者たちを見てこの死闘の勝者は自分だと気づいた。
ふと自分の足に力が入らないことに気付くと同時に、その場に転倒してしまった。
もう立つ力さえ残っていない。
自分の体を見返すと、所々に深い斬り傷や魔法による攻撃痕、打撲や鈍器で潰された膝や尻尾。
矢によって右目を射抜かれ、前足の片方も切り落とされていた。
その状態であっても生き残った。が、この状態だともう長くないと感じ始めた。
―シニタクナイ…
必死に身を隠そうともあてもなく、動かぬ足をなんとか動かしながら這いずってその場から逃げようとする。
川辺に移動し、流れ出る水を飲もうとするとふと何か不安のような負の感情が心の奥底から湧き上がっていることに気付いた。
それは自らに訪れる死神の囁きか。
だがそれは囁きではなく、死神自らがその場に現れた。
黒い霧…。いや、霧と呼ぶには表現が生ぬるい何か。真っ黒な瘴気が、そこにあった。
草木を腐敗し、大地を溶かし、霧の中で反発し合う力がバチバチと弾け、何かを追い求めることもせず、ただただそこに浮遊していた。
だが、今にも死に掛けた獲物を見つけた瘴気は一直線に獲物の元へと近寄ってきた。
―シニタクナイ…
その瘴気から必死に逃げようとするが、もはや動くことさえ敵わず。
瘴気は逃げることができない臆病者を、ゆっくりと覆い尽くした。
―シニタク…ナ…ィ………
そこで臆病者の意識は途切れた。
~~~~~~~~~~~~
その心臓を中心に、瘴気が周囲に溢れ出すと拡散せず、心臓の周りを漂い、ソレらは徐々に肉体を形どり始めていく。
骨、繊維、筋肉、皮膚、そして鱗、甲殻、爪、牙、角、目…。
徐々に肥大していくそれは、黒き竜として誕生した。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア…!!!」
黒き竜が発した咆哮が、竜を中心に大地を腐らせていく。
そして口から漏れ出る瘴気、翼のような器官は翼としての機能を失い、まるで巨大な盾のように硬質化している。
長い尾の先は丸く肥大化しており、所々から棘のようなものが生えている。
いわばモーニングスターのように地面を何度も叩き鳴らし、自らの意思を高ぶらせている。
『ぐっ…!この窮地で不完全体から完全体へとなっただと…!?』
「窮鼠猫を噛む…、だったか。追い込まれた獣ほど、恐ろしい存在はないって奴だな。しっかし…」
白銀の騎士は魔王を見る。
そして魔王も白銀の騎士を睨む。
2人の間に走る火花のような物。
「うーむ、魔王の素体元は要塞竜だな。元々ダメージを与えるにはキツイ魔王だってのに、防御特化の要塞竜たー…めんどうだ。」
「マオウ…コロス…グッ…」
「お、まだ意識はあるようだな。まあそれももう眠りに付く寸前だろうがよ。…なあ、てめえ。話の受け答えはできるんだろ? 単刀直入に聞く。虚狼は後何回出せる?」
「………1回ノミダ」
白銀の騎士には何かしら策があるのだろうか、白狼へ残りの攻撃回数を聞いていた。
白狼にも意思があったようで、白銀の騎士へ返答を返す。
『…白銀の騎士よ、この現状を打開する策があるのか?』
「しょーじきに言やあねえよ。あの虚狼であいつを虚無の空間へ放り込む。ただそれだけだ。だって魔王となった奴を倒すには勇者の力ってのが必要なんだろ? でもうちの勇者様はボロボロで叩ける状況じゃない。となりゃあ頑張るのは俺たちだけよ。それに、俺たちじゃああいつにまともなダメージはもう期待…というか無理と考えた方が良い。」
『ならば、あの空間ごと喰らう者の攻撃で、ということか。』
「どんな奴だろうと、虚無の空間へ呑み込まれた奴は無に還される。死ぬまで漂い、死んだ後も漂い、塵となっても漂う。そして己の魂さえもそこから出る事敵わず…。それが魔王であっても、だ。」
白銀の騎士は地面へと白狼を下ろし、寝かすとそのたてがみを撫でる。
「俺たちで動きを止める。全力で止める。何があろうと止める。お前の意識が消えぬうちにな。そしたら喰らえ、魔王を。」
「…イソゲ、モウ…我ノ精神ハ…持タヌ…」
「あー、ったく。あんな奴がいるんならうちの勇者様に攻撃を当てさせるんじゃなかったなあこりゃあ…。でも、結果論でしかねえ…。さあて、いくか。」
『うむ…。この身果てようと、魔王を止める!』
『アナタだけにはやらせないわ…!私もいくわよ…!』
魔王を前にアダント、エフィ、白銀の騎士、白狼等は心を一つにし、そして魔王との決戦が始まった。
「わたくしもいるのですわ!」
『アネラたんはダメだ。帰ってきなさい。』
「黙っててヴァレにぃ!」
『…シュン』
現在、要塞竜のイラストは描けていません。イラストは出来次第、載せます。
また要塞竜の呼び名"フォルトレスドラゴン"ではなく、"フォートレスドラゴン"へと改名しました。
<要塞竜の生態について> *捕捉を入れました 2021/09/16
・ランク:★★★★★☆
生態:全身が岩のような鎧状の甲殻に覆われたまさに名前の由来となる要塞のような竜。
普段は温厚で、竜という割には草食に分類される魔獣。
こちらから手を出したりしなければ基本的には危害は決して加えてこない温厚な性格。
また争い事もあまり好まず、そういった状況になれば逃げたり、相手が戦意を喪失するまでひたすら守りに徹する。
その温厚な性格のため、要塞竜は他の動物たちに好かれており、中にはその大きすぎる甲殻の一部に他の動物たちが巣を張ったりしている個体もいるという。
要塞竜もそれを良しとしており、動物たちは自らを守ってくれているお礼にその岩の体による重量のために自分では決して届かない木の上などにある果実などを持ってくるという。
そして何より、要塞竜の強さを発揮するのは何かを守るための戦いだということ。
動物や自分に親切にしてくれる人間に危険が及んだ際、その命を懸けて守り抜くという。
また名前に竜と関されているが、実際は蜥蜴に分類される種族である。
本来の蜥蜴に分類される種族としては、要塞竜という個体はあまりにも大きすぎるために蜥蜴ではなく竜と呼ばれるようになった。
とある国の物語には、要塞竜に関するおとぎ話がある。
あるところに、外に出たことのないお姫様がいました。
お姫様は常に窓の外を眺め、お城の外に広がる森を眺めていました。
そんなある日、いつものように森を眺めていると少し遠くの方で大きな音と一緒に異変が起きていることに気が付きました。
お姫様はその異変が気になり、皆には内緒でこっそりお城から抜け出してしまいました。
いつも見ていた森の中を進むことはお姫様にとって庭を歩くようなものでした。
ある程度森の奥まで進むと、そこには深く傷つき、今にも死にそうになっている瀕死の巨大な要塞竜が倒れていました。
初めてみる城の外での生き物に吃驚しましたが、苦しそうにしている要塞竜を見て、お姫様は助けようと治癒魔法を掛けました。
またお城の教育で学んだ薬学の知識を持って、森に生えている薬草などを調合し、それを傷に塗ったりして看病をしていました。
その日から毎日、傷ついた要塞竜を助けるためにお城を抜け出し、治癒魔法と薬を調合して面倒を見ていました。
時にはお城の食糧庫にあった美味しい果実と珍しい野菜を持って。
気が付けば、お姫様と要塞竜には深い絆で結ばれ、大切なお友達になっていたのです。
お姫様にとってそれはとても嬉しくて嬉しくて、傷がだいぶ治ってきても通う足を止めず、森の中で毎日のように遊びました。
そんな日が続いたある日、隣国の兵士たちがお姫様のいるお城へと攻め込んできたのです。
お城の兵士たちは頑張って戦いましたが数で負けているため、お姫様は追い詰められてしまいます。
後少しで兵士に殺されそうになったその時、森の奥から傷ついた要塞竜が現れ、お姫様を助け出したのです。
自分の背の中へお姫様を隠し、要塞竜はたった1頭で攻め込んできた数万もの数の隣国の兵士の軍と戦いました。
どれぐらい続いたのかわかりません。
気が付けば辺りは静かになっており、要塞竜も動きが止まっていました。
戦いは終わったのだとわかりました。
お姫様は、自らを守ってくれた要塞竜に感謝しようとしましたが、要塞竜はすでに死んでしまっていたのです。
その身をもって、その命を持ってお姫様を守り抜いたのです。
お姫様は何日も泣きました。何日も、何日も。
それから時が流れ、お姫様は女王様になり、要塞竜は自らの国のシンボルに描かれるようになり、守護竜として称えられるようになりました。
女王様は今でもなお、要塞竜と初めて出会った場所に建てられた小さなお墓に毎日通い続けているそうです。
あの日の思い出を思い馳せながら、ずっと、ずっと…




