異変Ⅲ
星空が広がっています。
「ナ、ニ…ドウイウ、コトダ…?! カラダガ…ウゴカヌ…」
あんな威圧的で絶望オーラだらだらと垂れ流しながら、まさに強敵感を演出しておいての第一歩目から転倒をかますというこのバラエティー番組のような展開。
一番今の状況に動揺していたのが他でもない白狼自身だった。
今その身体に置かれている状況を一切把握できていない様子、自身が負っているダメージの深さに驚いていた。
その状況を見逃さず、反撃に転じた者が2名。
どこからか複数の爆発音が聞こえたと思ったら、高速で白狼に向けられて飛んでくる黒い塊。
未だ起き上がれずにいた白狼に直撃する弾道ではあったが、当たる直前に開かれた虚狼の口が、全ての黒い塊を飲み込むと口を閉じ、そのまま消滅する。
続いてマーヴェリックが背後に数十本もの光剣を生成し、宙へ漂わせると一直線に白狼目がけて射出した。
だがそれも先ほどと同様に虚狼の口が白狼の前へと開かれ、全てを飲み込むと口を閉じて消滅していく。
残された口は後一つ。
瞬時に状況を悟ったチコルが懐から小型の魔導銃を取り出し、一発の弾丸を装填するとアルフ目がけて発射する。
銃口から放たれた1発の弾丸は空中で炸裂し、無数に枝分かれした炎の弾となってアルフへと襲い掛かる。
だがそれら全ても虚狼の口に飲み込まれ、口を閉じて消えていった。
「今だ!勇者の嬢ちゃん! アイツ目掛けてなんでもいい!てめえの魔法をぶっ放せ!」
「え、で‥でも…!!」
「じゃなきゃあいつを救えねえぞ!!」
マーヴェリックのその言葉に意を決し、震える手の先を白狼へと定め、ユリアは今自分が使える中で唯一真面に扱える初期の火属性魔法である炎弾を打ち出す。
複数の炎弾が白狼へと小規模の爆発を起こしながら次々に着弾していく。
立ち上がる煙、白狼の姿は煙の中へと消えていく。
煙が晴れ、視界が通るころには白狼の姿はどこにもなかった。
「アルフくん…!」
「大丈夫だ、アイツは勇者の魔法を受け、奴の人格を構成する魔力回路が形成できなくなったはずだ。すぐにアイツはスリープモードになるだろうよ。」
「す、すりーぷ‥もーど…?」
「ま、なんとかなったってこどだ。だがアイツ、どこに消えやがった…」
『まずは怪我人たちを再度治癒するわ。お兄様の事も気になるけど、きっとお兄様の事だから大丈夫なはずよ…。今は目の前のことに集中しなきゃ…!』
アンジュの意志を受け、ユリアとチコルも散らかった周辺の片付けに入り、チコルは少しばかり回復した魔力を持って魔動機兵を4体ほど生成し、2体をこの地域周辺の警備に当て、残りの2体を教会内部でのがれき撤去などの力仕事に割り当てる。
ジュレアナは再度負ってしまった怪我をアンジュの治癒魔法で治療されながら、ふとマーヴェリックがこの場にいないことに気が付く。
「そういえばマーヴェリックは…」
「マーくん? あれ、さっきまでここに…」
~~~~~~~~~~
『あなた!!』
エフィを庇って目の前で、禍々しい魔力の波動に飲まれてしまったアダント。
禍々しい魔力の波動は消滅し、その場に倒れているアダントだけが残る。
急いでアダントの元へ駆け寄り、怪我の具合を確かめようとすると再度森の奥から先ほどの禍々しい魔力の波動を感知し、強い怒りの感情をあらわにする。
「白い霧の禁域」
どこからかエフィの周辺に白い霧が立ちこみ始め、その濃度が徐々に濃くなっていく。
森の奥から発射された禍魔力の波動がエフィの元へと届いた頃には真っ白に染まった霧の立ち込める空間が完成されており、霧の中へと吸い込まれるように波動は消え、そのまま何もなかったかのように消滅する。
その霧は徐々に範囲を広げ、森の奥まで広がっていった。
森の奥に居た"ソイツ"は、自分の足元にまで立ち込めてきた白い霧を嫌うように後退りし始める。
が、気が付けば目の前にエフィが姿を現し、
『喰らいなさい…!』
「ブラスト・ハウリング!!!」
ゼロ距離からのブラスト・ハウリングを受け、体中が原型を留められないほどまでに肉の塊へと変形しながら空高く吹き飛ばされる。
そのタイミングを見計らったかのように、その肉塊目掛けて何十発もの黒い塊がディバイスの町方面から高速で飛んでくると、次々と肉塊へ着弾していく。
空中で次々と大爆発を起こしながらも、絶え間なく黒い塊が撃ち込まれ続ける。
その攻撃に合わせてエフィはメテオ・ハウリングを放ち、アネラも自らの機械槍を展開し、業火炎砲を放つ。
地上へと落下することを許されず、ひたすら高度で3方向からの攻撃を受け続け、そしてとうとう小さな塊へと変わったソレは先ほどまで巨骨猿たちと戦った草原へと落ちた。
「はあ…はあ…、あれは一体…未だにあれを見てから手の震えが止まらないのですわ…」
『無事か?アネラたん。』
「あ、ヴァレにぃ! わたくしは大丈夫ですわ。でもアダントさんが攻撃を受けて重傷ですわ…」
『ああ、お前の目を通して状況は把握している。だが油断するな、あれは恐らく"魔王"と呼ばれてるヤツだ。』
「ま、魔王…ですわ!?」
『ええ、油断してはいけません。あれほどの攻撃を受けても未だに"魔王"は生きています。勇者の攻撃でなければダメージは真面に通らず、倒すことさえできません。でもなぜここに…。未だ繭での睡眠状態下であるはずなのですが…』
ヴァレルの思念通話はエフィたちにも聞こえるように話していたのか、会話の内容に捕捉を入れるようにエフィも入ってきた。
すぐ傍には先ほどまであの禍々しい魔力の波動を受けて瀕死状態だったはずのアダントが座っている。
「あ、アダントさん!もう大丈夫なのですわ?」
『見た目ほど傷は深くない…。それに、不完全体であるが故に、あの攻撃に魔王の瘴気が入り混じっていなかったことが幸いし、ただの火炎砲のような攻撃で命拾いをした…。。』
エフィが心配そうに傷ついたアダントの傷を優しく舐める。
アダントは安堵し、小さくなっても未だに蠢く醜い塊を横目で見る。
『不完全体ならば、今の"魔王"を勇者で倒すと、体の内に溜められた魔王の瘴気が一気に拡散してしまうな…。瘴気が拡散しないよう、何とか無力化してはいるようだが…』
「睡眠状態下なのに、目を覚まして不完全体ならばもう一度眠らせる事って出来ないのですわ?」
『…不可能だな。一度目覚めてしまえばそこで魔王への進化は中断され、不完全体としてこの世に誕生することになる。つまり…』
「つ、つまり…いっちばん最悪のパターンなのですわぁ…!!」
魔王が繭を作り、眠りに付くのは自らが浴びた魔王の瘴気に順応する身体作りのため。
順応できない身体のまま、眠りから目を覚ましてしまうと、不完全体となる。
不完全体として全身を血液の様に駆け巡る瘴気は一たび勇者によって致死量のダメージを受けるとまるで爆弾の様に破裂し、内に溜めた瘴気を拡散してしまう。
勇者ではない者らからの攻撃は基本的に本来の1割にも満たないごくわずかなダメージ量しか受け付けず、またその攻撃によって瘴気を拡散するほどのダメージを負う事は決してない。
だが、自らの魔王の瘴気に順応していない身体であるがため、全身を駆け巡る瘴気で自らの身体が徐々に腐敗し、最終的には溶けてしまう。
そうなると内側に溜め込まれた瘴気は腐敗で溶けた部位から拡散してしまう。
そのため、ヴァレルとエフィは部分的に腐敗が進み、今すぐにでも溶けだしてしまう場所を集中して攻撃を与え、肉塊の内側へと小さく押し込むようにしていた。
アネラは意図せずではあったが、肉塊の内側へと押し込んだ部分を業火炎砲によって焼いて固定化させていた。
だがいつ自らの瘴気で体が腐敗し、溶け、そこから瘴気が拡散するか。
それも時間の問題であった。
つまり…
『今の現状、詰んでいる。どうあがいてもこの町はあの瘴気で滅ぶことは避けられない…。』
アダントのその言葉は仮説やあてずっぽうなものではない。
確定された予言であり、この町の未来である。
『とりあえずアネラたんは急いで私の元に戻りなさい。間に合うかどうかはわからないが、町の市民たちの避難誘導を行い、できるだけ町から離れねば…』
「んむー…わかったのですわ、ヴァレにぃ…。」
『我も息子を見つけ、この森全域に緊急避難を掛けて…』
『…あなた。あれ…』
『ん?』
エフィの様子がおかしい。
彼女の目線の先を、アダントも負ってみると、そこには一匹の白狼が宙に浮いていた。
全身に赤い紋様が入った、見覚えのあるその姿にアダントはすぐそれがアルフであると気づく。
エフィも気づいた様子ではあったが、目の前に居る"アレ"は本当にアルフなのか疑問を持つほど異質な存在に感じ取られた。
あの白狼の目線の先には先ほど、小さい肉塊へと変えた不完全体の魔王があった。
『…あれは、なんだ?』
突如として、白狼の目前の空間が歪に裂け、まるで生き物の口のような巨大な何かが姿を現し、
「…クラエ、ホロゥル…。スベテヲ、ノミコメ…」
白狼の口から、生物とは思えないほどの歪な声が聞こえ、それに応えるようにその巨大な口は魔王の肉塊を地面ごと喰らうように口を閉じるとそのまま消滅していった。
後に残されたのは、大きくえぐり取られた地面だけであった。
エフィが使ったスキル≪白い霧の禁域≫に関する詳細
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≪白い霧の禁域≫ アクティブスキル
自身を中心に白霧を広範囲に展開する。
その白霧の中にいる間、外部からの攻撃は全て無効化される。
また広範囲に広がった白霧の届く場所であれば、どこにでも瞬間移動が可能になる。
白霧の内に使用者の仲間が入った場合、自然治癒効果と状態異常無効化のバフを付与し、
使用者への敵意を持つ者が入った場合、猛毒と疫病、暗黒のデバフを付与する。
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