異変Ⅱ
ランタンの光が辺りを照らすそんな暗い感じ。
教会内はランタンと蝋燭、光魔法で照らされており多少明るいです。
「アルフ、くん…?」
「………。」
『お兄様…? 一体どうしちゃったのよ…!』
ユリアとアンジュが問いかけても、アルフ?からの反応がない。
「何をボーっとしているんですの…! 早くそこから離れるんですの!」
チコルの叫び声に我に返り、咄嗟に気絶して倒れているジュレアナを無理やり引っ張った直後、先ほどまでいた場所が大きく、まるで何かにかじられたかのような抉れた空間がそこに出来る。
そして一瞬の間を置いた後、抉れた場所へ吸い込まれるように大気中の空気が一気に吸い寄せられていく。
強い吸い込みに、ベッドや家具までもが引き寄せられそうになり、幾人かがベッドから落とされて引き摺られそうになるが、アンジュが張った障壁で難を逃れることができた。
「ぐっ…」
「あ、ジュレアナさん…! 大丈夫ですか!」
「一体何が起きている…確かに私は防御魔法を張ったはずだ…」
「わかりません…。何の攻撃を受けたのかさえわかってなくて…とりあえず後ろへ避難…」
とふと前を向いた時、目の前には真っ暗な虚無の空間が広がっていた。
それはジュレアナも同様に"ソレ"が見えているようだ。
その空間はどんどん大きくなっていく…。
が、ここで
『2人とも! そこから逃げて!!』
アンジュの叫びにジュレアナは我に返り、ユリアを後方へと突き飛ばす。
咄嗟に勇者であるユリアだけでも逃がそうという気持ちだったのだろう。
その空間はもうすぐそこまでジュレアナの元に近づいて来ていた。
「すまない…後を、頼む…」
死を覚悟し、自分の死後に残された皆を守ってほしいと懇願するが、
「なーに悲劇のヒロインぶってんだよ、馬鹿め。」
どこからか聞こえてきた低い男の声。
その直後にジュレアナの前に広がる真っ黒な空間へ光る剣が吸い込まれ、その空間は閉じた。
まるで大きな獣の口のように、キザギザの牙と思わしき境界線がぴったりと閉じてそのまま消滅する。
「無事か、女騎士さんよぉ?」
ふと顔を見上げると、白銀の鎧を身に纏う神々しい騎士が手を差し伸べて立っていた。
「え?あ、ああ…ありがとう…」
「ったく、前に戦った時のあの威勢はどこいったんだよ。あん時の方がまだかっこよかったのによお?」
「へ?いや、私は貴方様とは今が初対面のはず…」
「あ? 俺を忘れたってのかよ? ったく、仕方ねえなあ」
と兜を脱ぐとそこには真っ白な色の呪淵体・獣の頭がそこにあった。
それを見て、ジュレアナは口をパクパクさせたまま微動だにしなくなった。
「あの時に戦った白い呪淵体・獣だよ。ちなみにあの時は変化の魔法で白い呪淵体・獣に化けてたからよ。あれが俺の本体じゃねえから勘違いすんな。」
そう言いながら兜をかぶり直し、右手に光を集めて剣を形どる。
「確かマーヴェリックと言っていたか。ったく、心臓に悪いぞ…」
「気軽にマーくんとでも呼んでくれ、イヒヒヒヒ。っとと!」
と言いながら、ジュレアナを自分の近くまで手繰り寄せると同時にまたそこの空間が齧られたかのように抉れ、小規模のブラックホールのような吸い込みが発生する。
「ジュレアナさん! マーくん!」
『マーくん! 助けに来てくれたの!?』
「よお、勇者ちゃんと天使ちゃん。元気だったか?」
ナチュラルにマーヴェリックの事をマーくん呼びするユリアとアンジュに訝し気な表情を浮かべつつ、2人への返答を返しつつ強引に引っ張られながら何かの攻撃から守ってくれるマーヴェリックのその回避能力の高さには驚かずにはいられなかった。
彼には一体何が見えているのだろう。
私には何も見えない。何の攻撃なのか、一体何から攻撃を受けているのか、気配も殺気も何も感じられない。
にも拘わらず、マーヴェリックはそれが見えているかのように攻撃を難なくかわしている。
それどころか、見えない私を引っ張りながら完璧に回避しているのだ。
「見えねえのも無理はねえよ。これは常人の奴らにはほとんど見えねえ。かなりの実力を持った奴でもあいつらが見える奴なんざ、1割にも満たねえだろうよ。」
心を読まれたかのように、マーヴェリックはジュレアナにそう告げる。
「奴らは虚狼と呼ばれる魔獣。空間そのものが奴らだ。口を開きゃ、中に広がるのは何もない虚無の空間。食われたら最後、無に還される。死なんて生ぬるいもんじゃねえ、何もない真っ暗な空間を永遠と漂い続けることになる。」
「虚狼…」
「本来ならこんなところにいちゃいけない奴なんだが…、そうか…。なるほどな、アルフの体が奴らが出現するための媒体になってんのか。」
ジュレアナを抱き寄せつつ、虚狼の攻撃を躱しながらそう説明する。
虚狼との距離を取り、攻撃範囲外へと退避するとジュレアナをアンジュたちへと任せる。
「どうするの…?」
「さあて、どうするかな~…。今の俺様じゃああいつらには正直に言って勝ち目はないんだわ。」
『それじゃあどうしようもないじゃない…!』
救援としてやってきたのは良いものの、分が悪すぎる相手にマーヴェリック自身焦りさえも感じていた。
「私が生きてきた中で、虚狼なんて呼ばれてる魔獣は聞いたことも見たこともない…。マーヴェリック、君は一体どこで奴らの情報を知ったのだ…?」
「んー…、別に答えてやってもいいが多分理解はできねえだろうよ。それに世の中、知らない方が幸せっていうこともある。ま、あんなやつもいたんだな~って気持ちでいてくれよ」
「そんなんで納得できるか…!」
と声を荒げたジュレアナに対して、いつものような余裕のある歪な笑い声で返すマーヴェリック。
だが正直、奴らへの勝ち目はないに等しい。
「はあー…、めんどくせえ。非常にめんどくせえ。さっさと起きろよタコ。いつまで寝てるんだよくそがよお!」
「………ス。」
「…あ?」
「コロ、ス…ニンゲンモ…カミモ…ソシテ、マオウモ…アルジヲ、ウラギッタ…ヤツラ…スベテ…コロス…ミナゴロシダ…」
「どういうこと…」
『お兄様…!?』
完全に敵意がむき出しになったアルフ?。
誰が見ても、目の前に居る銀狼はアルフではないと感じるほど違和感があった。
そしてアルフ?の発した言葉にマーヴェリックは何かしら確信を得たのか、深くため息を付いた後腕を組む。
「やっぱりそうか。アルフの体はやっぱりただの入れ物じゃねえってことか。」
「…どういうこと?入れ物って…アルフくんは銀狼じゃないの?」
「それは…とと、話してる余裕はねえ! 来るぞてめえら、やっこさん本気になりやがった!」
アルフ?の方を見ると、先ほどまで何もなかったその身体にまるで紋様のように赤く光がなぞり始め、体中を装飾するかのように見た目が変化していく。
先ほどまで見えなかった虚狼の口が3つ、アルフの背後に現れたのをその場にいる誰もがはっきりとその目に確認した。
全身くまなく赤い紋様の刺青が入り、そこには銀狼とは程遠い見た目の白狼がそこにいた。
とめどなく溢れ出てくる殺気と力のオーラにあてられ、怪我人たちは次々と失神していく。
何とか正気を保っているユリアたちも足にうまく力が入らず、その場に座り込んでしまう。
「…来るぞ!」
マーヴェリックの一声に合わせ、アルフ?は左前脚を一歩前へと踏み出す。
少し動いただけで、その溢れ出る絶望のオーラに一体どんな攻撃が繰り出されるのか、固唾を飲んで構えていると、
―コテンっ
とそのまま前へとアルフ?は転倒してしまった。




