異変
陽がほぼ沈み、月が静かに辺りを照らすころ
何もない真っ暗な空間の中をアルフは丸くなりながら漂っている。
自分が眠っていることには気づいていたが、起き方がわからずにいた。
だからここはいつも見ているような夢の空間だと、しばらくすれば自然と起きるだろうと。
でも今回ばかりはいつまで経っても目が覚める様子はない。
気が付けば体は硬直化し、動くことさえできなくなっていた。
時間の概念さえも忘れてしまったのではないかと思うほど、ひたすら漂う。
コツン…
何かにぶつかった。
それと同時に体の硬直化は解け、丸まった体をゆっくりと伸ばし、何もない空間へと足を下ろす。
自分が当たったのは何かしらの民家のようなただの家。
記憶にはない家の前に自分は立っている。
玄関の扉が開き、まるで中へと誘っているように生暖かい風がアルフに吹き抜ける。
中へと入っていく。どこからか子供のような啜り泣く声が聞こえてくる。
その声に釣られるように、奥へ、奥へ。
リビングの間に入ったのだろうか。近くには椅子やテーブル、日常用品等が置いてある。
電子機器のようなものは一切ないから見ると、中世のような室内を思い浮かべる。
そしてリビングの奥に子供が1人、壁の方を向いて丸く座っていた。
子供に近づくと、泣き声の他に別の声が聞こえてくるのに気づいた。
"お前のせいだ…" "てめえが殺した…" "あんたのせいで…" "きみがやった…"
そのどれもがその子供に向けての責任を押し付けるような声だった。
それでもアルフはその子供に近づいてく。
「…なぜ、泣いているんだ?」
アルフはその子供に声をかける。
だがその子からの返答はない。無視をしているわけでもなさそうだ。
「…聞こえていないのか?」
反応はない。
ピクリとも動かない。
ただ泣いている。すすり泣いている。
何が悲しくて、何が辛くて泣いているのかわからない。
「…何か悲しいのか?…それとも辛いのか?」
未だに子供からの反応はない。
腰を下ろし、その場に座る。
「…泣かないで。君は僕たちが守るから。」
ふと口から出た言葉。
意図して出したつもりはなかった。
だがその瞬間、
" お 前 が 全 て を 殺 し た ! ! "
後ろから聞こえるどす黒い感情がこもった何重にも声が重なったかのような違和感のある声。
ふと後ろを向くとそこに居たのは無数の黒い人の形をしたモヤたち。
こちらの方へと少しずつ迫ってきてる。
何故かはわからないが、子供を守るために白い子狼は立ち上がり、威嚇する。
ふと気が付けば白い子狼の右には小さな竜が、左には白い子鯨が子供を守ろうと威嚇していた。
子供は啜り泣くのをやめ、3匹の心優しい友達の後ろ姿を見ていた。
3匹の心優しい友達は勇敢にも黒いモヤたちに飛び掛かる。
だが数が多く、逆に飲み込まれそうになっていた。
3匹の心優しい友達の、そんな苦しそうな姿を見たくない。
「だめだよ…、そっちに行かないで…」
その言葉は胸に痛みとなって強く刺さる。
でもこんな痛みぐらいへっちゃらだよ、君たちが感じる痛みに比べたらなんともないよ。
「行かないで…、いかないで…、イカナイデ………」
後ろから必死に悲願する悲しい鳴き声が聞こえてくる。
僕が我慢すれば、皆が幸せになる。みんなを守れる。誰も傷つくこともなくなる。だから…
バ イ バ イ
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『…そろそろ我らも町へと入ろう。オードンと話をせねば。』
『そうですね。それじゃあ行きますよ、人の娘さん。』
「ハイ…」
アダントとエフィはゆっくりと立ち上がり、アネラを咥えて背中に乗せるとそのまま町へと歩き出す。
だがそれと同時にアダントの方に慌ただしい様子で思念通話を掛けてくるものがいた。
『失礼します、アダント様。緊急事態です。』
『その様子は只事ではなさそうだが、何があった?』
声の主はアドゥレラ。アダントに厚い忠義を示す蟲の魔族。
冷静沈着な彼の慌てっぷりな様子がより緊急性を増していた。
『はい、封印の間に張られていた魔王の繭が破れており、中にいたであろう魔王が消えました。』
『なんだと!?繭を張ってから孵化するまではかなり先のはずだ! 完成体になるまで早すぎる…!』
『いえ、完成体となって孵化したわけではなさそうなのです。』
『…どういうことだ?』
『わかりません…。繭の中で、瘴気に耐えうる変化を遂げてる最中に突然の孵化ともあって、出ていったであろう出口に続くように溶け落ちたであろう体の部位が幾つかありました。』
完全体になる前に孵化したため、自らの体の内に溜め込む瘴気に順応できておらず、自らの瘴気に体が腐敗してしまい体の部位が腐り、溶け落ちていったとのことらしい。
完全にイレギュラーな状況のため、どう対応すればいいかアダントに判断を仰ごうと連絡をしてきたらしい。
『…向かった先はわかるか?』
『奴が通った後は魔王の瘴気で腐敗し、黒く溶けているので大体の道筋から予想すると…、今まさしくアダント様たちが向かわれたディバイスの町です!』
その直後、突然ガラリと変わった空気に、アダントは胸騒ぎを感じ取る。
ふと森の奥から何か、肌をピリピリ刺す様なものが高速で接近していることに気付いた。
そしてその狙いは丁度町に向かおうとしていたエフィとアネラがその射線上に居ることにいち早く気づき、
『エフィー!!』
アダントは全力でエフィとアネラに体当たりを繰り出して吹き飛ばした。
突然突き飛ばされたエフィは訳が分からず、空中で受け身を取ってアネラを落とさずに着地する。
次に見えた光景は、黒い光線のような禍々しい何かに飲まれたアダントの姿だった。
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「これで終わりかな。」
額を伝う汗を腕で拭いながら、一息つく。
頭が弾けた闇ギルド員たちの死体を外に運び出し、再度教会内に戻る。
教会内も生き残った怪我人たちの治癒を施す修道女たちとアンジュたちの姿があった。
あんなことがありながらも懸命に頑張る姿を見て、もう一仕事頑張ろうと気持ちを強く高めた。
ふとアルフの方を見た時、気が付けばアルフはその場に立ち上がっている。
「え、アルフくん? ダメだよ、まだ寝てなきゃ!」
『え?お兄様?』
「…いや、様子がおかしいんですの!行ってはダメですの!!」
とみんなの警告が耳に入るが何のことかとアルフの元へと駆け寄ろうとしたとき、何かに服を掴まれてそのまま後ろの方へと突き飛ばされる。
服を引っ張ったのはジュレアナですぐさま防御魔法を張り、魔動機兵が身を挺してユリアを守ろうと前に出た。
「…へっ?」
その瞬間、魔動機兵の上半身部分が一瞬にして消し飛び、ジュレアナの張った防御魔法が喰い破られて血を吹き出しながら吹き飛ぶジュレアナの姿がユリアの目に映った。
特になし。




