一難去ってまた一難
陽が沈み始めて夜が出始めた頃。
突然入ってきた黒いローブの男たちは、動けないでいた修道女たちを次々と捕まえては人質にしていく。
また怪我で動けない兵士や魔術士たちを次々と小さなナイフで刺し殺していく。
「やめろ! この者たちは命を懸けてこの町を守った英雄たちなんだぞ!」
「さあねえ、俺の知ったこっちゃねえよ。動けないふりで俺たちを油断させてるだけかもしんねえしな。数的有利をてめえらに取らせるわけにゃいかねえのさ。」
ジュレアナの必死の説得もむなしく、半数以上もの重傷人たちが成すすべなく殺されていく。
部屋の半分ほどの数を殺したところで、それより先に張られた壁に気付き、すぐに距離を取る。
まだ回復しきっていない魔力を絞って何とか防御魔法を張ったのだろう。
それに合わせてアンジュもその防御壁に合わせて魔法障壁を張る。
これでしばらくはこちら側に攻撃を通すどころか侵入すら出来ないだろう。
「こんな時になんて面倒な奴らがきたんですの…」
『一体こいつらはなんなの…?』
「こういうのはヴァレルお兄様が良く知ってる相手ですの…。アタシじゃ何も…。」
「…あいつらは多分、闇ギルドの連中だ。真ん中で仕切ってるアイツは手配書にあった顔の傷痕と一致している…。」
「ふーむ、これ以上は無理か。ならこうするしかねえな、おい。」
と手下の1人を呼び寄せ、人質にしていた修道女の1人を連れてこさせると
「た、助けて…」
「あー、すまんな。てめえのような女を助けるほど俺は優しくねえんだわ。ま、呪うならあいつらを呪ってくれや」
「…え」
と腹部に深々とナイフを突き刺し、捻ってから抜き放つ。
「う‥そ‥‥」
「なっ!?」
『躊躇なしに…』
「そんな…!?」
刺された部分からとめどなく血が溢れ出て、内臓部分まで出て来ようとしていたがそれをなんとか阻止しようと修道女は腹部を抑えてその場に倒れる。
「今すぐそのめんどくせえ壁を取っ払ってくれよ。じゃなきゃ目の前で1人ずつこの女どもを殺さなきゃならん。まあ結局後で殺すけど。」
「下劣な…!!」
「狙いはなんですの…!」
「勇者ってのを探してんだわ。そいつを見つけ出して殺すのが目的なんだがよ。ここに勇者がいることだけははっきりとわかってんだ。まあ別に勇者だけ寄越せっていうつもりはねえよ。全員纏めて殺せば、勇者も1人で逝くよりは心寂しくねえだろ?俺の粋な計らいってやつだ。」
「そんなの余計なお世話っていう奴ですの。」
「てめえら全員ぶっ殺して、この場にいる全員もぶっ殺せば俺の目的は達成。勇者もみんなと一緒に死ねてハッピー。一石二鳥ってやつよ」
「…ただの度が過ぎたクズですの。」
明らかに発想がイカれていることだけは確かだ。
奴の言ってる言動からして交渉する気は一切ない。
(アタシが今用意できる魔動機兵は今動かしている子だけですの。そしてこの子も残った人たちを守るための防衛に割いてるから実質アタシは動けない…。ユリアちゃんやジュレアナちゃん、アンジュちゃんも酷い怪我を負ってて戦える状態じゃない…。どうすればいいんですの…)
色々と策を巡らせているチコル。
痺れを切らしたのか、男は深くため息を付くと
「はあ~、仕方ねえ。俺はその面倒な壁を取っ払えっていったのによお、仕方ねえよなあ」
「ひ、ひい…! や、やめて…! いやだ、離して…!」
「悪く思うなよ? 恨むならあいつらを…」
ヒュン…
何か空気を切る音が静かに響く。
男は突然動きが止まり、突然膝から崩れ落ちた。
「なっ…何が…」
男自身も何が起きたのか全く理解できていない様子。
ふと自らの足を見ると、両足の脹脛の部分が内側から爆発したかのように抉れており、また腹部からも出血している。
そして続けざまにまた
ヒュンヒュンヒュン…
と空気を切る音。
そして次々と手下たちが頭を大きくもたげて吹き飛んでいく。
後頭部部分や前頭部部分が弾けて飛散している。
「一体何が起きてるの…?」
「…ヴァレルお兄様の仕業ですの。」
「ヴァレル様の、攻撃…? でも一体どこから…」
「ヴァレルお兄様の死角は一切ないんですの…。捕捉されたら最後、どこにいてもヴァレルお兄様の魔導砲で砲撃されるんですの…。」
瞬きをする間に手下は次々と死んでいく。
確実に頭のみを弾けさせ、その威力につられて体も吹き飛んでいく。
3秒も経たないうちに手下の全員が死に絶え、男の両足、両手が何らかの攻撃によって弾け、切断していた。
「いってえ何が起きたってんだ…。俺は確かに周囲に魔法探知結界を張ったはず…。それらしい反応なんてどこにも…なかった、はずだ…! くそが‥今は急いでこの場所」
そしてそれが男の最期の言葉になった。
頭と心臓部分が弾け、そのまま動かなくなった。
ジュレアナは急いでハイポーションを持って腹部を刺された修道女のもとへと駆け寄るがすでに遅かったようだった。
キーダ神父のすぐ近くにまで来ていたアンジュに手に持っていたハイポーションを投げて渡す。
「これを神父様にお願い…。彼女にはもう…必要がなくなってしまったようだ…。」
『…わかったわ。』
ジュレアナはただ悔しさに拳を握りしめていた。
だが今はそんなことをしている場合ではないと納得できない気持ちをなんとか切り替えて、生き残った人間がいないか調べていく。
殺された修道女の元に駆け寄る他の修道女たちは、未だに今起きた凄惨な状況に実感が沸かないようで、ただただ息絶えてしまった彼女らの仲間の死体を茫然と見ている。
1人の修道女が彼女の名を呼び、体を揺らし、そして声を上げて泣く。
それに釣られて他の修道女たちも涙を流し始めた。
チコルは他に仲間がいるかもしれないと、教会全体に魔動機兵を通じて防御結界を張る。
そこにヴァレルからの念話通信がチコルに入ってきた。
『無事か?』
「あたしたちは大丈夫でしたの。でも、修道女が1人、そして怪我でベッドで横になってた兵士さんたちの半数が殺されてしまったんですの…。」
『…そうか。私の支援が遅れてしまったようだ、すまない…。。』
「お兄ちゃんのせいじゃないですの。いち早くあのクズたちの気配を察知して防衛体制を整えられなかったあたしのせいですの…」
『…予備の魔動機兵は後何体出せる?』
「今出している子で最後ですの。」
『ならそのまま防御結界を張ったまま維持しているんだ。まあ他にその教会に向かう怪しそうな奴らはいないから大丈夫だとは思うが、油断はするな。』
「はいですの…」
そういうとヴァレルからの念話通信は途絶えた。
兄からの話からして敵はここにいる奴らだけらしいが、油断は出来ない。
侵蝕汚染体たちを退け、安全になった町中だからと油断した。
敵はアイツらだけではないことを、チコルはこの状況以前にも酷く経験しているはずなのに…
「…ララ、外から周囲を警戒してほしいですの。」
「ピピッ」
小鳥型の魔動機兵に指示を出し、外へと飛ばした。
これ以上油断はしない…そう心に誓って。
「ふむ、ここか。」
ヴァレルはとある町の一角に建つ屋敷の近くまで来ていた。
軽く外から屋敷の様子を見ていると、その姿に気付いた屋敷の住人のような人物が近づいてくる。
「おい貴様、ここ付近は貴様らのような冒険者たちは立ち入り禁止だ。さっさと」
と最後まで言う前にどこからか小さく爆発音のような曇った音が聞こえたと思った次の瞬間、彼の頭が突如爆発し、頭部を失った体は力無くその場にひれ伏した。
その様子を遠くで見ていた別の人物が大慌てで武器を構えようとするが、先ほどの男と同様に遠くから聞こえる小さく曇ったような爆発音の後に、自らの頭も爆発して死に絶える。
何事かと屋敷から出てきた兵士たちも、出てきた奴から順番に頭が弾けてそのまま吹き飛んで死ぬ。
外に出たら危険と判断した兵士が急いで屋敷の扉を閉めようとしたところで今度はどでかい爆発音が聞こえたと思ったら扉ごとその周囲が爆発し、その付近にいた兵士たちがミンチ状となって周囲に飛散していた。
何が起きたのか理解すらできず、ただただ仲間だけが次々と死んでいくこの事象に恐怖した兵士たちがパニック状態となり、屋敷の奥へと逃げようとする。
がそんなものお構いなしにと、屋敷の壁を貫通しながら目で捉えられないほどの速度で飛んできた何かに、兵士たちの頭に次々と貫通していき、弾け、飛散し、倒れていく。
その間、僅か1分。
ヴァレルはただただ遠くから屋敷を眺めているだけだった。
屋敷を眺めて3分ほど、ついに屋敷の方へと歩みを進めるヴァレル。
屋敷に到着し、中に入っていく。
周囲は悲惨な状況で、血に濡れた真っ赤な道が目的地まで続いている。
目的の部屋の扉前まで来て、取っ手に手を掛け、そのまま扉を開く。
中にはパニックで放心状態となり、両足を何かに撃たれたのか、使い物にならない状態で椅子に座ったままガタガタと震えていた。
「やあ、お貴族様。ご機嫌麗しゅう。」
「ななな…なぜ、お前が…ここに…」
「なぜって、あんたが私の妹に手を出そうとしたからその報復のために来たんだ。」
「ち、違う…! お前の妹には決して手出しするつもりは…」
「まああんたの目的は勇者殺害だけだしな。」
「そ、そうだ…! あの勇者だけを殺すように言われたんだ…だから俺は…」
とここで何もない空間に手を突っ込み、中から何か黒い筒状のようなものを取り出した。
一見それは銃のような形状を持った武器の先をガタガタと震える貴族の方に向けて腹部へと引き金を引く。
ズドンッ!
発射された弾は左腹部に着弾し、弾ける。
「ぐがああああああああ!!」
「拷問とか私の趣味ではないため、これ以上の痛めつけはあまりしたくないんだが…。一応聞いておこうか。雇い主は?」
「…い、言えぬ‥!そう、契約によって…禁じ、られて…ぐう…話せないんだ…!!」
「ま、そうだろうね。やっぱりそういう類の魔法か。まあ私は全て見ていたから雇い主が誰なのかは知っているんだけどな。」
「…は‥!?」
「まあ私の愛しい妹を狙った時点で、お前の運命は決まっていた。だから諦めろ。」
「い、いやだ…死にた」
ズドンッ!
今度は頭部を狙って放たれた弾は見事命中、頭がはじけ飛び、貴族は息絶えた。
黒い長銃を何もない空間へ放り投げるとそのまま消え去り、手を軽く払った後に机の引き出しを物色し始める。
「確かここに入れてたはず…、‥これだな。」
机の引き出しの中から1枚の手紙のようなものを取り出し、それを先ほどと同じく何もない空間へと投げる。
案の上、手紙らしきものはその空間内へと消えた。
「これで依頼は終わりだ。さあて、帰ったら妹ちゃんたちを励まさねばな…!」
そう浮足立ちながら、その場を後にした。
後から駆け付けた衛兵たちによって、屋敷の住民全員の殺害に関する調査を行ったところ、脱税や資金の横流し。また闇ギルドへの関与したと思われる文書も見つかり、結果として、闇ギルドたちによる何らかの報復があって殺害されたと判定された。
特になし。




