一時の休息
夕刻、そろそろ日が落ちる頃合い
「それじゃ、あたしたちはアルフさんを連れて教会にいくですの。」
「ああ。転ばないようにな。」
そういって、2m強ほどもある人型の魔動機兵をどこからか呼び寄せ、傷が開かぬ様に優しく抱き上げるとチコルは肩に乗り、アンジュとユリアを連れて部屋を出ていった。
ポーラは別の場所に行って、他にけが人がいないか探してくると別の目的を持って部屋を出ていく。
部屋に残されたヴァレルはアルフが空けた穴を通じて空を見上げる。
夕暮れに差し掛かり、赤みがかった綺麗な夕焼け空が何事もなかったかのようにそこにあった。
「……14。やけに多いな。まあ当然のことか。私のチコルたんは可愛いからな。」
夕空を見上げ、そう呟く。
何を見て、何の数なのか理解できるのはヴァレルただ1人。
「まあ十中八九、狙いは勇者だろう。だが、チコルたんにまで手を出そうとするとはな。狙いはなんであれ、チコルたんまで巻き込むとは…くくくっ。」
目を瞑り、口を歪ませる。
「私には全て見えているのを忘れたか…? 愚かな奴だ。私の可愛い妹にまで手を出したこと…たっぷりと後悔させてやろう…。」
崩壊した壁の破片が町中に飛んできたのが原因だろうか、民家や露店、通路が破片によって壊され、荒れていた。
死人は幸いにも出なかったらしいが、多くの人が瓦礫による被害が出たらしい。
教会の修道女らしき人物たちが慌ただしい様子で、けが人たちを診ていた。
チコルたちに気付いた一人の修道女が大慌てで教会内に入っていき、神父と思わしき人物を連れて出てきた。
「ああ、チコル様!よくぞいらっしゃいました。」
「キーダ神父! 今手が空いてる魔族専門の治癒士はいるんですの?」
「魔族専門…? 今お連れになってるこのオオカミ…って、かなりの重傷じゃないですか!」
「一応こっちで応急手当はしたけど、きちんと診てもらった方がいいと思ったんですの。」
「なるほど…、わかりました。ではこちらへ…」
そういって、教会内へと通される。
中はまた騒然としており、教会内の椅子はほとんど片づけられており、患者が横になるためのベッドがずらりと並べられ、その全てが満席となっている。
そのほとんどが兵士と魔術師たちで埋め尽くされていた。
奥にはベッドに腰掛けるジュレアナの姿も見える。
ジュレアナがこちらに気付き、はっとした顔でベッドから降りると少しばかり足を引き摺りながらこちらの方にまでやってきた。
「アルフ殿…ってその怪我は…大丈夫なのですか?」
『うん、ポーラちゃんたちの応急手当で一命は繋ぎ止めたって。だからもう大丈夫だって…』
「ジュレアナさん、あの時に防御魔法を張ってくれてありがとう…。ちゃんとお礼も言えてなかったから…」
「いや、全てを守れたわけではないから…。」
「それでもだよ。本当にありがとう…」
「わかった、わかったから頭を下げるのはやめてくれ勇者殿…」
素直にユリアの感謝を受けることにしたのか、笑顔で返答を返すジュレアナ。
自分がさっきまでいたベッドにアルフを置くようお願いし、キーダ神父はそれを承諾し、チコルはそっとベッドの上にアルフを優しく置いた。
キーダ神父は、
「それじゃあ診てくれる治癒士を連れてくる」
と言い残してその場を去った。
「そういえばチコル殿はなぜここに?」
「頼まれてたことが終わって、その報告に来てたんですの。そしたら丁度侵蝕汚染体たちの襲撃にあって、ここの領主があの森に救援を求めに行ったって聞いたから急いで町への防御結界の準備を進めていたんですの。」
「なるほど…、その時点でアダント殿たちが来ると見越して行動に出たんですね。」
「アネラちゃんは颯爽とアダントさんたちの援護に行く!って行っちゃったんですの。だからあたし一人で全部やらないといけなくなって遅くなっちゃったんですの…。」
「ヴァレル殿は? ご一緒ではなかったんですか?」
「ヴァレルお兄様はお兄様で、"変な動きが見えたから様子を見てくる"ってどっか行ったんですの。」
てきぱきと魔動機兵内に収納されていたアイテムを取り出して、治癒士が来るまでの間のアルフへの治療を進めていた。
それを手伝うアンジュとユリア。
あっという間に準備も進み、チコルはこの場にいるけが人全員にこのハイポーションを使うよう指示を修道女たちも含めて出していた。
『そういえば、ジュレアナさんがチコルちゃんのことを敬称で呼んでるけど…』
ふと疑問に思ったアンジュがジュレアナに問う。
ジュレアナは基本的に自分よりも立場が上か尊敬、敬愛する者に対しては敬称で呼び、言葉遣いも丁寧に敬う態度で接していた。
それがチコルに対しても同じように接していたため、違和感を感じたのだろう。
「ん?ああ、チコル殿は私より上のAランク冒険者だからな。私よりもずっと強い。」
『えええ!? チコルちゃん、Aランク冒険者だったの!?』
「そうですの。でもはっきり言えばあたし自身の実力ならば、ジュレアナには勝てないんですの」
「そ、そんな…未だに私はチコル殿に一度も勝てたことないじゃないですか…」
「2人は戦った事あるんだ?」
「ああ。冒険者ギルド内にある戦闘訓練場でな。」
そんなのあるんだー…って驚きながら作業を続けるユリアを見て、
『…確かユリアも冒険者だったよね?』
と不意に口から洩れた疑問。
それを聞いて、あははー…と苦笑いで誤魔化すユリア。
「戦闘訓練場では冒険者同士でのいざこざや実力を測るためなどの目的で使用されることが多い。また冒険者ランクを上げるためにもランク戦ってのもある。ただただ任務をこなすだけじゃ冒険者ランクは上げられないってわけだ。」
「どーりで私のランク、Fから一向に上がらないわけだよ…。」
がっくりと肩を落とすユリアを見て、ジュレアナはユリアの肩に手を置く。
「ユリアは勇者なのだろう? 別にランクを上げずともどの任務も例外で受けることができる。冒険者ランクってのは受けられる任務の受注条件に必要ってだけでそれ以外では基本的には意味はない。」
「そうなの?」
「ああ。だからユリアはただひたすら実力を高める事だけに集中すればいい。まあ、ランクを上げたいなら話は別だがな。」
「んー…、あの時に組んでもらったパーティーに引率役を御願いしてたけどこれ以上迷惑はかけられないし、これからどうするか少し考えてみるよー。」
ありがとうと感謝を述べ、ジュレアナは静かに頷く。
と同時に教会の扉が勢いよく開かれ、傷だらけのキーダ神父が中に放り込まれる様に入ってきた。
「キーダ神父様!!」
と急いで修道女たちが駆け寄るが、矢が修道女目がけて扉の向こう側から飛んでくる。
一瞬、悲鳴のような声が漏れ、死を覚悟したが矢が当たることはなく、何かしらの壁に当たって弾かれた。
ジュレアナの防御魔法による掩護で全ての矢が修道女たちに当たることはなく、防御壁に弾かれてカランと音を立てて地面へ落ちた。
「ほーう…、修道女を守るたあさすが領主の右腕様よの…」
いかにも悪者って風貌の男が入り、続けて13人ほどの黒いローブで身を包み隠す手下と思わしき者たちがなだれ込んできた。
冒険者ランクに関しての解説。
冒険者ランクは基本的に
高 S>A>B>C>D>E>F 低
の順に並んでおり、Sに近づくほど高いランクとなってます。
この辺りは大体見たことがある感じですね。
んで作中に説明が合った通り、冒険者ランクは基本的に参加する任務の条件として指定されるのがほとんどです。
なので1人でも任務に指定されているランクに達していない冒険者がいると、そのパーティー全員がその任務を受けることはできない設定です。
ただし例外が1人いて、"勇者"と呼ばれている職業の冒険者はそのランク指定の影響を受けません。
なので今のユリアのランクはF、本来ならばFランク指定のみの任務しか受けられませんが、BランクでもAランクでも、ましてやSランク指定の任務だって受けられます。
まあ受けるだけならばって感じですね。
また任務を受ける際、自分のランクー1の差の任務しか受けられません。
Bランクの冒険者は、C~Bランク指定の任務のみって感じですね。
なのでDやEランク指定の任務は受けられません。また、Aランク以上の任務も無理です。
高ランク冒険者なのに、低ランクの任務ばかりを受けて低ランク冒険者の育成を阻害してしまわないための処置ですね。
前回、オゥクロプス襲撃の任務の際はCランク以上の冒険者のみが参加可能となっていたため、1人だけBランクだったバンダルド・ドガルノフがいたパーティーでも問題なく受けられたって感じでしょうか。
んで、1人だけFランクだったユリアでしたけど勇者であったため、ランク指定の影響は受けなかったため、彼女も問題なく参加できました。
もしユリアが勇者出なければ、参加することはできませんでした。
なのでパーティーとしてはユリアを抜かして3人で任務を受ける、もしくは別の参加基準を満たした冒険者ランクの別の仲間を募集して参加しなければなりませんでしたね。
こんな感じで、私の作中の幾つかの解説も後書きに書いていくと思います。




