ディバイス攻防戦、決着
夕刻
「ちなみにジャーニーはあそこの壁の上からわたくしたちを魔法で掩護してくれるのですわ!」
と城壁の上に、1人の少女が杖を持って佇んでいる姿が微かに見えた。
杖の先端部分が赤く光り、何やら魔法陣を形成している。
「さて、この状況は非常に暴れ甲斐があるのですわ!」
アネラの持つ機械槍から常に槍の部分から魔素が垂れ流しており、まるでヴェールのように煌ていた。
それを振り回し、まるで演舞を舞うかのように煌びやかなエフェクトを演出していた。
ふとその光景に美しいと、今戦闘中であることを忘れて見惚れてしまうほどにアダントとエフィはアネラの登場に息をのむ。
『人間…いや、鬼の娘よ。ここいらには侵蝕汚染体たちが大勢いる。侵蝕汚染の速度も尋常ではないほどの速度で進行するはずだ。』
「それならば大丈夫ですわ。わたくしの能力≪空元気≫の効果で、わたくしの受けるありとあらゆる状態異常を自らの魔力に変換し溜め込むことができるのですわ! ですから侵蝕汚染の進行が進めば進むほどわたくしの力は、魔力はどんどん溜まっていくんですわ!つまり!」
機械槍を構えると垂れ流しになっていた魔素が段々と赤みを帯びていく。
それは熱を持ち始め、その量もどんどん増えていく。
その熱は更に熱く、もっと強く熱されていき、やがてアネラの周囲から煙が上がり始め、地面を溶かすほどの熱を持ち始めた。
機械槍は赤く光り始め、機械槍の先端部分がゆっくりと開き、中から銃口が顔を覗かせた。
「今のわたくしの一撃は、全てを灰燼と化す最強の炎になるんですわ!!!」
その銃口の先を雌の巨骨猿へと向け、
「喰らいなさい、わたくしの放つ渾身の一撃を…、灰燼と化せ!≪業火炎砲≫!!!」
アネラが槍の持ち手の部分を捻るとそれが引き金となったのか、銃口から放たれた自身の大きさをも大きく上回る巨大な熱線を打ち放つ。
その反動に吹き飛ばされないよう、また撃った衝撃で狙いが逸れぬように鬼人特有のその馬鹿力を持って踏ん張っている。
自分自身でも想定外の威力なのかアネラの頬に一筋の汗が流れるが、本人的にはその威力に興奮が勝っているようだった。
射線上に居た骨猿、また少し離れていた骨猿たちもその熱線の熱の余波で燃える前に次々と黒い塵となって霧散していく。
狙いとなった巨骨猿はその熱線に体全体を飲み込まれ、悲鳴を上げることもできずに灰燼と化す。
そのまま森の方へと熱線は続こうとするが、
「≪熱波壁≫!!」
町の方から聞こえてきた声。
次の瞬間には、森へと熱線が届く直前に森全体を遮断するかのように赤く光る巨大な熱気の壁が出現し、熱を分散させていく。
その熱線を吸収するたびにその壁は濃くなっていき、全ての熱線を吸収し終えた頃には激しく燃える真っ赤な壁に変貌していた。
その壁は徐々に小さな球体状へと縮んでいき、バスケットボールほどの大きさまで縮むとその球体は空高く飛んでいき、太陽と同じ位置にまで移動すると、
「≪太陽の業炎槍≫!!!」
それは一本の槍の形へと変わり、次の瞬間には首無し巨骨猿の胴体に突き刺さる。
それと同時に天高く上る強大な炎柱へと姿を変え、その中心部に居た首無し巨骨猿は炎柱に飲まれ、体が塵となって霧散していった。
後に残されたのは無数の骨猿たちのみであったが、突然町全体を覆うように白いモヤが掛かった。
それと同時にジャーニーからの遠距離による思念話術がアダントとエフィに届く。
『銀狼! 領主様からの伝言よ!防御結界が無事発動し、町全体を覆ったわ! 遠慮なくぶちかましてちょーだい!』
『オードンめ…、いつもアヤツは遅すぎなのだ。エフィ!』
エフィはすぐさまアネラを口に咥えると、急いで周囲に白い霧を出してその中に退避する。
小さな悲鳴と共に彼女らの反応が周囲から消えたのを確認し、アダントはその口を開き、首を持ち上げ、遠吠えを奏でる。
死の言葉と共に…
「≪死を告げる宣告≫」
アダントが発した遠吠えは静かで範囲はある程度抑えられてはいただろうが、防御結界の内側に居た町の住民やアルフたち、そして町の中心部にある館内に居たオードンにもはっきりとその声は聞こえた。
防御結界に強烈な衝撃が入り、結界の所々にヒビが入っていく。
そして結界の外にいた骨猿たちは、アダントの発したその遠吠えを聞いた瞬間動きが止まり、そのまま静かに消滅していく。
それと同時に町全体を覆っていたモヤは身代わりとなって、バリィン!と大きな音を立てて割れるとそのまま消滅していった。
全ての侵蝕汚染体が消滅したのを確認し、その場に静かに座るアダント。
白い霧の中からエフィとアネラは姿を現し、口に咥えていたアネラを地面へと下ろす。
アネラはその遠吠えがもたらした威力を目の当たりにしたのか、顔を真っ青にしながら耳を塞いでいた。
『…終わったか。』
『そのようですね。あの子もどうやら無事のようですし‥‥もう大丈夫でしょう。』
「ブルブル…ナニモキコエナイ、ナニモキコエナイ…ブルブル…」
よしよしとアネラを宥めるように舐めるエフィとは裏腹に、アダントは独り深くため息を吐き、浮かない表情をしていた。
アダント自身、今回の侵蝕汚染体戦で若干の焦りを感じていた。
いい機会だとアルフやアンジュ、ユリアを連れてきたものの2体もの大型侵蝕汚染体は予想できずにアルフたちへの侵蝕汚染による大きな負担と、命の危機に晒してしまったこと。
イレギュラーな事が立て続けに起こったことに対して、本来ならばすぐさま対応できていたはず。
だが、アルフが侵蝕汚染体の一撃を受けて瀕死の重傷を負ったことに親として焦りと絶望を感じてしまった。
『…これが親として、父として感じる弱さ…なのだろうか。』
誰に対しても向けられていないこの思念は、誰にも聞かれることはなかった。
ただエフィだけはその気持ちを察して、アダントの傍に寄り添う。
『我が息子がアヤツの攻撃を受け、吹き飛んでいった光景を見た時、…我は、大事な我が子を失ってしまったあの時の絶望を思い出してしまった…。また大事な我が子を失ってしまうのかと…』
『…そうですね。私もです、あなた。子を守る親として、まだまだ私たちは経験不足なのかもしれません…。これからそうならないために…共に、強くなって、強くあっていきましょう…、あなた。』
『………ああ。』
2匹の思いを余所に、アネラは未だに体を小さくするように座りながら耳を抑えてガクガクと震えていた。
「ナニモ…キコエナイ…ワタクシハ…ナニモ…」
アネラの持つ能力≪空元気≫に関する詳細
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≪空元気≫ パッシブスキル
自信に影響を及ぼす全ての状態異常の効果を無効にし、自身の魔力へと変換し溜め込むことができる。
ただし一定量以上もの魔力が溜ま込んだまま、さらに魔力へと変換を続けると魔力爆発を起こし、自らのHPの8割ものダメージを喰らい、またしばらくの間魔力を使った攻撃ができなくなる。
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